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《モコンさんの庭》ぼくのセルアニメ業界現場 WORKS Memo:Events 04・『機甲創世記モスピーダ』1983~84年

タツノコの新作テレビアニメ『モスピーダ』のチーフディレクター(総監督)の依頼が来たとき、ぼくはまだトップクラフトに在籍していました。ちょうど宮崎監督の『風の谷のナウシカ』の準備段階の時期で、ぼくは宮崎駿氏とたまたま同室になりました。そこでテレビ作品のチーフディレクターをやるか?ナウシカの演出助手をやるか?という相談したのです。すると宮崎監督は即答で『演助は演助でしかない』この一言でトップクラフトを辞めたのです。

ぼくが始めてシリーズ構成の富田祐弘氏が書き下ろした企画書を始めて読んだとき、シリーズのテーマだけでなく、メインキャラクターの名前と性格などの設定、作品の世界観などがすでにできあがっていました。さらに企画書では富田氏の創作キーワードの『レイトゥ』と『シャダウ』という今までにない表現があり、まるでSF叙事詩の物語の序章がかような気がしました。このキーワードにより地球を侵略したインビットという存在が果たして本当に人類の敵なのか?という解釈が可能な設定なりうるという感触があり、この作品の魅力と物語の可能性を感じたのです。

さて『モスピーダ』の制作に入るにあたって、初めて紹介されたメカニック設定の柿沼秀樹氏と荒牧伸志氏からは『ノルマンディ上陸作戦』のような軍隊としての行動を描く作品と言われていました。しかし、アニメフレンドのプロデューサー岩田弘氏がぼくに指示したことは、ジャンルで云えば『西部劇』がベースで、西部劇では欠かせない馬の代わりがバイクとした感じの作品…ということでした。実際にシナリオ打ち合わせに入ってみて『西部劇』プラス『ロードムービー』の感じかと思いました。なお岩田氏は5話までの打ち合わせを終えたところで、劇場版『超時空要塞マクロス』を担当することになったため由井正俊氏と交代しています。

『モスピーダ』に出てくるメカは、基本的に地球側のメカニックデザインは荒牧氏、インビット側のメカニックデザインは柿沼氏が担当していました。柿沼氏いわくインビット側は甲殻類が発想のモデルになっているそうです。そのせいかネーミングもそんな感じになっています。またこの作品を通じてアートミックの鈴木敏充氏、メカニック監修の窪田正義氏とも面識ができました。

最初は単に『モスピーダ』というタイトルでしたが、鈴木敏充氏アートミック社長の意見で『モスピーダ』の前になにか…例えば機甲なんとかとつけたられないか…ということから、インビットとの物語りが新たに始まるという意味で『創世記』を組み合わせて『機甲創世記モスピーダ』という名称になりました。

当時のタツノコプロは、JR国分寺で西部鉄道国分寺線に乗り換え3つ目の鷹の台駅から歩いて玉川上水を渡りやっとたどり着くという辺鄙な場所。約15分はかかるし駅前にはコンビニや洒落た飲食店などなく正直言ってどこの田舎かと思いました。当時ぼくは文京区に住んでいたので、電車の乗り継ぎ時間によっては2時間半はかかるという遙かな場所でした。特に西部鉄道国分寺線の本数が少ないので、タイミングを逃すと20分から30分は待たなければなりませんでした。

タツノコプロの社屋は老舗のせいか老朽化していて大雨の日には雨漏りすることもありました。タツノコプロの社屋から渡り廊下をへてアニメフレンドの二階建てのプレハブがありました。二階の窓から外を見れば一面に畑が広がって住宅はちらほらという風景。企画はタツノコプロですが実際のアニメ制作はアニメフレンドが担っていました。アニメ制作現場ながら、夜はほぼ真っ暗の状態、近所で深夜に食事ができるような場所などなく、コンビニなどもまったくありません。車かバイクがないと深夜に食事などできる場所まで行けないという不便さを感じたものです。

