Salesforceの年間費用を大きく削減した話(全体像 - 後編)
前回の続編になります。
Salesforceの年間費用を削減するため、
・案A:他社製品への移行
・案B:Salesforceの安価なライセンスへの切り替え
で検討してきました。
案Bの部分適用でも十分効果が期待できますが、
なんとか全体適用できないか? ということで今回の話になります。
案B:「Salesforceライセンスを安価なライセンスに切り替える」の全体適用
前提
・Salesforceとして本来の活用が見込めない(体制など様々な事情で)
・リッチな機能はいまのところ必須ではない
売上予測、スコアリング、パイプラインインスペクション、
キャンペーン活用 etc
・日々の業務に浸透していて、他社移行がむずかしい
上記に当てはまるなら、安価なライセンスに切り替えるこの案はありだと思います。
この案を採用した理由
移行リスクより改修リスクの方が小さい
改修は段階的にできる。失敗しても1機能ずつ戻せる。移行は一発勝負。業務を変えなくていい
社員から見れば画面はほぼ同じ。コストダウンのために現場が痛みを伴っては元も子もない。作り直す過程で、会社にノウハウが残る
外注で対応したら、社内にノウハウがたまらず保守で費用がかかる。
他社製品との比較
※あくまで当時の自社Salesforceと比較した、私一個人が感じた内容です。
①HubSpot
・高機能で直感的に使える現場主体なつくりが魅力的。
→アーキテクチャの違いや、カスタムを前提とせず製品機能のなかで現場主体で活用していく方針は、作りこんだSalesforce環境の移行先としてはアンマッチだと判断しました。
②Zoho
・Salesforceライクで高機能、Salesforceユーザーになじみやすいうえに低コスト。
→カスタムの自由度も高い印象で、見積取得をしたが、自社での必須機能を厳選しても費用回収は2年目以降(プロジェクトが成功すれば)という条件が厳しく見送りました。
③kintone
・CRM/SFAからは外れるが、プラグインが豊富でカスタマイズすればなんでも低コストで作れそう。
→基本のライセンス費用はとても安価ですが、CRM/SFAとすると様々なプラグイン契約(他社製品)を組み合わせるかたちになり費用が積みあがっていきました。RDBではない点で苦戦しそうだと判断し見送りました。
行ったこと
これまでの前提をふまえて、次のことを段階的に進めました。
商談のカスタムオブジェクト化による全ユーザー利用(約100H)
商談関連機能の作り替え(約400H)
リードを取引先責任者へ移行(約50H)
キャンペーン機能の代替手段の用意(約50H)
メルマガサービスの移行(約50H)
一人で担当して、半年ほどかかりました。
〇 カスタム機能の大半を自分で作ってきていた点は、
難易度と工数を下げる要素でした
✕ 当時はAI活用の手段がとれなかったため、
すべて自分で調査して実装しました
※ 工数や難易度は利用状況等によって上下しますので、
あくまで私が経験したケースでのことです。
カスタマイズの状況
この判断をした時点でのカスタマイズ状況としては、
・Flow 50本以上(ほぼ商談関連)
・帳票出力に Oproarts を導入済み
・電子契約サービスに DocuSign を導入済み
・名刺連携に Sansan 、 リッチ情報付加に SansanDataHub を導入済み
逆にほとんど使っていなかった機能としては、
・ロール、公開グループ、共有設定(共有ルール)
・承認プロセス
があげられます。
小規模な組織なので「うちの商談情報は他部署にはクローズ」なんてことはなく、全社共有の方針なので、横軸の権限設定は使っていませんでした。
この点は作り替えの難易度を下げた要因だったと思います。
難易度
上記2「商談関連機能の作り替え」が一番の挑戦でした。
SalesCloudの標準機能である「商談」に関係する譲れない標準機能の再現や、それらを拡張するためにこれまで開発してきたカスタム機能の作り替えは技術的な挑戦と物量が多い課題でした。
(いまはAI活用でこのハードルは下げられると思います)
しかし、上記2がうまくいけばこのプロジェクトはほぼ成功、
うまくいかなくても上記1「商談のカスタムオブジェクト化による全ユーザー利用」と上記5「メルマガサービスの移行」で一定の費用削減が期待できます。
始めたら後には引き返せない 他システムへの移行 より
リスクが低くメリットが高い。
技術面で挑戦はありますが「やらない手はない」と思いました。
効果
<年間費用>
100名企業を例に定価で計算してみると
対応前: 1668万円/年
