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かすみを食べて生きる 13 :「ごっくん」の「くん」を求めて

脳梗塞 発症11日目:一般病棟9日目

・食事:脳梗塞(ワレンベルグ症候群)の後遺症のため、嚥下ができなくなり絶飲食。鼻からの経管栄養と点滴での水分栄養を併用。
・状態:歩行訓練中。日中、看護師付き添いで車いすでのトイレ可。嚥下訓練は難航中。

昨日は疲れが出てやさぐれていたが、夜は久しぶりに7時間通しで眠れた。
そして、今日はあるうれしい変化が訪れた。

『かすみを食べて生きる 序文と目次』
<発症10日目:一般病棟⑧   
 
発症12日目:一般病棟⑩>


あるなら教えてほしかった

入院後の私の装備は、ずっと浴衣型の病衣だった。
おむつを替える時、この形は便利。
でもずっと気になっていた。
理学療法士さんのリハビリでベッド上で足の体操をする際、生足をさらさねばならないことを。
冬場でムダ毛処理の甘い、美しいとはいいがたい脚。見え隠れするおむつ。
恥ずかしさを超えて忍びない、情けない。
その話を看護師さんにすると、
「ズボン貸しましょうか」
あるの?!ズボン!あるなら言ってほしかった!!

もしこの文章を理学療法士の方が見る機会があればそっとお伝えしたい。
浴衣タイプの病衣の患者の足を触る際、「ズボンをはきますか?」と聞いてもらえると救われるものがあることを。
病状によると思うし、セラピストの方はそんなの見慣れて触り慣れて気にならないかもしれない。
でも受ける側は慣れていない。
たとえ若い女性でなくても、どんなに高齢でも、意思表示をうまくできない状況でも。
それを気遣ってもらえるだけで、生き続けることに希望を持てたりすると思う。

「ごっくん」の「くん」を求めて

「ごっくん」の「くん」を見つけられずにいた中、私は人に連絡を取るたびに聞いていた。
「ごっくんのくん、どうやったらできるかなぁ」
どこからか何かヒントが出てくるかもしれない。
普通に聞かれてもなかなか難しい質問だと思う。

「首を横に向けて飲み込むのは試した?」
小学生の頃からの友人、みやこさん(仮)が返事をくれた。
みやこさん(仮)は言語聴覚士だ。
嚥下障害になる前、みやこさん(仮)の仕事はリハビリをする医療従事者、という認識だったけど、今ならわかる。すごい仕事だ。
「首を回すのは脳の状況にもよるから、担当の言語聴覚士さんと相談してから試してみて」
そのメッセージをもらったのは首を動かすとひどいめまいがする頃で、まだちょっと難しいかなと思っていた。
Webで調べると「頸部回旋法」というらしい。
最近はゆっくりなら首を動かせる。
そこで私は担当の言語聴覚士の谷元さん(仮)に相談した。

嚥下音がきた!

「横を向いて飲み込むのを試してみてもいいですか?」
そこで谷元さん(仮)は私のベッドのリクライニングを30度上げて、首を安定させた状態で、左に向いて少し顎を引いて試してみようと言ってくれた。
確かにこれならめまいが起きにくそう。
いつもの氷の飲み込みをやってみる。

ごっ………くん!!!!!!

きたっ!!ごく少量、溶けた氷水がのどを通った!!
と同時にむせる。
ゲホゲホッゴホッゴホッ。
でも今確かに、ごっくんのくんの音が出た!
谷元さん(仮)!!今かなりいい感じじゃなかったですか?!
のどがごくっとなるのは気持ちいい!
これはとてもささやかだけど大きな一歩!
谷元さん(仮)ありがとう!!
みやこさん(仮)ありがとう!!
私ののどには左側に麻痺があるらしい。
首を左に向けることでその動きにくい方をつぶした状態で、何とか動く右側に水を通すことができたようだった。
その後何度か試したところ、飲んだ後にむせるけど、左を向くとのどの右側に水が通る感覚は得られた。

リハビリ病院への転院に向けて

本日もMRIとCT。結果MRIは大きな変化なし。
CTでも肺炎がよくなってきていることがわかったらしい。
検査結果からリハビリ病院への転院が現実味を帯びてきた。
リハビリ病院に行くと、急性期の病院よりリハビリを受けることができる時間が長くなるらしい。
今回私のリハビリは嚥下訓練がメインとなる。
言語聴覚士さんのリハビリをしっかり受けることのできる病院に行きたい。
ちょうど自宅の近くにリハビリ病院がある。
言語聴覚士さんの在籍数も多いらしい。
比較的新しい病院で、空きがすぐあるとは限らない。
そちらに転院の調整をかけてもらうことになった。


ーーー振り返って

この日嚥下音が出たときの喜びを忘れることはないと思います。
急性期の病院で言語聴覚士さんの数はそこまで多くはない中、時間いっぱいつきあってくれた谷元さん(仮)には感謝しかありません。
この後もリハビリは続きますが、振り返ると発症2日目からこの11日目までの嚥下リハビリ期間が、訓練的にも精神的にも一番きつかったです。
その後のリハビリではこの期間を思い出して「あの時よりは楽」と思えました。
谷元さん(仮)に担当してもらえたことは幸運でした。

そして30年来の友人で言語聴覚士のみやこさん(仮)。
嚥下リハビリでの私の弱音を日々LINEで受けて励ましてくれていました。
嚥下障害は説明が難しいのと、「食べれない」ことのネガティブさが際立つのであまり知り合いに言えずにいたのですが、みやこさん(仮)は私の状況をわかって悲観せず励まし続けてくれたので、とても心強かったです。
あの時は本当にありがとう。

私の入院生活は直接的に間接的にいろいろな方に支えられていました。