ネタがない【アマノ文筆クラブ】
『先生! 約束の小説原稿、ちゃんと今日もらえますよね⁉』
「ああ、君か。いや、ネタがなくてね⋯⋯。」
『もう1週間経つじゃないですか!
ダメです困ります! もらいに行きますから!』
「来られたって、渡せるものは⋯⋯。あっ、切れた。」
さあ困ったぞ。
この編集はしつこい。来ると言ったら本当に来るぞ。
──今のうちに逃げよう。
そのとき、玄関扉が激しくノックされた。
「先生ーっ! いますよね!? わかってるんですよ!?」
なんという早さ。さては、すぐ近くから電話していたな?
だが。
それなら、裏の窓から逃げようではないか。私は自由だ!
そうだなあ、酒でも買って、花見でもしようか。
今日は家に帰らず、どこかに泊まることにしよう。
スマホが鳴っている。編集からの鬼電だ。当然のように無視。
コンビニで酒を仕入れるついで、トイレを借りよう。
──私が扉を閉めた直後、扉はとんでもない勢いで叩かれた。
「見つけましたよ、先生! もう逃がさない!
書き上がるまで、家にいます! 絶対許さないんだから!」
こんな迫力で女性に追われたことはない。どうなっているんだ。
ここには窓もない。しまった──!
⋯⋯と、いうわけで、これが妻との馴れ初めなのだ。
完
参加させていただいたのはこちら。
