透明なままでいられる|抽象画を描くこと
役割を服のように着て、時間が来たら脱ぐこと。
それが、私にはうまくできない。
ずっとうまくできなかった。
一度着た役割が、ずっと残る。
会社員の服も、先生の服も、母の服も、娘の服も、簡単には脱げない。
期待されたことや、評価されたことが、ずっと残る。
だから私は、抽象画を描いているのかもしれない。
抽象画として描かれたものには、まだ役割がない。
これは何ですか?と聞かれても、すぐに答えなくていい。
花でも、風景でも、模様でも、物語でもないまま、そこに置いておける。
色は色として、線は線として、形は形として、まだ名前を持たないまま存在できる。
私にとって抽象画は、役割の前の場所なのだと思う。
社会の中で、私はすぐに輪郭を持つ。
画布の前でだけ、まだ透明なままでいられる。
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