崎陽軒「シウマイ弁当」を書いた記事はたくさんあるのに、「シウマイ弁当」の声が聞ける記事がないのはなんで?
神奈川県民だから、崎陽軒の「シウマイ弁当」とは昔からの付き合いだ。
そんなわけで最寄り駅で「シウマイ弁当」を買ったんだけど、ふと思ったんだよ。
日本一売れてる駅弁といわれるだけあって、いろんな人がいろんな媒体で「シウマイ弁当」のことを書いてる。本まで出ているほどだ。ところが、「シウマイ弁当」を書いた記事は溢れているのに、「シウマイ弁当」の声が聞ける記事は見たことがない。当事者の声がないなんて、不思議なことではないか?
そこで、オレは早速、買ってきたばかりのシウマイ弁当の蓋を開けると、マイクを突きつけた。

最初にインタビューに答えたのは、シウマイ弁当の「顔」ともいえる「シウマイ」さんだ。
「こんにちわ、シウマイ弁当でメインをはってるシウマイです。正式名称は『昔ながらのシウマイ』っていうんですけどね。それが、ちょっとコンプレックスでして。昔からあるから『昔ながらのシウマイ』。でもね、私自身は今朝、工場で生まれたばかりなんですよ。いや、わかるんですよ。でもね、自分自身のアイデンティティが剥奪されてる気がして。私にしてみれば、『あなた達の方が昔ながらのホモサピエンスでしょ』ってなるんですが、それは言っちゃいけないんです。だってイメージを保つのが主役の務め。冷めても美味しい、ホタテがポイントっていうチャーミングな顔だけを、いつも見せなきゃいけない。五つ子ですが、一人でも疑問を持っちゃいけないんです。私は自分は何者なんだろうと悩みながら、蓋を開けられる瞬間を待っているのです」
2番手は多くのファンをもつ「筍煮(たけのこに)」さんです。
「筍煮です。世間的には準主役的な立ち位置ですけど、それはモノサシが違うからじゃないかな。シウマイ弁当っていう商品名だから、主役はシウマイだと思われてる。そんなのはレッテルですよ。レッテルを貼った瞬間に、個人は判断を放棄して、自分のモノサシを捨ててしまう。自分の頭で考えなきゃ。本当にシウマイが食べたいなら、単品で買えばいいですよね。それにシウマイ好きの人が、弁当に入ってるたった5個のシウマイで満足しますか? オレは、正直、狙ってますよ。主役の座をね。あまり知られてませんが、実際になったこともあるんです。その時の売り上げ? どうだったかな。それよりもまず、シウマイ弁当を買ったのは、実は筍煮が食べたかったんだってことを自覚してくれなきゃ」
3番手は「俵ごはん」さん。マイクの前の「マグロさん」を押しのけての登場です。
「俵ごはんです。黙ってるわけにいかないんでね。出てきましたよ。どうにもわかってらっしゃらない。いや、あなたのことじゃなくてね。オカズ連中のことですよ。弁当の仕切りのあっち側の連中のこと。あなた、弁当の成立条件ってわかります? ごはんがあることですよ。ごはんがなきゃ、弁当にはなりません。そして、仕切りのこっち側には、俵ごはんがいて、梅干しも乗っている。実はこれだけで、梅干し弁当としては成立してるんですね。つまり、弁当のインフラなんですよ。オカズ連中は、そのインフラの上でごちゃごちゃ言ってる。シウマイ弁当は、あくまで弁当なんですよ。だから主役は…わかりますよね?」
4番手は「あんず」さん。次に控えていた「マグロさん」からマイクを奪い取りました。
「あんずです。主役争いなんて見苦しいことです。個人の好みなんてそれぞれですからね。誰が主役でもいいんです。ただ、シウマイ弁当の構造を知っておいてください。いいですか、弁当には『広さ』と『深さ』があるんです。蓋を開けて、いろんなオカズが並んでいる。わぁって思いますよね。どこから食べようかなって。それが弁当の『広さ』です。しかしオカズの中で、もっとも悩ましいのが私です。オカズといえばオカズだし、デザートといえばデザート。どのタイミングで口にすればいいか迷う。あんずは、シウマイ弁当に迷宮を持ちこんでいます。これが『深さ』です。正解がありそうでない。食べ手は、哲学を迫られる。シウマイ弁当に『深み』を与えているのが私なんです」
えぇ、インタビュー時間は限られております。ここからはグループを二つに分けましょう。最初のグループは、「シウマイ弁当じゃなければ主役だったオカズさんたち」のグループ。マグロさん、唐揚げさん、卵焼きさん、蒲鉾さんです。
「マグロです。私ね、俵ごはんさんや...」
「先に喋らせてもらいますね。唐揚げです。唐揚げにはポテンシャルがあるんですよ。一般の弁当屋なら『からあげ弁当』は売れ筋。そういうローカルな場なら、私は主役だったんです。正直、チームを間違えたなと思ってます。ワールドな場に来ちゃって」
「マグロです。あの...」
「卵焼きです。卵焼きはね、昔から、弁当界で院政を引いてるんですよ。どんな弁当にも必要とされる。すき間を埋めてるんじゃないですよ。それが本物だと思うんです。親しみのある権威なんです」
「蒲鉾です。蒲鉾って、普段はあまり食べないけど、弁当にはあってほしい。そんな存在ですよね。皆さんが自分でも気づいてない弁当の小さな夢を叶える存在。私はこの立場が気に入っています」
ようやく「マグロさん」がマイクを掴むことができました。
「マグロです。あの、いいですか。マグロです。あの、えーと、あの、私は美味しいです!」
残り時間もわずかですが、最後は「地味なグループ」の皆さん、切り昆布さん、紅生姜さん、小梅さんです。
「切り昆布です。私はただそこに置いてもらえればいいんです。でも、そこにいることを忘れないでください。時折、同胞たちが、空の弁当箱に残されたまま消えていきます。覚えていてください。それは空(カラ)ではなく、見放されたんです。お願いです」
「紅生姜です。切り昆布さんといつも一緒にいます。だから言いたいことも同じです。私だって、シウマイ弁当の一員なんです」
そして最後に、小梅さんです。小梅さんは緊張しているのか震えながら小さく答えました。
「こ...小梅です。ゴメンナサイ。種があってごめんなさい。すみませんすみません。私のせいでガリってなっちゃって。後味が…」
涙ぐんでいる小梅さんに、切り昆布さんがやさしく語りかけた。
「切り昆布にはわかっています。小梅さん、元気を出して。それがあなたの個性なんです。あなたはあなたでいいんですよ。そうじゃなきゃいけないんですから。それに、種は食感を楽しむこともできるじゃないですか」
紅生姜も静かに頷いた。
「紅生姜にもわかります。仕切りの向こうにいるから、存在を感じていても、あまり話すこともなかったけど、でも、ずっとあなたが好きでした」
いつの間にか、シウマイさんや筍煮さん、俵ごはんさん、あんずさん、マグロさん、から揚げさん、卵焼きさん、蒲鉾さん、昆布さん、紅生姜さん、全員が優しく小梅さんに寄り添っていました。だって、皆が揃ってのシウマイ弁当なのですから。
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