老人は大食いを夢見る
父と母は、大食い番組が好きだ。
テレビの中で、若いタレントが巨大なトンカツにかぶりついている。
「見て!」
「あんな大きいトンカツ!」
「ご飯五合だって!」
「よくあんなに食べられるねぇ」
ふたりは大喜びだ。
しかもそのとき、ふたりは夕飯を食べ終えている。食後の果物も食べて、お茶も飲んで、もう十分お腹いっぱいのはずなのに、テレビの中で誰かがバクバク食べている姿を、食い入るように見ている。
「すごいねぇ」
「若いねぇ」
「このペースならいけそうだな!」
なんだかスポーツ観戦みたいだ。
私は正直、大食い番組が苦手だ。
何が楽しいのか、よくわからなかった。人が食べている姿を見て、そんなに喜べるものなのだろうか。不思議だった。でも最近、少しだけわかる気がしてきた。
父も母も、昔ほどたくさんは食べられない。硬いものは少し苦手になった。脂っこいものも、前ほどは食べられない。好きなものを好きなだけ。
若いころみたいにはいかない。だから、テレビの中の人に代わりに食べてもらっているのかもしれない。
「おいしそうだねぇ」
「すごいねぇ」
と言いながら。
戦後すぐに生まれた人たちにとって、
お腹いっぱい食べることは、きっと特別なことだった。
おいしいものをたくさん食べる。
それは贅沢で、幸せで、夢みたいなことだった。だから今でも、山盛りのご飯を見て目を丸くして、「すごいねぇ」と笑う。その顔は、どこか子どもみたいだ。
食べることが、うれしい。
その気持ちは、ずっと変わらない。
私は相変わらず、大食い番組の面白さはよくわからない。でも、隣で「おいしそうだねぇ」と笑っているふたりを見ていると、まあ、それも悪くないかと思う。
テレビの中で誰かがバクバク食べて、
それを見て老人が喜んでいる。
なんだか平和な夜だ。
今日のひとこと
人の大食いを見て喜べるうちは、まだまだ元気。
