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波打ち際にて【八〇〇文字の短編小説 #29】

秋の夕暮れ、防波堤に座るパティは波打ち際を楽しそうに行き来する少女を眺めていた。動くたびに長いブロンドがなびき美しい。少し離れた場所で紫色のアノラックをまとった少年が笑いながら少女を見守っている。二人ともティーンエイジャーになったばかりくらいだろうか。

パティの心に半世紀も前の記憶がよみがえる。わたしたちも──自分とブライアンという意味だ──同じような時間を過ごしていた。十五歳から十七歳までのあいだ、わたしたちは恋人同士で、生まれ育ったボーンマスの砂浜をよく並んで歩いた。あの少女と同じように寄せては返す波の間際ではしゃぎ回ったこともある。ブライアンがびしょ濡れになって、二人で大笑いした。

そして突然、ブライアンは離れていった。「ロンドンで働く」と別れの言葉も言わずに街を出ていった。しばらくは手紙のやり取りを続けていた。けれども、一カ月、二カ月、三カ月と間隔が開き、やがて手紙は届かなくなった。気づけばパティは大学を卒業し、小学校の教師となっていた。ブライアンのことを忘れては思い出しながら、歳を重ねてきた。

そのあと、恋愛をしなかったわけではない。ただ、縁がなかったのか、結婚はしなかった。独り身のまま六十歳を過ぎた。教師はやめた。独身生活は気楽だけれど、ときどきさみしい。

最近、ブライアンの夢をよく見る。あのころのままのブライアンがこちらをじっと見つめていたり、砂浜に寝転んで空を眺めたり、ゆっくりと煙草をくゆらせたりしている。けれども、何も言ってくれない。パティは目覚めるたび、ブライアンはまだ生きているのか、もう生きていないのかと考え、胸がかき乱される。五十年も前の記憶に翻弄される自分を情けなく思ってしまう。

もう顔も手もしわくちゃだ。だからこそ、若さという無敵さを存分に謳歌するあの少女と少年がまぶしく感じる。そう思って海岸に目をやると、二人の姿はもうない。波の音が大雨のように聞こえる。

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