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真夏の未練【八〇〇文字の短編小説 #39】

九月になったばかりの日曜日の夕暮れ、わたしは二年前の夏を思い出し、一年前の夏を思い浮かべている。ワンルームのアパートに頼りなく西陽が差し込む。今日は一日、本を読んで過ごした。ハナ・ネドヴェドの『永遠の一日と、一瞬の一日と』という短編集に感動した。

忠信はいま何をしているのだろう。取材先で知り合った。ある大手総合不動産企業の採用サイトをつくるにあたり、なじみの広告代理店の指揮のもと入社2年目の設計士にインタビューをした。写真撮影のあと雑談をしていると、出身大学が同じだということがわかった。わたしが何年か先輩にあたる。その夜、控えめにフリーライターとして活動しているわたしのもとに熱っぽいメールが届いた。二年前の夏の話だ。

それから積極的なアプローチを受け、ほどなく恋人同士になった。どこに引かれたのかはわからない。恋愛は磁石のように、と言ったらずいぶんと陳腐だけれど、その感覚に近い。わたし自身、しばらくボーイフレンドがいなかったし、人恋しい気持ちは間違いなくあった。実際、心だけじゃなくて体の相性も悪くなかったと思う。すぐに半同棲を始め、よく体を重ね合った。

なつかしさが込み上げる。でも、別によりを戻したいわけじゃない。別れを切り出したのはわたしのほうだ。

一年前の夏、ふとした出来事がきっかけだった。夏のある日、なんの予感もなくわたしの心の糸が切れた。二日酔いで日曜日の朝に起きた忠信は、「おはよう」という私のあいさつに、どういうわけかため息を返してきた。その瞬間、わたしの心からも文字どおり空気が抜け、終わりを確信した。その日の夜、さようならを告げた。わたしに迷いはなかった。

だから、よりを戻したいわけじゃない。それなのに、二年前の夏を思い出し、一年前の夏を思い浮かべている自分を不思議に感じる。真夏の未練のように窓の外で蝉がジッと一回鳴いて、わたしは聞こえないふりをする。

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