【連載小説】Especial Pink《Last》『コレカラ』
↓前回までのストーリーです↓
↓そして登場人物紹介はコチラ↓
・三田優生主人公。演劇部所属の女子大生(1年)
・成田久演劇部の先輩(4年、ただし一浪)。紫の髪色がトレードマーク。
・安藤雅美 優生と同じ学科の男子で、実は久と従兄弟同士。
・増子千春 優生と同じ学科の元友人(絶交済み)。そして雅美の元カノ。
・小林直人 演劇部部長(4年)
・相良敦士 演劇部部員(1年)
↓相関図作りました↓


《1》
「優生、演劇部公演のポスター見たよ。本格的なステージに立つんだね」
後期授業終了間近の2月。自分の席で『銀河旋律』を読んでいた私に梨花子と深雪が話しかけてきた。
「あ、見てくれたんだ? あのポスター、実は安藤くんが手掛けたんだよね」
「えっ? そうだったの!? 安藤くん凄いな! 私、芸術のことはよく分からないけど、『プロが手掛けたよ』って言われたら、あれは信じられるレベルだと思う」
「だよね? 本人に言ってあげたら喜ぶと思うよ」
「了解! じゃ、ウチらはこれで。2年になってもよろしくね」
「うん。じゃあ、またね」
私は軽く手を振り、教室を後にする2人を見送った。
「………………」
少しだけ距離は開いてしまったが、2人との交流は何となく続いている。
約3ヶ月前、私はグループの中心にいた千春からのケンカを買った。もっとも彼女にケンカを売っていた自覚はなかったと思うけれど……。
孤立覚悟で挑んだ『戦い』だったが、蓋を開けてみれば、意外な展開が待っていた。
千春側に付くと思っていた梨花子と深雪が「実は私たちも千春のワガママや口の悪さを我慢していた」と本人にハッキリと告げたのだ。
孤立した千春は、例の『お遊びサークル』こと『BAY・CLUB』に入会した。彼女とは、あれから一言も口をきいていないので、又聞きの情報しか得られないが、どうやらノリの合う団体だったようで、そこで新しいカレシができたらしい。
そして私といえば、今は舞台のことで頭がいっぱいの状態だ。後期のテストが終わり、あとは必死で練習するのみだった。
《2》
「三田さん、今のセリフ回し、どこが悪かったか分かりますか? 『クサカベ』たちのテンポがずれてしまいましたよ」
練習は厳しい。
私たち演劇部は学年関係なく仲がいいが、ただの仲良しグループではない。演劇で繋がっている以上、芝居に関することには容赦ない言葉が飛んでくることがある。今回は地元の文化会館ホールを借りて、入場料を徴収するのだから尚更だ。入場無料だから芝居の手を抜いていいワケはないが、料金がかかる以上、最後の舞台にしなければならないという義務は生じる。
「すいません。何も考えていませんでした」
そして……芝居歴が浅いという自己都合など観客には全く関係がない。
キュウさんとコバさんに挟まれて演技をしていると、自分の未熟さがよく分かってくる。
だけど……
「コバさん、今のシーン、もう一度やらせてもらえませんか?」
私は進むことをやめるつもりはない。キュウさんのスカウトがきっかけではあるが、自分で選んだ道だから。
「分かりました。ではもう一度いきましょう。教え子に接するような気持ちを想像しながらセリフを言ってみて下さい」
「はい」
その後、私は何度も同じシーンを繰り返した。そして別のシーンではアーちゃんが何度もダメ出しをくらう。それは私たち1年生だけではない。他の先輩たちも同じような壁にぶち当たっているのを何度も目にした。時にはキュウさんとコバさんが言い合いになることも……。
そう、私たちは真剣なのだ。
