牛丼
「っしゃー! 終わったー!」
長きにわたる、怨敵 ”課題” との戦がやっと終わった。
わが軍の勝利である。
「お、まじか。はやいな。」
が、どうも隣の「C」という男はそうでもないようだ。
「お先。」
「いや、待てと。さっき、終わったら飯食おうって言ったじゃん。」
「分かってますよと、片付けするだけよ。」
ちらりと時計を見て、びっくり。
こんな時間まで残ることになるとは…。
何にも見えなくなった窓。
闇の中トロトロ走るテールランプをみるとこっちまで眠くなってくる。
「もう、俺たち以外誰もいねぇよ。」
そういってパソコンをリュックに入れる。
このフロアがあまりにも静かで、ガサゴソする音ばかりが響く。
十分ほどたってCが俺に聞く
「どう?こんなもんでいいかな?」
「…。インジャネ?」
丁寧とも、雑ともいわれない出来だったが、今の俺たちにとって大事なのはそこじゃない。
「おけ、じゃ、俺も、終わり。」
そう、中途半端でも期限内に終わらせること。
そして、こういう負債を貯めないことだ。
「よーし、飯食おう!何食う?」
「俺、牛丼が食いてぇ。」
Cはどうやら「トマトチーズ丼」なるものが食いたいらしい。
「牛丼…。近くあるっけ?」
「あるある。あそこらへんだよ…。えー…。」
「ああ!あそこか!」
土地勘で生まれるノンバーバルコミュニケーション。
「出てけよ~。そろそろ時間だぞ~。」
という放送が流れる。
いや、実際は流れていない。
もっとちゃんとした奴だ。
けれど、そう言っているとぼんやり分かるくらいの集中力だったんだ。
俺たち二人は建物をでて、牛丼屋のある方向へ向かう。
なんとなく、屋内にいるときから気づいてはいたが、
やっぱり、雨が降ってた。
「牛丼って、いくらくらい?」
こうして歩いてみないと、自分の財布の重さもわからない。
だから、外にいるときに勘定を考えないと、店を出たら破産しちまう。
券売機相手に「時そば」でもやってみようか。
「安くて500、普通は700くらいじゃね?ま、高くはないでしょ。」
えぇ、Cの言う通り。高くはない。
けれど、”節約” はなんかしたい。美徳な気がする。
牛丼屋にはすぐ着いた。
ところで、傘の不思議が一つある。
それは、一分使おうと、一時間使おうと、閉じたときに出てくる水の量はさほど変わらないということ。
こんなことが不思議なのは、深夜にUFOみたいに光る牛丼屋の灯のせいだ。
Cは予定通りの「トマトチーズ丼」を頼んだらしい。
俺は…。
一番安い奴にしようとしたが、「キムチカルビ丼」くらいにヒリヒリを生きたいのでそれにした。
勿論、高くついた。
頭の中の予定表に、この分のあてがないか探すが、すぐには見つからない。
それどころか、ここ最近は出費ばかりだ。
注文したものはマッハでできる。
お冷を二つ持ってたら、Cの飲み物は二つになってしまった。
「あれ、自分でもってたか。」
「おん。でも、ありがとう。」
Cは映画の話をする。
「『オデッセイ』ってあるじゃん、あれは、元々『火星人』的なタイトルらしい」
「ほーん。」
と、いった具合にうんちくを聞いたげる。
興味がないことはない。
昔から、毎週金曜日は某番組で映画を見てたので、何となく、有名な作品くらいは知ってる。
「で、それで、最近、また新しく『オデッセイ』って同じ名前の映画が作られちゃって、でも、それがさ…。」
「同じ名前の、前のが、有名だからな…。」
「そう。それで、ちょっと期待値上がり過ぎなんじゃねみたいのがあるらしい。」
そんなことをしゃべるうち、味に飽きてきたので、紅しょうがを入れる。
ふとしてみれば、どっちの丼ぶりも空っぽ、全部胃の中。
結局二十分ぐらいだったか?
「今日の帰りは遅いぞ~。」
「でも、塾通ってた頃もこんな感じじゃなかった?」
確かに。と思う。
「そうだね。そんな気もする。じゃ、普通か。」
「おん。」
そうでもねぇだろ、という顔を互いに見る。
「雨だるー。」
ちょうど変わった信号は青色。
街灯に照らされる雨の筋は白い。
ひんやりとした空気。
腹の真ん中に、さっき食った温かい牛丼がある。
明日、寝坊しないといいけど。
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