シナリオ打ち合わせでは局プロデューサーや代理店プロデューサーも同席しますので、さすがにタツノコプロで打ち合わせはできず、新宿の喫茶室ルノアール新宿西口駅前店を利用していました。局と代理店のプロデューサー、シリーズ構成の富田祐弘氏、文芸担当の庄司菜穂子氏、制作プロデューサー、シナリオライターそれとぼくという7~8人程でシナリオを作っていたのです。

オープニングの曲が上がってきたとき、自分で絵コンテを描くと他作品と変わらない無難なものになってしまうと思い、アニメーターの感覚で絵コンテと作画をカッコよく表現したいと考えました。そこで総作画監督の宇田川一彦氏の紹介で金田伊功氏にイメージだけを伝え曲を聴きながら自由に描くよう依頼したのです。ただエンディングはワンカットで弱い雨と仲間達の一時の憩いの時という指定で描いてもらいました。

アフレコは早稲田にあるアバコスタジオで収録していました。ここには結婚式場もあるのでエレベーターで花嫁さんを見かけることが多く、ついその初々しさに見とれることもしばしば。

この『機甲創世記モスピーダ』がアーツプロの本田保則氏音響監督との初仕事になりました。もともとそれまでやってきた東映の仕事では音響監督はおかれていませんでした。なので音響監督との仕事は初めてでした。

東映の作品では、アフレコの現場で録音時に声優さんに指示を出したり、必要ならプロデューサーと意見を交わし監督・演出が自分で決定します。音楽はすでにその作品用にあるものを選曲してもらうというスタイルなのでタイトル上では『選曲』とクレジットされています。音楽の必要な場面は絵コンテに線を引き、場面のイメージとどこからどこまで入れたいのかを決め曲を選んでもらうのです。同時に効果音の打ち合わせをしておき、ダビングのときに効果を変えたり足してもらう、選曲されて音楽を変更してもらうなど監督・演出の一存で決めることができます。

音響監督と仕事内容を簡単にあげると、声優さんの確保、スタジオの確保、アフレコの日程の調整、音楽メニュー、効果打ち合わせ、ダビングとスタジオでおこなう作業を総合して担っていまいます。

東映動画と違ってアフレコ現場ではセリフを変更したい場合や、言葉のニュアンスなど気になるところは、音響監督に伝えて相談の上で決めるという暗黙のルールがあります。音響監督を通さずに決して自分で直接声優さんにセリフの指導などをしないという礼儀と思っていただきたい。必要があって直接指示する場合は音響監督に断ります。そうでないと音響監督としてスタジオという現場責任者としての職権を傷つけることになるのです。

主要キャラクターのなかでレイだけはオーディションで決めました。またイエローは普段は男性の声で鈴置洋孝氏、歌う時は女性の声で松木美音氏という設定になっています。松木氏は声量もありCMなのど歌を歌っていたそうです。何話だか忘れましたが、イエローが女性の声で短いセリフ言う話で、折り悪く松木氏は足を骨折しているにもかかわらず、マネージャーに連れられて松葉杖をつきつつスタジオにやってきました。セリフの収録後に声優もみなさんからねぎらいの拍手がおこりました。アフレコの現場は終始どこかアットホームな感じがしました。

『機甲創世記モスピーダ』のアフレコは夜になることが多かったのですが、アバコスタジオの外にファンの方々が数名、なぜアフレコ日が分かるのかと思うくらい毎回のように出待ちをしていて声優さんからサインをもらっていました。これが毎回続くのでさすがにプロデューサーの岩田氏が注意していました。

次回予告のナレーション作成は、アフレコの合間に『ミントちゃんの予告~』という出だしで、ぼくと富田弘氏と文芸担当の庄司氏の3人でアイデアを出しその場で作成していました。予告は30秒ですが、考えたナレーションを自分達で読んでみるとどうしても30秒以上かかります。それでも予告のナレーションはミント役の室井深雪氏なので勢いでなんとかなるのではと。実際の録テスで、ピタリと指定の秒数内に納まりました。ちなみにぼくたちが読むと40秒かかったナレーションは30秒より短く収まったりたりして…普通より早口で、しかもその時のムードなどの感情も入れつつナレーションを一気にこなしてしまうって、さすがにプロの仕事です。

