もしも不吉な予感がしたのなら【八〇〇文字の短編小説 #9】
ノーマンは思い出す。もう十年以上も戻っていないグラスミアにまつわるささやかな記憶だ。二十年ほど前の風の冷たさを、いまだに覚えている。
ケイティの十四歳の誕生日だった。学校が終わったあと、ケイティの家に寄った。ノーマンはケイティに誕生日プレゼントを買っていた。ケイティはポップスに目がないと聞いていたし、母親の影響でCDではなくレコードをたしなむことを知っていた。だから、もう何カ月も前からとびきりのレコードを選んであげようと考えていた。
季節が秋に変わろうとしていたころ、丘の上にあるユースホステルで働く兄のダグラスに会いに行ったとき、受付のラジオから子どもたちの声と跳ねるようなピアノの音が聞こえてきた。美しい曲とは裏腹に「死」という言葉が出てきて不吉な感じがした。それでも、「もしも不吉な予感がしたのなら、牧師さんのところに行きなよ」と淡淡しく歌われる歌詞に引きつけられた。バンドの名前はベル・アンド・セバスチャンで、もうすぐ『If You're Feeling Sinister』というアルバムが出るらしい。ノーマンはその一枚をケイティにプレゼントしようと決めた。
発売日当日、ノーマンは学校をさぼって電車で一時間ほどかけてケンダルの街まで行き、レコードを手に入れた。赤いジャケットの写真に使われている物憂げな女の子がどことなくケイティに似ている気がした。
ケイティの部屋でレコードに針を落とす。四十分あまり、二人は黙って耳を傾けていた。レコードが終わると、ケイティが「夏の水しぶきみたいなアルバムね。気に入ったわ」と言い、ノーマンはこの上ない幸せを感じた。それから外に出て、二人はロゼイ川のほとりを歩いた。ノーマンはケイティのことが好きだったし、ケイティからの好意を感じてもいた。でも、お互いに口にはしなかった。不意に冷たい風が吹き、ノーマンはこの時は永遠には続かないのだと不吉な気持ちになった。
◤完全版は以下の短編小説集で読めます◢
