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好決算でも株は下がる、と書いた翌日に全部戻した。私が何もしなかった理由


2026年7月14日、私は何もしなかった。そして翌15日の朝、相場はきれいに戻っていた。
前日、SKハイニックスがNVIDIA向けHBM4の量産出荷を始めたと報じられ、同時に米国がイランへの海上封鎖再開を発表した。原油は一時9%急騰し、FRBの利上げ観測が再燃した。私のポートフォリオは赤かった。それでも買い増しも売却もしなかった。
一晩明けて何が起きたか。米6月CPIは予想より弱く、7月利上げの確率は50%近辺から15%程度まで急低下した。トランプ大統領は20%の通航料案を撤回し、原油は上昇幅を縮めた。SKハイニックスの米国株は27%反発し、ナスダックは続伸した。
前日に「好決算でも株は下がる」と書いた材料は、一晩で半分が剥がれ落ちた。この記事は、その一日で何が起き、なぜ私が動かなかったのかを記録しておくものだ。AIや半導体に興味はあるが、こういう日に手が止まる人に向けて書く。

前日の下落は、業績ではなく割引率だった

タイムラインには「SKハイニックスがHBM4を出荷、なのに株価は下落」という形で流れてきた。この書き方が混乱を生む。
7月13〜14日に起きたのは、性質のまったく違う2つの出来事だ。
ひとつは、SKハイニックスがNVIDIA向け12層HBM4の量産品出荷を開始したと韓国メディアが報じたこと。これはAI半導体の業績に効く。
もうひとつは、米国がイランに対する海上封鎖を再開し、トランプ大統領がホルムズ海峡を通る貨物に価値の20%を課すと主張したこと。こちらは原油、金利、そして株式のバリュエーションに効く。
前者は将来のキャッシュフローを増やす。後者は、そのキャッシュフローを現在価値に割り戻す割引率を上げる。方向が逆の力が同じ日に来た。だから、業績が良くなったニュースの日に、株は下がった。
株価は、雑に言えば「将来の利益 ÷ 割引率」で決まる。原油が上がると、企業コストと消費者物価が上がり、FRBは利下げしづらくなり、長期金利が上がり、割引率が上がる。利益が何年も先に集中している高PER銘柄ほど強く売られる。前日のNVIDIAやMicronの下落は、AI需要が消えたからではない。割引率が動いただけだ。
同じ「10%下落」でも、この2つはまったく違う。業績が崩れたなら私は保有方針を見直す。割引率が動いただけなら、何もしない。前日は後者だった。だから私は待った。

翌朝、割引率のほうが先に戻った

そして一晩で、割引率の材料が剥がれた。
米6月CPIは前月比マイナス0.4%、前年比プラス3.5%。市場予想の前月比マイナス0.1%より弱かった。コアCPIは前月比プラス0.0%と横ばい、前年比プラス2.6%で、これも予想を下回った。主に燃料価格の下落が効いている。
この結果を受けて、CME先物市場で50%程度まで上昇していた7月利上げの確率は、15%程度まで急低下した。前日にウォラー理事が「強いコアインフレが続けば近い時期の引き締めを検討」と言っていた、その前提そのものが消えた。長期金利は低下し、ナスダックは続伸した。
さらに、20%の通航料案そのものが撤回された。トランプ大統領は「石油はかつてないほど流れている」「ホルムズ海峡はイランを除くすべての船舶に開放されている」と述べ、20%の米国償還手数料を湾岸諸国との貿易・投資協定に置き換えると表明した。前日9%急騰した原油は、この撤回を受けて上昇幅を縮めた。
前日に私が書いた読みは、「20%案は確定した制度ではなく、軍事費の負担を輸入国や荷主に転嫁しようとする政治的な交渉カードだ」というものだった。翌朝、大統領自身がそのカードを別のカード(湾岸諸国の対米投資)に差し替えた。読みは当たっていたが、当たっていたからといって私が前日に何かすべきだったわけではない。むしろ、当たると分かっていても動かないほうが正しかった。
麻雀では、相手の派手なリーチ宣言を見て「本当に高いのか、それともブラフか」を読む。捨て牌や河の様子から相手の手を推し量る技術だ。20%案を「本気の制度ではなく交渉カードだ」と読んだのも、その延長のつもりだった。だが、正直に言えば、ここまで来ると今のアメリカはもう読めない。20%を出して翌日に引っ込め、開放を宣言しながら来週は発電所を攻撃すると言う。捨て牌からは手が読めない相手だ。そして皮肉なことに、読めないからこそインデックス放置が正解になる。読めない相手に押し引きを合わせようとすれば、こちらが振り込む。読むのをやめて持ち続けるほうが、期待値は高い。

