SPARKLE ―あの夏のカセットテープ―
あの頃の夏。
本棚には吉田まゆみの『アイドルを探せ』。
漫画の中には、自分より少し上の世代の青春があった。そのお洒落な世界観に強く憧れながら、私は背伸びをしたい年頃の夏を過ごしていた。
免許を取ったばかりの美希が運転するのは、パパに買ってもらったばかりのブルーのファミリアだ。ピカピカの青いボディに湘南の強い陽射しを受けながら、私たちは窓を全開にして海岸線を目指している。
カセットデッキが飲み込んだのは、山下達郎の『FOR YOU』。
一曲目、あの完璧なカッティングギターが車内に響いた瞬間、何かが始まりそうな予感に胸が躍る。
🎼 SPARKLE
国道134号線を走ると、サイドミラーに映る陽炎(かげろう)も、すれ違うバイクの排気音も、すべてが軽快なリズムに乗って過去へと流れていく。カセットがガチャンと音を立てて止まると、助手席の奈緒美がテープを裏返した。
🎼 LOVELAND, ISLAND
膝の上には、先ほど隣の朋子から返されたばかりの、吉田まゆみの『アイドルを探せ』。
「面白かった、ありがとう!」
という声と一緒に戻ってきた単行本は、夏の光を吸って少しだけ熱を持っていた。
「ねえ、見て! 海が見えた!」
誰かの叫び声に、みんなで一斉に身を乗り出す。
潮風に混じってどこからかコパトーンの甘い香りが漂い、車内は弾けるような笑顔であふれていた。

けれど、ふとした瞬間に、私は彼のことを考えている。
彼は今日、バイトだと言っていた。本当は毎日だって会いたいけれど…。
そんなもどかしささえも、真夏の熱気に溶けて消えてゆく。
悩みも不安も、ボリュームを上げた音楽とみんなのはしゃぎ声にかき消されて形をとどめない。
この夏は永遠に続くのだと、誰もがそう信じていた。
あとがき
当時の海辺ではいつだって山下達郎が流れてた。
大好きだったのに、手放してしまった『アイドルを探せ』
数年前にメルカリで手に入れたものの、こうして写真で活躍することになるとは思ってもみませんでした(*ˊᵕˋ* )
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