文化会館小ホールはキャパ300人規模の広さを持っていた。
会場を押さえたのは、リハーサル用に2回、そして公演前日~当日の丸2日間を合わせての計4日分。その中で少しでも本番に近い空間を作り上げる。キャストはもちろんだが、音響、照明担当にとっては機器を操作できる、限られた貴重な時間だった。
「明日はどのくらいのお客さんで席が埋まるかな?」
私とアーちゃん、そしてキュウさんの3人は、一番後ろのシートから大道具設置後の舞台を見つめていた。ちなみにキュウさんは再び髪を真っ黒に染め、ニュースキャスターらしい風貌になっている。
「まあ、よくて100席くらいじゃねーの? しかも半分以上は身内か関係者……」
「でも、昔の僕みたいにフラッと会場に入ってくるお客さんは絶対にいますよ!」
「そうだよね。縁って不思議だね」
私たちは無言になる。それぞれの思いを胸に抱えながら。
「おーーい!! アーーちゃーーん! どこにいるの!? 衣装の最終チェックしたいんだけどぉ?」
舞台から誰かがアーちゃんを呼んでいる。
「僕は、ここだよ!」
思い切り両手を振るが、明るい舞台からは見えないかもしれない。
「じゃあ、僕、あっち行くね」
アーちゃんはそのまま舞台に向かって去って行った。
「……………」
「……………」
同じ空間内に人はいるのに、何だかキュウさんと2人きりになった気分だ。
「いよいよ……ですね」
「うん」
私たちが『恋人』でいられるのも明日で最後だ。そう思うとさっきまで考えていたことが、喉の近くまで込み上げてくる。
「キュウさん」
彼の方ではなく、舞台に視線を向けたまま、私は口を開いた。
「ん?」
「ありがとうございました。あの日の学食で、私のことを見つけてくれて」
「いやいや、こちらこそ」
「もしもキュウさんと出会っていなければ、私は5歳のトラウマを抱えたままで大学生活を送っていたと思います」
「トラウマ?」
「はい、おかげで自己肯定感がメチャクチャ低くなりました」
「ふ~ん、5歳で何があったの?」
キュウさんの優しい瞳に促されて、私はあの出来事をポツリポツリと話し出した。周りから受けていたアキホちゃんとの扱いの差。そしてアキホちゃんのピンク色のアイスを『欲しい』と言ってしまった時の容赦ない仕打ち……。
「欲しいものを欲しいなんて言ったら、バチが当たるんじゃないか……実は最近まで呪いのように染み付いていたんですよね」
「………………」
「だけど、キュウさんや演劇部のみんなと、刺激的な日々を過ごすうちに、私は少しずつ変われたんだと思っています。今が一番楽しいです」
「俺も、今が物凄く楽しいよ」
「キュウさん」
私の目線は相変わらず明るい舞台だ。その目力を強め、軽い深呼吸をしながら、自分の気持ちを整えた。
「ん?」
「好きです」
「ふ~ん……ん!? え、えぇっ!?」
「私はキュウさんが好きです。紫織さんに一生敵わないことを分かった上で言っています。だから応えて欲しいなんて間違っても言いません。でも、明日だけは『はるか』を見て欲しいです。私も『柿本』を全身で愛しますから」
「わかった」
「ありがとうございます」
この私が欲しいものを欲しいと言えた!
勢いとはいえ、こんな勇気は5歳以来かもしれない。
しかし……
(い、言っちゃたよ)
今になって心臓の音を倍速で感じ始めた私は、急にここから離れたくなり、無意識に足を一歩踏み出した。
「じゃ、じゃ……じゃあ、私も行きますね。よろしくお願いしま……」
「待って、ユーキ」
そんな私の腕をキュウさんが思い切り引っ張る。
(えっ?)
そして、私はそのまま後から抱き締められた。
(えっ? えっ? えーーー!?)
