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『吃音とIQの相関関係』を約10年研究してきたので分かりやすく解説してみた


僕は小学生の頃から「吃音症」と20年以上付き合ってきたが、とある疑問が片時も僕の頭を離れなかった。


それは「吃音の人は、健常者と比べて脳の神経や能力に何か特徴があるんじゃないか?」という疑問だ。


その疑問を解決すべく、大学在学中から独自に研究を進めて現在では専門機関と提携して吃音とIQの相関関係の研究を進めており、論文を共同執筆している。

ただ、英語論文で海外に投稿する予定のため、日本で吃音に悩んでいる人のために、僕が重要な要点だけを一部ピックアップして分かりやすいように書いていくので参考になれば幸いです。


すべてのきっかけは、「IQテスト(WAIS-ⅢとWAIS-Ⅳ )の検査結果」から始まった


「吃音の人は、健常者と比べて脳の神経や能力に何か特徴があるんじゃないか?」という疑問を解消するため、僕は大学1年の2014年にWAIS-Ⅲを初めて受験した。世間ではIQテストと言った方がわかりやすいかもしれない。

12年前の結果なので当時の検査結果の紙は見つからなかったが、数字は以下の通りだった。

全検査IQ (FSIQ): 140
言語性IQ (VIQ): 132
動作性IQ (PIQ):147

当時から言語性IQの中の「作動記憶」という数値だけが著しく低く、他の項目との数字の差の乖離が激しかった。

その時は「僕は短期記憶が苦手なんだなー」くらいの軽い認識だったが、大学在学中から吃音とIQの相関関係を調べるため、「吃音であり、なおかつWAIS-Ⅲを検査したことのある人」を対象に聞き取り調査を始めた。

当時は独自で研究してるに過ぎず、個人で出来ることにも時間とお金の限界があったため、Twitterなどで当時は独自の研究のためにTwitterを中心に調査を進めていた。

この頃はまだ150人くらいのデータしか集められておらず、母数が多くないため統計データとしても信憑性はまだまだ低かった。

そんな中、僕は自分の吃音の研究の更なる理解のために、2024年12月に医療機関でWAIS-IVという知能検査を受けた。ちなみにWAIS-IVはWAIS-Ⅲの改訂版であり、現在受けられるIQテストで信憑性が高いとされている。


軽部の実際のWAIS-Ⅳ(IQテスト)の結果


以下が、実際に2024年12月に病院で検査してもらった時の僕のWAIS-IV(IQテスト)の診断結果になる。

軽部凌のWAIS-Ⅳ(IQテスト)の検査結果

WAIS-IV 検査結果

  • 全検査IQ:139

  • 言語理解:142

  • 知覚推理:144

  • ワーキングメモリ:101

  • 処理速度:138


wais-Ⅳ(IQテスト)を受けたことのある人ならピンと来るかもしれない。

そう、「ワーキングメモリ」の数値が明らかに低い。

知覚推理の144とワーキングメモリの101では『43』という数値の乖離がある。この数値の差が15以上の場合、発達障害の傾向が強いと言われるのだが僕は43もあるので可能性は高いらしい。

担当医にも「ワーキングメモリの数値だけが他の項目と著しく乖離してますね」と言われた時、僕は思った。

「やっぱり、IQは吃音と何か相関関係があるんじゃないか?」

現代の研究では吃音は「脳の神経回路に異常をきたしている」「右脳と左脳の言語情報の伝達が正常な状態ではない可能性がある」とされている。

もしかして、この極端なワーキングメモリの低さは、吃音症の人にも共通する特徴なんじゃないか?

