腸弱会|あの日、駐車場で、きっと天使も涙をこぼしていた
🔷「腸弱会」から貴方への贈り物
このエッセイは、「腸弱会」(ちょうよわかい)の活動報告です。「腸弱会」とは「腸が弱い人たちの会」のこと。メンバーは私と友人(若松)の二人。腸がよわよわの私たちは、会うたびに「こんなピンチがあったんだよ」と報告会をしていました。しかし、ある時、思ったのです。この活動を公開すれば、世界中の腸弱人たちに勇気を与えることができるのではないかと。みんな、ひとりじゃないぜ!
仕事を早めに切り上げて、新橋へと向かった。
これから、「腸弱会」(ちょうよわかい)のメンバー、若松と久しぶりに落ち合うのだ。
まだ昼過ぎだというのに、駅前は行き交う人たちでごった返している。広場の奥へと向かうと、ちょうど薬局から若松が出てくるところだった。
彼は手を振っているオレに気づくと、学生時代のままの笑顔を浮かべた。
アルコールが飲めない二人だから、その後は、たいていはカフェへと向かうことになる。
この日も、場違いな二人は、エレガントな女性たちが集まる洒落たカフェの2階に席を確保すると、ケーキをパクつく姿をチラ見されながら、「腸弱会」の会合をはじめた。
ひとしきり近況を報告しあうと、会は佳境に入っていく。オレは若松に話を振った。
「ところで、最近は、なんかあった?」
「なんかあったって、ほどじゃないんだけどね」
若松がおもむろに口火を切った。
「この前、出張の帰り道で、お腹が痛くなっちゃってさ」
「電車の中とか?」
「いや、住宅街。都内なんだけど、最寄り駅までが意外と遠くてさ。限界がきちゃった」
「限界」という言葉に、思わず息を飲む。それは絶望のサインだ。
「もうムリだと思って。目についた駐車場に入って、やっちゃったんだよ」
「エェッ! それって、ひとん家の駐車場!?」
若松は眉をひそめ、「ストップ」の合図をするように、開いた右手を素早く差し出した。
「声が大きいよ!」
隣のテーブルの女性たちが、こちらをチラ見をした。
「ごめん」
「違うよ。6台ぐらいの駐車場。ホント、ギリギリだったんだよ」
「誰かに見られなかったの?」
「クルマの陰に隠れてたもの」
「でも、あとで、その駐車場を使う人はイヤだろうな…」
「その場はすぐ離れたんだけどね。オレも気になったからさ。翌日、見に行ったんだよ」
「えっ?! わざわざ、見にいったの?!」
思わず上げた声に、また隣のテーブルの女性たちがチラ見をした。
「うん。そしたらさ。クルマに轢かれてたんだよね」
若松は少し間を置くと、言葉を続けた。
「オレ、思わず手を合わせちゃった」
一瞬、心臓が止まった気がした。
なんという美しい心なのか!
「なんか、いたたまれなくなっちゃってさ。ティッシュをかけたんだよ」
なんというやさしさだろうか! フランダースの犬でさえ、ネロを放っぽりだして、全速力で駆け寄ってくるに違いない。
オレが、この世界でもっとも愛する、「無垢な感性」がそこにあった。
「掃除しとけよ」なんて、無粋なことは言わない。
もし、彼がその罪でムチ打たれることがあれば、オレは喜んで彼の代わりに、いや、ムチ打ち人の代わりにムチを握ろう。そして、ちょっと手加減する。
この世界は、傷だらけで、汚れているけれど、まだ捨てたものじゃなかった。
誰にも知られない場所で、静かに希望の芽は育っていたのだ。
カフェのガラスの向こうから射し込む西陽が、グラスを通してテーブルにプリズムを描いている。
だが、今、必要なのは雨だ。
雨よ降れ! 天も涙するように雨が降るといい!
そして、駐車場を洗い流しておいてくれ
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最後までお読みいただきありがとうございました。チップしちゃおうかなと思ったら、迷わなくていいんです。私がそっと背中を押しますからね!