【#私のプレイリスト】 血の匂いとクリエイティブ | スワロウテイルの羽根やすめ
「#私のプレイリスト」というタグを掲げるとき、私たちはシンプルに好きな曲を並べていいわけではないと思う。
それは、誰にも見せない秘密を打ち明けるような、静かな儀式のはず。
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かつて(今も)、新宿にあるジャズ喫茶「DUG」を深く愛していた。 村上春樹著『ノルウェイの森』において、緑とワタナベが待ち合わせ、緑が静かに煙を燻らせたあの場所だ。緑はいつもここで一服するし、私もここで(随分と前の話になるけれど)だいたい一服した。
カウンターの隅には、「GO SMOKING」と記された小さなサインが、誇らしげに、けれども慎ましく佇んでいた。それは、清潔な正義が幅を利かせる現代では考えられない姿勢だったと思う。
店内に沈殿する紫煙と、ただただバーの湿度を整えるためだけに流れてくると思える、重厚かつ大音響のジャズ。
私はいつも、周囲の世界の速度についていけなくなると、つまりは生きづらさを感じると、この地下の聖域へと逃げ込んだ。
地下へと続く階段を下りれば、もう誰も追ってはこない。
私を縛り付ける現実は、ここまでは届かない。

話は飛躍する。
烟草という嗜好品の銘柄選択は、時に雄弁な自己呈示として機能する(と、思う)。
アメスピを選ぶひとは、どこか美意識の芯が通ったお洒落な人。マルボロを選ぶひとは、何か自分の譲れないものを重んじている人(譲れないものは人によって違う、ちなみに私はここにジャンル分けされる)。ラークを選ぶ彼の持つ、衒(てら)いのない素直さ。セブンスターを吸う彼女の、どこか遠くに、いつかアンチテーゼ(それも人によって違う)を投げ入れてやろうとするあの気配。
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灰皿に置かれた一本の煙草が、音もなく短くなっていく。その数分間の猶予だけが、私の世界を停止してくれる気がした。
【globe : Anytime smokin' cigarette】

メンソールは / IN MY BAG 奥に隠れてる / 法律で許して / くれてるものだし / 100円玉2個と / ほんのちょっとで / 1時間くらいは / It could be allright
暑いのは誰のせい / 邪魔なとき / 1人になるしかないから
口に出さずに / 消えてゆくそして / Smokin' the cigarette
煙草の煙に / 乗って / もうちょっと休ませて
イライラしてるんだね / なんて / 不思議のない世界
別に怖くない / 淋しくもなければ / 怖くもない
このリリックで語られるていることは、状況の好転では決してないと思う。
一本の煙草が灰へと還るまでの数分間、自己を「一時停止」させることができるということ。その猶予だけが、大嫌いな世界との再接続をしかたなく可能にする。
【安室奈美恵 : SWEET 19 BLUES】

もうすぐ大人ぶらずに / 子供の武器も使える
/ いちばん / 旬なとき
/ さみしさは昔よりも / 真実味おびてきたね / でも明日はくる
自分だけで精一杯 / それでもそれなりに見える / タバコの煙をかきわけ音にうもれて / いちばんとりえが何か教えてあげなきゃならない / あの子やあいつ
ふと鏡に映る自分を見つめれば、十代特有の「言葉にならない焦燥」がまだこんな私にもしつこく、いやったらしく張り付いていることに気づく。
十九歳の頃の、誰も悪くないのに、何かに追い詰められているような焦燥。あの根拠のない悲しみ。
ホントウは、不幸でもなんでもなかったはずなのに。
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いつか近いうちに、子供の純真なイノセンスは「冷酷な社会の要求」と衝突する。そこには逃れようのない不可避な摩擦熱が生じる。
その摩擦熱に、この瞬間、身を焦がしてしまっている人はいますか。
今、この瞬間に自分をもしも、身を焦がしすぎて自身を粗末にしてしまっている人がいたら、もう、それはよしてほしい。心からお願いします。
できないことは周りの人を頼っていい、叶わないことは他人にゆだねてお願いすればいい、自分をもっと甘やかして、もっともっと自分を許してあげていい。
自分を磨耗している人がいたら、周りの大人を頼って、だいじょうぶ。信頼してあげてよ。
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Shift + Enter
ジャズの重低音にただただ私の思考を塗り潰させるままにしておく。
DUGの闇の中で吐き出す煙は、私のエゴそのものだ。
あの時、私を救ってくれたのは、ただ地下へ続く階段と、深い椅子と、一本の煙草だった。誰にも理解されず、誰にも分け与える必要はない。
【yen town band : swallowtail butterfly あいのうた】

ママのくつで速く走れなかった / 泣かない / 裸足になった日も
逆さに見てた地図さえ / もう / 捨ててしまった
心に心に魔法があるの / 嵐に翼(はね)ひろげ 飛ぶよ
私はうわの空で / あなたのことを想い出したの
/ そしてあいのうたが響きだして...
/ 私はあいのうたで / あなたを探しはじめる
「あいのうた」を歌うCharaの声は、壊れやすい子供のように無防備。
その歌声は、私がずっと、うちゃっておいた「置き去りにしたイノセンス」そのものだ。
ママのくつで速く走れなかった。
「ママのくつ」とは、これから社会から押し付けられるであろう「大人としての役割」の象徴。
「速く走れない」と認めること = 弱さの告白。まだ自分が子供で弱い存在なのだと歌っている。
私もまだ、ママのくつで走れない。到底、速くは走れそうにもない。
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Shift + Enter
最後に、生き残る術(スベ)について。
エゴを死守するという行為は、一つの高度な生存戦略であると思う。

「ママのくつ」を脱ぎ捨てた後に残る、裸足の自分。その無防備な自分が、必死で守り抜こうとした、あの「エゴ」の正体。
ダサイ自意識を貫き通すこと――その『愚かさ』は、生存のための不可欠な規範だ。
私たちが最後に縋るのは、自ら選び取った愚行。
逆さに見てた地図さえ / もう / 捨ててしまった
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——独白。思考の記録、あるいはささやかな呼吸。また次回に。
出典
記事キービジュアル:
「スワロウテイル」 場面写真 (c)SWALLOWTAIL PRODUCTION COMMITTEE
globe : Anytime smokin' cigarette:YTより抜粋
安室奈美恵 : SWEET 19 BLUES:YTより抜粋
yen town band : swallowtail butterfly あいのうた:YTより抜粋
