見出し画像

第3話:診断書と算盤(そろばん)

〜医師が「ビジネスマン」に変わる時〜


「診療点数」で命を測る、診察室の不都合な真実

【序章】「人を救う場所」で、私は記号になった

心に深い傷を負い、眠れない夜を数え、ようやくの思いで心療内科のドアを叩く。そのとき、私たちが求めているのは、専門家による「救い」であり、傷ついた魂への「共感」です。

しかし、診察室で待っていたのは、想像を絶する言葉でした。
「うちは大人の診療点数が低いんだよね。困るんだよ、他で予約が取れないからって来られても……」「他の医院、しっかりやってくれないとな〜」
私にはそんなこと関係ない話だし、私にいうこと自体がおかしいですよね。

医師の口から漏れたのは、私の苦しみに対する言葉ではなく、「経営上の損得」という冷血な算盤(そろばん)の音でした。 今日は、なぜ精神科や心療内科の診察が、これほどまでに簡素で、冷淡で、事務的なものに成り下がってしまったのか。その「医療のバグ」について、怒りを持って綴りたいと思います。


【本記事の目次】

  1. 「傾聴」はコストであり、「投薬」は効率であるという現実

  2. 3分診療の正体 〜医師はあなたの「物語」を見ていない〜

  3. ビジネスマン化した医師にとって、患者は「回転率」の一部

  4. 「他院への愚痴」が透かして見せる、医師のプライドと保身

  5. 治療家がいなくなった診察室で、私たちはどう生き抜くか

  6. 「点数」で測れないあなたの価値を、自分だけは信じ抜く


1. 「傾聴」はコストであり、「投薬」は効率であるという現実

カウンセリングの現場で私たちが大切にしている「傾聴」。相手の心の奥底に触れ、共に痛みを感じるそのプロセスには、膨大なエネルギーと時間が必要です。 しかし、今の医療診療報酬制度において、医師がじっくりと話を聴くことに付く点数は驚くほど低く設定されています。

医師にとって、時間は「コスト」です。一方、マニュアルに沿った短時間の問診と「投薬」のセットは、極めて「効率的」なビジネスモデルになります。私たちが流す涙よりも、処方箋を一枚切るスピードの方が、病院の経営を支えているという残酷な矛盾がここにあります。

2. 3分診療の正体 〜医師はあなたの「物語」を見ていない〜

なぜ、医師は私たちの傷の深さを探ろうとしないのか。 それは彼らが、あなたの人生という「物語」ではなく、不眠や抑うつといった「症状のデータ」しか見ていないからです。

医師の仕事は「診断名をつけ、薬を出すこと」に特化させられています。そのため、ハラスメントの理不尽さや、職場の狂った構造についてどれほど訴えても、彼らの耳には「環境調整が必要な重症度かどうか」という判定基準としてしか届きません。そこに魂の共鳴(共感)が生まれないのは、彼らが「人を診る」のではなく「病気を分類する」作業をしているからです。

3. ビジネスマン化した医師にとって、患者は「回転率」の一部

「うちは子供がメイン。大人は週3日だけ」 ドクターが放ったこの言葉は、患者のニーズではなく「いかに自分たちのスタイルで効率よく稼ぐか」という経営方針の宣言です。

診察室は聖域ではありません。利益を追求する「店舗」の一部と化しています。 患者がどれほど切迫した状況で訪れようとも、ビジネスマン化した医師の目には、一日の「回転率」を構成する一つの数字としてしか映っていないのです。

4. 「他院への愚痴」が透かして見せる、医師のプライドと保身

「他の医院もしっかりやってもらわないと、困るんだよね……」 患者を前にしてドクターが独り言のように漏らした他院への不満。これこそが、医療現場の機能不全を物語っています。 そこにあるのは患者への心配ではなく、「面倒な案件を押し付けられた」という自分勝手な被害妄想です。

互いに責任を押し付け合い、自分たちのテリトリーを守ることに汲々とする医師たち。彼らの目線の先には、苦しんでいる「あなた」の姿は微塵も存在しません。

5. 治療家がいなくなった診察室で、私たちはどう生き抜くか

かつて、名医と呼ばれた人々は「病気ではなく人を診る」治療家でした。しかし、今のシステムは治療家を淘汰し、効率的なビジネスマンを量産しています。

もし、あなたが訪れた病院で「わかってもらえない」と絶望したのなら、それはあなたが悪いのでも、あなたの病が特殊なのでもありません。単に、あなたが訪れた場所が「命を扱う場所」ではなく「点数を計算する場所」だったというだけです。 そんな場所に、あなたの尊い心を預けきってしまう必要はありません。

6. 「点数」で測れないあなたの価値を、自分だけは信じ抜く

医師に「点数が低い」と言われたとき、あなたの価値が下がったわけでは決してありません。 算盤を弾くドクターに、あなたの138億年の命の輝きが見えるはずがないのです。

既存の医療システムがバグを起こしているのなら、私たちは別の「救い」を探すべきです。 文章を書くこと、信頼できるカウンセラーと話すこと、そして「この医者は私の人生の責任を取ってくれない」と割り切り、賢く制度だけを利用すること。

あなたの心の深淵は、あなた自身が一番よく知っています。 医師という名のビジネスマンに魂を明け渡してはいけません。あなたの物語の主導権は、いつだってあなた自身の手にあるのですから。


【次回予告】 第4話では、さらに高い「壁」の正体に迫ります。「労災認定の『見えない壁』 〜歪んだ物差しで測られる痛み〜」。なぜ心の傷は、身体の怪我のように認められないのか。そこにある、国と組織と医師の「共謀」を解き明かします。

いいなと思ったら応援しよう!