SalesCloud 50Lic × 19800円/月 × 12ヵ月 = 1188万円/年
PlatformStarter 50Lic × 3000円/月 × 12ヵ月 = 180万円/年
AccountEngagement 300万/年くらい(プランと利用状況によります)
対応後: 約501万円/年
SalesCloud 2Lic × 19800円/月 × 12ヵ月 = 約48万円/年
PlatformStarter 98Lic × 3000円/月 × 12ヵ月 = 約353万円/年
安価なマーケティングオートメーション製品 約100万/年
1,668万円/年 → 約501万円/年
3分の1くらいになります(定価ベースの試算)
約1,170万円の削減、営業利益率10%の企業なら売上換算で毎年1億円以上に相当します。
経営の厳しいなかで、この数字はかなりのインパクトがありました。
<付帯効果>
加えて、カスタム商談機能 や リードを取引先責任者に移すことで、
これまで SalesCloudユーザー でしか扱えなかった情報が、
全ユーザーで扱えるようになったのも大きなメリットです。
システム管理者の視点では、
・技術レベルが1段階あがり、できることが増えた
・継ぎ足し継ぎ足しでごちゃごちゃしていた機能が整理できた
というメリットもあり、
今後の開発に活かせる経験になって、とても良かったと感じています。
<デメリット>
もちろん、良いことだけではありません。
前述でも少し記載しましたが、
安価なライセンスにおさえれば使えない機能がでてきます。
私が思いつくところをあげれば、
・商談のパイプラインインスペクション
・商談スコアリング
・売上予測
・キャンペーン機能一式(一部代替実装で緩和)
・リード機能一式(一部代替実装で緩和)
更に、今後のアップグレードによるSalesCloud関連の新機能。
他社製品であれば、同価格帯で使える機能もあるかもしれません。
今回は、コスト削減(必要な機能に絞る、費用を抑える、現場に工数をかけない)を優先する手段で対応しました。
今後、リッチな機能が必要になるなら、時間をしっかりとれるタイミングでSalesforce内で対応するか、他社製品への移行かを改めて検討すれば良いでしょう。
所感
全体を通してかなり大変でしたが、やって良かったと感じています。
Salesforceは中小企業にとって高機能すぎる面がありますが、
メイン機能である 商談関連 は必須要素です。
これの主要部分をカスタムで代用できたことで、
「組織の現状に合った、継続できるシステム」になったと思います。
今後のアップグレードの恩恵を受けにくいのは確かなデメリットですが、
この対応で技術レベルを1段階あげることができましたし、
Salesforceプラットフォームのもつ強力な機能は継続して利用できます。
また、昨今のSaaSのAI活用でもちいられる MCP機能 は
この構成でも利用できるようになっています。
安価なライセンスにする = 現状維持 というわけではなく
業務効率化を継続していける環境にありますので、
自社にあったコスト感でSalesforceをうまく活用していくことは十分に可能です。
今日から使える1アクション
「導入したときの目的」と「いまの使われ方」を比較する
費用の大きいシステムを1つ選んで、
導入したときの稟議書か提案書を探してみましょう。
資料が見つからなければ、当時を知る人に
「なんでこのシステムを入れたんですか?」と聞いてみてください。
そこに書かれている、あるいは語られる「導入目的」を書き出し、
それぞれに 〇(達成)/△(一部)/ ✕(未達)をつけてみましょう。
商談の進捗を可視化したい … 〇
属人化した顧客情報を共有したい … △
売上予測を自動化したい … ✕
費用対効果は得られているでしょうか?
導入から3年も経てば、組織も人も変わります。
当時の目的が未達のまま残っているのは、珍しいことではありません。
問題は、目的が未達なのに費用だけが毎年きっちり支払われていることです。
「簡単に置き換えられるなら、既にやっている」と思われたかもしれません。
その通りです。私も実際に置き換えるまでには半年程かかりました。
技術が足りるか不安な部分もありましたし、
ライセンスダウンしたら導入目的に必要な機能を捨てることになるので
決断するのにも時間がかかりました。
それでも、最初に行ったのは、
目的に対して費用対効果が得られているか? でした。
どこがネックになっているのかがわかれば、
向かう方向が定まります。
手段は、あとから探せます。
まずは対象を見つけてみましょう。
次回
商談をカスタムオブジェクトで作り直す —何を捨て、何を再現したか