サブタイトルが全部音楽に関係あるものになっているのは、イエローがミュージシャンであること、各話の物語が集まりテーマに至る過程をシンフォニーに例え、サブタイトルに音楽用語を使い統一感を持たせるという考えから、ぼくと富田弘氏、文芸担当の庄司氏が音大卒ということもあり音楽用語辞典で確かめつつ決めていました。

『モスピーダ』は全25話で完結していますが、延長の方向で、『インビットとテレパシーで会話する少女の話』と『巨大遊園地でインビットと戦う話』の2本のプロットができていました。インビットと人間との関わり、インビットが来てからの地球の様相、人々の変化などのエピソードで物語のテーマへの核心へ伏線とアクションの面白さとを加えようと考えていた矢先、突然のスポンサーの降板で25話で打ち切りということになりました。なんとしても突然終わったといういわゆる打ち切り感だけは避けたかったので、残された話数でどう最終話をまとめまるかということに集中しました。

シリーズ構成上で物語が進むにつれてインビット側が地球の進化の過程を実験しているという話、インビットであるアイシャがステックらのパーティに加わる話、そしてイエローとインビットのソルジィとの出会いなどの話で、インビット側の人間との関わり、インビットに生じた心の動きの過程など、やがて最終話でインビットが地球を去る決断をする要因の一部になるエピソードがすでに入ってはいましたが、もっと細やかに描きたかったのです。

最終話でインビットが地球を去る時に、インビットがただの人類の敵としかみえないような表現、いわゆるよくあるパターンには絶対にしたくないということに重きをおいて考えました。シリーズ構成・チーフライターの富田は『レイトゥ』と『シャダウ』というキーワードで示されているモチーフを、この作品を創っている頃からすでに注目され始めた、地球の温暖化の問題や生態系の崩壊という、地球人自身が地球に与え続けている危機的な状況への警告として感じられるようなストーリーとし、作品の打ち切り感を感じさせない最終話のシナリオに仕上げてくれました。

最終話で物語の最初の段階では『侵略者・人類の敵』と思われていたインビットですが、地球から去るときに地球に与えたギフトとは?を考える余韻も欲しかったのですが、さすがに盛り込む内容が多くなりそこまでは描けませんでした。

モスピーダがDVDBOXで発売されるときにライナーノートを書きました。もし1話で死んだはずのステックの婚約者マリーンが奇跡的に生存し、記憶を失いつつも地球で別の物語がはじまるというミニストーリーを書きました。編集者は本当は『機甲創世記モスピーダ』を制作秘話を書いて欲しかったそうですが、それは他のスタッフの方々が書くと思い、もうひとつの物語として書いてみました。この話は地球の環境汚染に向かいあうインビットと人間の交流をより感じるものになるようにと考えたものです。

モスピーダがDVDBOXで発売されるときにライナーノートを書きました。もし1話で死んだはずのステックの婚約者マリーンが奇跡的に生存し、記憶を失いつつも地球で別の物語がはじまるというミニストーリーを書きました。編集者は本当は『機甲創世記モスピーダ』を制作秘話を書いて欲しかったそうですが、それは他のスタッフの方々が書くと思い、もうひとつの物語として書いてみました。この話は地球の環境汚染に向かいあうインビットと人間の交流をより感じるものになるようにと考えたものです。

DVDのイラストは天野喜孝氏で、OVA版『OVA版 機甲創世記モスピーダ LOVE,LIVE,ALIVE』1985年で新作カットに使われていたものです。
『機甲創世記モスピーダ』のキャラクターデザインも天野氏によるものです。

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※本稿はぼく個人のセルアニメ業界での実体験をもとにした記録です。当時の資料としてご覧いただけたら幸いです。個人名は当時の状況を踏まえ実名で記しております。関わってくださった皆さまに心より感謝いたします。

© 2025「モコンさんの庭」プロジェクト

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