健康意識ブームの傍らで。
鍛える以前の話。
「ジム行って体鍛えてみたら?」
「うーん。まあジムはいいや。」
大学生になってから、ジムの話をすることが増えました。高校生の時に比べて運動する習慣がない大学生にとって、ジムは良い運動場所だからです。
周りでは、「夏までに腹筋割りたい」とか、「肩もっとデカくしたい」とか、そんな話をする人もいます。
実際、僕の周りの人にもボディービルの大会に出るくらい筋肉がある人もいます。筋肉がある人はかっこいい。筋肉は無いよりはあったほうがいい。そのことは理解しています。
だからといって、僕が鍛えるためにジムに行きはしません。
行きたく無いのではなく、行けないのです。
僕は右半身に障害があります。原因は新生児脳出血。生まれた頃から右手は上手に動かすことはできませんが、軽く抑えるくらいの動作はできるので、最低限の日常生活は送れています。
四肢が「揃ってしまっている」からこそ、僕の悩みを理解してくれる人は少ない。
左手の握力は50キロ。でも、右は10キロあるかないか。だから、僕はダンベルを持ち上げることはできないし、他にも筋トレの器具を使うことはできません。
ジムに行ったところで、できることは無い。
この事情は、僕の体のことを知らない人にとっては理解しにくいので、友達のなかにはジムに行くことを誘ってくる人もいます。
「ジム行くのは遠慮しとくわー。」
「どうせ続かんくなると思うし。」
僕はこうやって、ジムに行けないという事情、そして僕の右手のことを「ジムが嫌い」という理由にして隠してきました。
「鍛えたら?」
そんな何気ない言葉に苦しむ僕の大学生活のお話です。
僕なりの筋トレ
最近、僕がいつも関わっているグループの人たちは健康意識が高まっている気がします。
「毎日1万歩歩いてんで。」
「まじで日変わる前には寝る。」
「筋肉痛が気持ち良いんや、この効いてる感じ。」
最後の人の言葉はあまりよく理解はできませんが、とにかく体に気をつけて生活している人が多いです。
その影響もあってか、ジムに興味がある人も増え、実際にジムに通っている人もいます。
「一緒に行かへん?」
毎回僕はこの誘いを断っています。無理だもん。
僕の体ではジムに行ったところでできることは少ないと思います。
「ランニングマシーンとかあるよ!」
と、気を利かせて言ってくれる子もいます。
でも、ランニングマシーンのためにジムに行くぐらいなら、景色が変わる中走ったほうがいいと思うんです。
その子が本当に「ランニングマシーンのためだけ」にお金を払ってジムに行くなら、僕も一緒に並んで走ることを考えます。でも、そんなわけないじゃないですか。みんなはマシーンの後に、ダンベルや器具を使ってガッツリ鍛える。
結局、僕はその「みんながメインで楽しむ時間」に、一人でぽつんと取り残されてしまう。そんな置いてけぼりの状況が分かりきっているから、僕はジムに行けないんです。そんな「あるわけない状況」でしか、僕はジムを使うことはできないのだから。
「左側だけ鍛えてみれば?」
そんなことを言ってきた人もいました。でもそれでさらに体のバランスを壊したくはない。
みんな、僕の体をわかってない。と言いたいわけではないのですが、
五体満足の人に、僕の苦労なんてわからない。
仕方ないことなんです。体験したことがないんだから。
でも、否定してばかりじゃだめだと思い、家でできる筋トレをし始めていました。
ほぼできてない腕立て伏せ。
ほぼ左に寄ってるプランク。
そもそも右手を使わなくてもできる腹筋。
自宅でできる筋トレをYouTubeで調べて実際にやっていました。なかやまきんに君の初心者おすすめのやつとか。
自分のできる範囲でやってみよう。
そう思って始めていました。
僕は全身に筋肉をつけることはできないし、それができるならそっちよりも先に右手を動かせるようになりたい。
でもみんなの健康の話にはついていきたい。
その一心で運動してました。たぶん僕ほど他人の影響で運動を始めた人はいないと思います。
僕には体を変えたいなんて意識はないんだから。
みんなの将来のために。
動かない右手。これと一緒に生活していく中で、僕の体の興味なんてものは無くなっていました。
そもそも健康な体でもないし。
みんなが健康意識高く運動してくれるのはいい事だと思います。
筋肉でがちがちの体になりたいという気持ちはあんまり理解はできないですが、程よく筋肉がある体はいいと思います。
みんなが、もし将来体が思うように動かなくなる日が来た時。
その時、僕のことを少しでも思い出してくれたら。
でも、どこか心の奥底で、「そういえば、新生児脳出血のやついたな。あいつ普通に暮らしてたやん。」
そうやって僕のことを思い出して、
まだまだ人生捨てたもんじゃないな
と変わるきっかけになってくれたらいいなと思います。
その頃には僕がどこで何をしているかはわからないし、お互い忘れてしまっているかもしれない。
でも、僕がここで普通に、機嫌よく暮らしている姿が、巡り巡って将来のみんなの心の支えになったらいいなと思います。
僕のこの体での人生を、誰かのためのささやかな希望として全うできたら、それはすごく素敵なことだと思うから。
僕がそう心に誓っているからこそ、僕は僕なりに生きていればそれでいい。
筋肉はないし、腕も太くはないけど、僕は外見よりも内面を鍛える。
そんな1日が今日も始まる。
読んでくださりありがとうございました!