そう思った僕はすぐに行動に移し、今までの150人のデータを活用しつつ新たにデータを収集し始めた。


『吃音とIQ』という貴重なデータを集めたら専門機関と提携するチャンスが巡ってきた


調査方法は至ってシンプル。

吃音症の当事者団体、SNS、オンラインコミュニティなどを通じて、吃音症の人に協力してもらい、以下の情報を収集した。

  • WAIS-Ⅲ,IVまたはWISC-Ⅳのような知能検査を受けた人のIQ数値

  • 吃音の症状のタイプ(連発・伸発・難発)

  • 吃音歴や症状の重さなど

このシンプルかつ王道なやり方だけで600人以上のデータを集めた。

正直、600人分のデータを集めるのは想像以上に大変だった。でも、吃音症という同じ悩みを抱える仲間たちが、みんな快く協力してくれたおかげで、信憑性の高い貴重なデータを集めることができた。

この場を借りて、協力してくれた今までの皆さんに心から感謝したい。

このデータを活用して研究していたある日、とある研究期間の人と出会い、独自でデータを今までに700人以上集めてきた実績と熱意を気に入っていただき共同研究という形で、研究する環境などを用意していただいた。

この後押しがあり、今まで集めてきたデータとともに実際に吃音者の脳波を調べつつ検証など出来るようになったので飛躍的に進んだ。

その研究の中で、得られた知識の中で吃音の人に知っておいてもらいたい点をいくつか解説していきます。


実際の吃音者のIQデータから見えてきた「変わった傾向」


吃音者約700人分の実際のIQデータを分析して、明確な傾向が見えてきたのでざっくりまとめてみる。


前提:「全検査IQ」自体に明確な優位差はない


吃音症の人と健常者で、全検査IQ(FSIQ)の平均値を比較したところ、統計的に有意な差や傾向は特に見られなかった。

つまり、吃音症の人だからといって全検査IQが高い・低いというような単純な話ではないということである。

では、具体的にどこが相関関係があったのか、分かりやすく解説する。


傾向①:吃音症の人は「ワーキングメモリ」が相対的に低い


WAIS-Ⅳの心理テストには全部で4つの項目(言語理解・知覚推理・ワーキングメモリ・処理速度)があるが、IQテストの検査項目だけを見た時にワーキングメモリという項目が低い傾向が見られた。

ワーキングメモリとは、簡単に言えば「耳で聞いた情報を一時的に記憶しておく能力」のこと。電話番号を聞いて、それをメモに書き留めるまでの間、頭の中に保持しておく…みたいな能力だ。

吃音者は5つの項目において、この能力の数値が低い人がとにかく目についた。僕も他の数値と比べてワーキングメモリが極端に低いのでグラフが凹んでいるが、吃音者のIQテストのグラフも似たように凹んでいる傾向にある。

また、これに伴い、以下の傾向も見えてきた。


傾向②:4項目の中で「言語理解と知覚推理」が「ワーキングメモリー・処理速度」よりも相対的に高い


調べていくと、面白いことに吃音症の人は言語理解と知覚推理の数値が他2つの項目よりも高い傾向が見られた。

吃音症の人の全データの中で、数値が1番高い項目が言語理解であり2番目が知覚推理であった。

つまり、WAIS-Ⅳのグラフだと、VCIとPRIの線が高く、WMIとPSIの線が低くなる傾向になる。

僕のWAIS-Ⅳの検査結果のグラフが以下になるが、ここまで差がなくとも右2つの項目が低くなっているという傾向が強く見られた。

言語理解は「言葉を用いて推理したり、推理したことを言葉で表現したりする能力」、知覚推理は「視覚的な情報を取り込み、相互に関連づけ、全体として意味あるものにまとめる能力」のこと。

つまり、頭の中では言葉がしっかり組み立てられているのに、それを口に出すプロセスで脳の処理に問題があり、声がでないのではないかという状況が、このデータからも裏付けられた形だ。


傾向③:ディスクレパンシー(差異)が15以上のデータが健常者よりも多い


ディスクレパンシーとは、各項目の数値の差のことであり、この数値の差が15以上あると、発達障害の傾向が強いと言われている。(よくADHDの傾向があるとも言われているが、このIQテストの数値だけで判断されることはない)

