幼なじみだけれど【八〇〇文字の短編小説 #21】
リズがミックと出会ったのは三年ほど前だ。幼なじみのローレンスが紹介してくれた。同じ出版業界だから話が合うんじゃないか。四歳からの付き合いのローレンスはそんなふうに言っていた気がする。
ミックはいくつものロングセラーを繰り出してきた腕利きの編集者だという。「見た目は野生味と上品さを兼ね備えたユアン・マクレガーだ」とローレンスはメールを打ってきた。リズは「嫌いじゃないわ」と返信した。
初めて会ったのはピカデリー・サーカスのイタリア料理屋だ。ミックは同僚のケイトを連れてきた。サイドを軽く刈り上げ、美しい扇の形をした額を自慢げに見せるようになでつけた髪型は知的さを感じさせ、実際にミックは豊かな教養を携えていた。ジョン・ミルトンの『失楽園』について、保守党の問題点について、ケン・ローチの映画の魅力について話した。「mail」と「male」をかけた言葉遊びで場を盛り上げるなど、ユーモアも持っていた。
リズはすっかりミックに魅了され、二人は連絡先を交換した。別れてすぐにリズが「今日は楽しかったわ。また会いましょう」とメールすると、ミックは「明日はどう?」と返してきた。
翌日、二人はオックスフォード・サーカスで落ち合い、日本食レストランでディナーを楽しんだ。店内に流れる音楽が気になっていると、ミックがボブ・ディランの「川の流れを見つめて」という曲だと教えてくれた。
しばらくしてミックから交際を申し込まれ、リズは快く受け入れた。すぐにメールで知らせると、ローレンスは「おめでとう」という祝福に、「実はこっちはもうケイトと付き合っているんだ」と加えてきた。
リズは自分のなかに湧き上がる感情に折り合いをつけられなかった。ローレンスは大好きな昔からの友人だ。一度も恋心を抱いたことはないと思う。けれども、ゆっくりと言葉を分解していくと「大好きな」という形容詞だけが残り、あるいは自分は嫉妬しているのかと胸が詰まった。
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