忘れられない建明け
こんにちは。
認定司法書士には簡裁代理権があります。
「簡易裁判所における訴訟代理権」のことなのですが、少額(訴額140万円以下)であれば司法書士も裁判の代理ができます。
大家さんからご依頼いただき、家賃の不払いが続いている賃借人さん相手に、建物明渡の訴訟を提起していた頃のお話です。
因みに建物明渡等訴訟の訴額は未払家賃ではなく、建物の評価額を基に算出されますので、東京都内の物件よりも、神奈川とか千葉とかの物件を扱わせていただくことが多かったです。
大家さんによると、50代の賃借人の方とはずっと連絡がとれない。
夜になると車でどこかに出かけている様子。日中は訪問しても応じてもらえない。家賃は既に4か月分は滞納している、という状況でした。
受任後、事務所より内容証明郵便を発送し、特定記録でお手紙を出し、現地にお伺いしても、裁判期日にも、やはり賃借人の方とコンタクトをとることはできませんでした。
ドアの埃の積もり具合や、ガスメーターの動き、夜間の目撃情報などから物件に住んでいらっしゃることは明白だったので、裁判官も、明渡の判決を出してくれました。
忘れられないのは、そのあとのお話です。
司法書士には強制執行の代理権がありませんので、強制執行に関しては本人訴訟支援として書類作成をさせていただくに留まりますが、強制執行は大きく分けて、「催告」と「断行」に分けられます。
「催告」においては、執行官が物件へ赴き、現地を確認し、債務者に対して断行日を告げ、引っ越しするよう促します。「断行」は実際に、執行業者さんが物品を全て搬出してお部屋をカラにします。
その催告において、賃借人の方がカッターナイフをご自身に向けました。
幸い傷は浅く済んだのですが、その後緊急搬出された病院で、栄養失調でお亡くなりになりました。
大家さんも民間のビジネスとして大家業をしていらっしゃいますから、家賃が支払われなければ損失が嵩むばかりで、明渡の手続きに踏み切ることは何ら責められることではありません。
ただ、自ら助けを求めることができない人に対して(求めることができても場合によっては)、行政のケアが行き届かない現状があるということを痛感した出来事でした。
人によっては、事務所からのお手紙を見て「お前ら座って仕事してる奴らに何がわかる!!」とお電話をかけてこられる方もいらっしゃるのですが、そのような発信からはまだ解決の糸口を見出すことができます。
私たちも行政と連携をとってシェルターなどにつなぐことができる場合もあるからです。
私は、発信できなくなることには理由があると思います。それは根深く、家庭環境に留まらず、学校教育、雇用関係、社会人コミュニティなど様々なところで、寛容な社会への変容を求められていると思います。
この案件に関しては、もっと早く、行政の支援が受けられていたならと悔やまれななりません。