この差が大きいとどうなるのかというと、自分の脳の能力にばらつきがあるため、自分の脳の情報処理にバグが発生しやすくなる。

日々の生活の困りごとが増えると言われていて、いわゆる『生きづらさ』を感じるきっかけになる。

吃音症の人はこのディスクレパンシーが15以上ある人の割合が健常者よりも高いため、脳の能力に偏りがあるのではないか、そしてその情報処理にバグが発生してるため声が出なくなるのではないかと推測している。


このような傾向から、僕は次のような仮説を立てている。

吃音症は「知能の問題」ではなく、「脳の情報処理プロセスの問題」である可能性が高い。

具体的には、こういうことだ。

  1. 頭の中では言葉がちゃんと組み立てられている(言語理解・知覚推理が高い)

  2. でも、それを一時的に保持する機能が弱い(ワーキングメモリが低い)

  3. 結果として、言葉を発するタイミングで「引っかかる」(吃音の症状)

例えるなら、パソコンのCPUは高性能なのに、RAMメモリだけが少ない状態と表現している。

処理能力は高いのに、作業領域が狭いから、うまく動作しなくなる時があるみたいなイメージだ。

これは、僕自身が長年感じていた『話す言葉は浮かんでいるのに、声を出そうとした時に喉に引っ掛かる感じ』という感覚とも完全に一致する。

みなさんは、こういう感覚はあるだろうか?

ぜひコメントで教えて欲しい。


吃音の人が知っておくべき特徴


この研究結果を自分で見出してから、僕は自分の働き方を大きく変えた。

ワーキングメモリが弱いなら、「耳で聞いて覚える」のではなく、「文字で読んで理解する」方が得意なはず。だから、重要な会議は必ず議事録を取ってもらうか、文字起こしツールを使うようにしている。ここはAIをフル活用している。

言語理解と知覚推理が高いなら、「人の長所を見つける」「複雑な情報を整理する」「戦略を立てる」といった仕事が向いているはずだから、僕は人の強みを見出して言語化する出版社という仕事を選んで自分で出版事業を展開している。

主治医からも「軽部さんは、人に関わる職種、相手の長所を見つけることなどが適正として向いています。ただ、ワーキングメモリが低いため相手の会話を聞いて覚えるのが苦手だと感じると思います。なので、テキスト上や文字起こしができる状況で、相手の長所をサポートできる職種が向いています。」とアドバイスを受けた。

WAIS-ⅣのIQテストを受けるとフィードバックをいただけるのだが、自分の脳の特性にあった生き方や考え方、行動などを教えてくれるのでとても参考になる。

自分の脳の特性を理解し、それに合わせた環境を作ることで、僕は吃音症という「言語障害」を「デメリットもある自分の特徴」として捉えて活かせるようになった。



専門用語をできるだけ使わずに分かりやすく解説してみましたがいかがでしょうか?

最初にも書いた通り、まだこの研究は僕の中では終わっていない上に論文発表前のため、詳細なことはもちろん書けないがざっくりと『吃音とIQには関係がある』と知っていただけたのではないだろうか。

この研究を通じて、吃音症の人たちの『何が原因なのかわからない』という不安から解放されるきっかけになれば嬉しい。

僕自身、小学校6年間、地獄のような日々を過ごした。でも、今こうして自分の経験を活かして、同じ悩みを抱える人たちの役に立てる研究ができているのは、ある意味、あの辛い経験があったからこそだと思っている。


あなたの脳は決して「劣っている」わけじゃない。


ただ、「人とは少し違う処理のプロセスを持っている」だけ。


その違いを理解し、受け入れ、活かすことができれば、きっと新しい可能性が見えてくるはず。



PS. もし吃音症で過去に医療機関でIQテストを受験されたことのある人は、コメントやDMなどで教えていただければと思います!『吃音の理解を深めるための貴重なデータ』になりますので、ご協力よろしくお願いいたします🙇

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