「キュキュ……キュウさん、みんながいるんですよ」
「誰も見てねーよ」
「…………」
「ユーキ、女の子から……それも年下から言わせてごめん」
「い、いえ…メッソウモゴザイマセン」
自分から告白したのに、頭がおかしくなりそうだ。
「俺も…………ユーキが好きです」
「えっ?」
私は驚いて首を後に捻ったが、キュウさんの顔と至近距離になったことで更に驚き、元の位置に戻す。
「だけど、応えられるかどうかは別かな……って」
「…………キュウさん」
「少しだけ……ほんの少しだけ考える時間が欲しい」
キュウさんは腕の力を強めながら呟くように言った。
《3》
『銀河旋律』公演当日。
公演回数は1回のみ。このような舞台では午前と午後の2回公演をする劇団が多い中、私たちは『一度で最大の力を出しきろう!』という意見が一致した。
そう、泣いても笑っても勝負は1回だ。
「思い残すことはありません。皆さんよく頑張りました。さあ、あとは自分を信じて下さい!!」
円陣を組んだ私たちは、コバさんの力強い言葉を全身で受け取る。
「いくぞ! おー!!」
とうとう開演の時間がやって来たのだ。
私たちは完璧な『恋人』を演じられたと思う。思い出を操作されているという不安に支配されながらも、お互いを信じる『柿本』と『はるか』を。
「好きでした。会うのは今日が初めてだけど、ずっとずっと好きでした」
キュウさんが練習で何度も発したセリフだが、今までで一番、私の中の『はるか』が震えた。
他のメンバーもそれぞれの役割を果たし、練習で苦しんで得た成果をステージに思い切りぶつけた。コバさんの『サルマル』は私たち恋人を不安に陥れ、アーちゃんの『アリマ』は観客をなごませていた。
そしてラスト。記憶を操作されたハズの『はるか』は『柿本』にこの言葉を伝える。
「初めてじゃありません。1年前にお会いしました」
私たちは見つめ合い、音楽が流れる。
そして『柿本』と『はるか』がお互いの方向へと歩き始める。そのタイミングで照明が暗転するのだ。
ここで私たちの『恋人の時間』が終わる。
(…………………)
やはり少し寂しい。
……と、思ったのだが、
(えっ?)
その瞬間、私はキュウさんに思い切り抱き締められた。台本にはない完全なアドリブ。そして彼は私だけ聞こえるように、そっと一言だけ告げた。
「ユーキ、やっと会えたな」
「………………キュウさん」
私も彼の背中に腕を回した。
《4》
「ねぇユーキちゃん、彼氏は元気?」
あっという間に新年度になり、私とアーちゃんは無事に2年生になった。
そして演劇部の先輩として、新しい部員が来るのをワクワクしながら待っている。
「多分……」
「『多分』って、もう遠距離に負けちゃってるの? だめだよー」
「だってあの人、マイペースなんだもん。でもGWにはこっちに来るって言ってたけどね」
「なーんだノロケか」
「いやいや、そんなつもりは全くないから」
「あ、ノロケっていえば、卒業式のキュウさん凄かったよね。髪の色、ピンクに染めてさ、あれってユーキちゃんの好きな色だったんでしょ?」
「し、知らなーい」
ピンクの髪はサプライズだったようで、何も聞かされていなかった私は見事に驚かされた。しかしキュウさんは就職を控えた身なので、1日で黒に染め直している。
「実は僕らメンバー、『ユーキちゃんとキュウさんが付き合うのは時間の問題』だって、前々から言ってたんだよね。あ、コバさん以外ね。あの人、演出の才能あるクセに、恋愛に関することは鈍感だからwww」
「ちょちょちょ、ちょっとナニソレ!? 初耳なんだけど!?」
私がメチャクチャ焦っている中で、部室のドアをノックする音が聞こえた。
「はーい? 開いてますよ」
「し、失礼します!!」
やって来たのは一人の女の子だった。かなり緊張しているのが私たちにも伝わって来る。
「あ、あのー……私、演劇に興味があるんですけど、全くの初心者で……。それでも大丈夫でしょうか?」
「もちろん!!」
私とアーちゃんの声が重なる。そして私たちは顔を見合せながら、もう一度同時に言葉を発した。
「ようこそ! 演劇部へ!!」
《END》
