渡哲也には、アウトローがお似合いでしょう
日活映画『青春の海』は1967(昭和42)年1月3日公開、吉永小百合、渡哲也、和泉雅子 主演による日活青春スターお揃いのお正月映画である。川地民夫、和田浩治、山内賢ら当時の若手中堅スターも共演している。
簡単なストーリーは ・・・
冒頭のタイトルバックでは、岩礁の海辺で吉永小百合が歌う挿入歌「勇気あるもの」が被る。
高校生のころ、微かに聴いたことのあるメロディーだ。

やがて、和泉雅子が重そうなトランクを小走りに抱え東京駅にタクシーで駆け込んで来る。
東京駅ホームの電車の中には、和泉が追いかけている吉永小百合が写り、二人は言い争いながら電車は走り始める。
やがて次に乗り換えた電車の中では、ぶっきらぼうに受け答える渡哲也が登場し主役三人が勢ぞろいという展開に ・・・ こうして若い男女を巡る、日活青春物語はスタートする。
どうやら、小百合扮する中学生教師が伊豆下田へ赴任するが、妹役の和泉が無理やり追いかけて来て、その転居先の隣には、渡哲也を含む四兄弟の住み家らしい。
どちらかと言うと、自分的には小百合の教師役は珍しく、逆に『青い山脈』、『若い人』、『美しい暦』など女学生のイメージが強烈にある。
四兄弟の長男には歯医者さんの川地民夫、次男は故郷に戻って来たヤクザ風な渡哲也、三男が真面目な工場勤めの和田浩治、末っ子には料理学校に学ぶ山内賢。あの頃の日活若手中堅スターが四兄弟に扮するのは珍しく、異色な顔合わせでもある。
そして、この作品のお宝ともいえる父親役には、日活作品には何とも珍しい笠智衆が4兄弟の父親を演じている。
女教師・小百合とその教え子を巡る家庭環境、ヤクザな次男哲也がぐれて家を飛び出す経緯、その後の父親と兄弟たちとの葛藤、やがて小百合は、次男に心を惹かれ追いかけようとするが、二人が置かれている環境は違いすぎ、哲也に諭され元の教師に戻ろうと決める ・・・
作品的には、日活のお正月映画らしく、オールスター出演による明るい青春映画を装うものの、小百合と哲也が最後はハッピーエンドとはならない設定が想定外。本来、渡が扮するこの役は浜田光夫が適役(キャラは変更される)だろうが、浜田はこの年の夏に、名古屋の暴力事件に巻き込まれ右目を大ケガするという不幸に見舞われ入院中ということもあり、売り出し中の渡哲也にこの役が回って来たのかもしれない。
ラストシーンでは、お決まりの浜田光夫とならば二人は結ばれたかもしれないが、タイプの異なる渡哲也とは悲しく別れなければならない事情があったのかもしれない。
いわゆるマイホーム型の浜田光夫と、アウトロー型の渡哲也を対比した場合に、日活作品における不文律“小百合と哲也”この二人の愛は許すことが出来なかったのかもしれない。
ただ、この小百合と哲也の別れのシーンは似合っているような気がする。あのまま二人が電車に乗ったまま結ばれてしまっては、現実との隔たりが大きすぎるように感じてならない。
ラスト近くで二人が電車に同乗するシーンで、小百合と哲也が向かい合い、小百合が哲也から煙草を求め吸おうとするが、吸いなれないせいか煙にむせったとき、さり気なく吐く哲也のセリフが何とも心憎い。

「無理すんなヨ」、「慣れないことはしない方がいいんだ」、「あんたに勇気があることはよーく分かった、それだけで俺には充分だ」
女教師とヤクザ風な男の結びつき、世間ではどう見てもつり合いはとれない二人、そのことを哲也は承知し、別れることを理解している。
この作品は、後の日活映画における渡哲也の定位置、作品の役柄を暗示しているような気がしてならない。
中盤のシーンでは、革ジャン姿の渡哲也が盛んに映し出される。
あの革ジャン風のアウトローこそが、翌年のお正月に公開される主人公・人斬り五郎のそのものであり、シリーズ第一作『大幹部・無頼』の登場その姿を予感させるのである。
この頃の渡哲也(青春の海)は、デビュー当時のぎこちない台詞回しもようやく解消している。1966(昭和41)年4月に公開された鈴木清順監督による『東京流れ者』は、そうした彼を一皮むける方向転換させた作品といえるかもしれない。
日活の事情
日活のお正月作品とあれば、従来から小林旭、宍戸錠、二谷英明といったアクション映画の看板スターが正月1、2週を飾るはずである。
ところが、この年末年始のラインアップは ・・・
<正月第一週> 1966(昭和41)年12月24日公開
『逃亡列車』(石原裕次郎)、『傷だらけの天使』(西郷輝彦)
<第二週> 1967年1月3日公開
『青春の海』、『北国の旅情』(舟木一夫)
<第三週> 同 1月14日公開
『不死身なあいつ』(小林旭、二谷英明)、『夢は夜ひらく』(高橋英樹、渡哲也、園まり)
となっている、この年末年始は、石原裕次郎以外の作品はすべて外され、明朗青春ものと歌謡映画に取って代わられる時代といえた。時の流れに一抹の寂しさが拭えないのである。
日活映画『青春の海』
監督/西村昭五郎 脚本/三木克巳 原作/石坂洋次郎「ザルと空気銃」より
主題歌:「勇気あるもの」(ビクターレコード)
作詞:佐伯孝夫
作曲:吉田正
歌:吉永小百合、トニーズ
出演者/吉永小百合 渡哲也 和泉雅子 川地民夫 和田浩治 山内賢 高須賀夫至子 笠智衆
公開 日本の旗 1967年1月3日
上映時間 89分
