見出し画像

向日葵の迷路にて~ショートストーリー【風まかせ文芸部】


恋人の綾香あやかが、次のデートは高原の『ひまわり迷路』がいいと言った。
「一面ずっと向日葵の丘なの。きっときれいよ~。ねぇゆうくん、行こうよ」
来週はもう八月に入る。
俺は正直言うと、この暑いのに外になんか行きたくない。
涼しい屋内がいいのだが、綾香は花が好きなのでしょうがない。
俺は職場での綾香のちょっとした心遣いや温かい言葉に惹かれて告白し、四月からつきあうようになった。
花が好きで優しくて、でも天然というのか少し抜けたところもあるのがまた可愛い。

土曜日、快晴。車を走らせて高原に着いた。
青空の下、小高い丘に咲き揃った向日葵は、風に吹かれて黄金こがね色の波のようだった。確かに壮観だ。
向日葵の丘をバックに、綾香と俺の写真を自撮りした。
俺はもういいかと思って車に戻ろうとしたが、綾香は無邪気に帽子をかぶり
「じゃ、どっちが早く迷路を出られるか、競争ね!」
と、迷路入口へ駆けて行ってしまった。

「迷路って……子どもの遊びじゃねぇか」
左手を迷路の壁に付けて進めば必ず出られる。
いくら俺より背の高い向日葵に囲まれているからって、道に迷うことなんかないはずだ。ないはずだ。ないはずだが……あれ?
おかしいな。さっきここ通ったぞ?
すぐ車に戻るつもりだったから、帽子も飲み物もない。
じりじりと太陽に照らされて汗が噴き出す。

「何やってんのよ」
聞き覚えのある声がして、一瞬意識がなくなった俺の腕を、細い腕がつかんだ。
「……清海きよみ
去年までつきあっていた清海だった。
「帽子とか水とか持ってないの?どうせ、早く車に戻るつもりだったんでしょ」
「さすがよくご存じで」

清海とは三年ぐらいつきあっただろうか。
正直で、思ったことをずけずけと言う清海。
裏表のないところが好きだったが、長く一緒にいると、その率直さが時々辛くなった。
あえて黙っているとか、ちょっと我慢するとか、そんなことが必要な時だってあると思うのだ。

「……てか、清海どうしてここにいるんだよ」
俺と別れてから、隣県で仕事をみつけて引っ越したと聞いていた。
「いいじゃん。土曜休みなんだから」
清海は大胆にも俺の背中にぴったり抱きついてきた。
「お、おいやめろよ」
もし綾香に見つかったら……
「新しいカノジョにバレたら大変だね~」
清海はうろたえる俺の尻ポケットからスマホを取り、勝手にツーショット写真を数枚自撮りする。写り具合を確認してにんまりと笑い、ついでにスワイプして綾香との写真を覗き込んだ。
「な、何すんだよ」
「んー、可愛いカノジョ。おとなしそうで優しそう。
祐、あたしが言いすぎるといつも渋い顔してたもんね。気遣いができる人がよかったよね」
「……」
全部お見通しだ。なんも言えねぇ。

「いい人が見つかってよかったじゃん。大切にしなよ。じゃ」
清海は迷路の壁ーー向日葵の花の間に入って行った。
「おい、そっちに行くのかよ?道じゃないだろ?」
清海はもうこちらを向かなかった。


「祐くん」
一瞬意識がなくなった俺の前に、綾香がいた。
「祐くん全然ゴールしないから、探しに来たんだよ」
と、口をとがらせる。
「ああごめん。ちょっとぼうっとして…熱中症かな」
「えっ大変、大丈夫?」
綾香はバッグからマグボトルを出して俺に渡す。
蓋を開けて口をつけると、冷たい麦茶が喉を潤した。
「あー生き返った。ゴメン、全部飲んじゃった」
「ひどーい」
綾香は笑って俺の腕をたたく。
その拍子に俺のスマホが地面に落ちた。
フォトアルバムが表示されている。やばい……
そして、俺より先に綾香がスマホを拾ってしまった。

「この写真……」
綾香が目を見開く。
「祐くん、自撮りしたの?」
「え…」
綾香が差し出したスマホに写っていたのは、

向日葵迷路の中で、あわてた顔をした俺一人の写真だった。


何か間違って押しちゃったのかなー、と言い繕った。
実は清海はああ見せかけて、俺一人だけの写真を撮っていたのか。
いやそんな気配りをするヤツじゃない。
清海が見直していた写真は確かに俺とのツーショットだったのだ。


その夜遅く、友人からLINEが届いた。

(一応知らせるけど、清海ちゃんが昨日、急病で亡くなったんだって)






(1660字(ルビ除く))


=====
#風まかせ文芸部 に初参加いたします!



=====
【今日の画像】みんなのフォトギャラリーから。
「ひまわり」で検索。
顔を並べて整列しているひまわり、元気をもらえますね。


いいなと思ったら応援しよう!

kao ありがとうございます! 大切に使わせていただきます✨😌✨