SKハイニックスは27%戻した。業績の土台は崩れていなかった

割引率が戻ると、業績の強い銘柄はいちばん素直に戻る。
SKハイニックスの米国株は27%反発した。Micron、SanDisk、メモリーETF、NVIDIA、AMDといった主要半導体株も堅調だった。前日にKOSPIで起きた急落は、SKハイニックスのADR上場に伴う需給、指数の銘柄集中、外国人のリバランス、そして信用取引とレバレッジ商品の強制解消が重なった複合ショックだった。「米国法がKOSPIの強制売却を命じた」という説がSNSで流れたが、これは不正確で、実際は分散要件によるリバランス圧力にすぎない。業績そのものが崩れたわけではないから、割引率が戻れば株価も戻った。
HBM4の中身を確認しておく。SKハイニックスの公式説明では、I/O端子数を1,024本から2,048本へ倍増させ、帯域幅を約2倍、電力効率を40%以上改善している。NVIDIAも、Rubin世代のメモリー帯域はBlackwell世代比で約3倍になると説明している。ただし「初出荷」は世界初のことではない。サムスンは2026年2月にHBM4量産出荷を発表済みで、Micronも量産を始めている。NVIDIAは3社購買体制であり、SKハイニックスの優位は独占ではない。
AIの推論では、GPUの演算能力そのものより、巨大モデルのパラメータやKVキャッシュをどれだけ速く読み書きできるかがボトルネックになる。HBM4は単なるメモリーではない。推論速度と消費電力、つまりデータセンターの採算性を直接左右する部品だ。私は島根で中小企業のAI導入を手伝っているが、導入可否は結局、精度の話より「1回の推論にいくらかかるか」「返ってくるまで何秒待つか」で決まる。HBMはその根っこにある。
現場で導入を進めるとき、コストや情報漏えいの都合でローカルで動くモデルを検討する場面がある。ただ、ローカルに載せられるモデルは学習できる範囲に限界があり、最新情報を持っていなかったり、そもそも間違った答えを返してきたりする。そこをHBM4のような部品が押し広げてくれるなら、私のような地方の現場にとってはありがたい。大きいモデルをより安く速く動かせるようになれば、島根の中小企業でも本番投入できる選択肢が増える。半導体の進歩は、遠い米国株の話であると同時に、私の目の前の見積書の話でもある。

この日いちばんの発見は、IBMが25%下げたことだった

半導体が戻った裏で、IBMが25%下落した。私にとって、この一日でいちばん重い出来事はこれだった。
IBMのクリシュナCEOは、企業の設備投資がソフトウェアからデータセンターのインフラへシフトしていて、その流れに対応しきれなかったと認めた。書簡の中で、6月下旬の数週間、顧客企業が予想される価格上昇を前に、供給制約下のインフラを確保しようとして、設備投資をサーバー、ストレージ、メモリーの購入に振り向ける動きが見られた、と説明している。
この一文が、前日から私が考えていたことを裏側から証明した。
前日、FRBのウォラー理事はAI投資需要の波及で半導体・メモリー・サーバー価格が上がっていると指摘していた。IBMのCEOは、その値上がりを見越して顧客が「価格が上がる前に今のうちメモリーを押さえておこう」と動いた、と言っている。同じ現象を、片方はマクロの物価統計から、もう片方は自社の決算から見ている。
これはAI銘柄にとって両刃だ。業績面では追い風になる。メモリーの不足とサーバー需要の増加は、NVIDIA、Micron、SKハイニックスの価格決定力を支える。実際、IBMで売られた資金の一部はメモリー関連に向かった。一方で金融政策の面では逆風になる。AI投資が半導体価格や電力料金を押し上げれば、FRBは利下げしづらくなる。AI企業の利益は増えるのに、市場がその利益に付けるPERは下がる。そういう局面が起こりうる。
そして同じ日、ソフトウェア側では別のことが起きていた。ServiceNowやAdobeが売られ、Appleは値上げが売上の伸びを圧迫するとの分析で投資判断を引き下げられて下落した。お金が、ソフトウェアから物理的なインフラへ、はっきりと移っている。AIブームは、コードを書く会社ではなく、鉄とシリコンを積む会社に効き始めた。
エンジニアとして正直な実感を書く。もはやAIで作れないソフトウェアは無い、というのが今の結論だ。以前なら数人がかりで数カ月かけた業務ツールが、今は仕様を渡せば動く形まで一気に降りてくる。ソフトウェアそのものの希少価値は、急速に下がっている。
だとすれば、価値の重心はどこへ移るのか。物理的なサーバーや半導体、電力、冷却といった、実体のあるものだ。誰でもソフトを作れる時代になれば、そのソフトを動かす計算資源の奪い合いになる。IBMの顧客が価格上昇を前にメモリーを押さえに走ったのは、その奪い合いが始まっている証拠に見える。コードは安くなり、コードを走らせる鉄は高くなる。この非対称が、これからしばらく続くと私は読んでいる。

AIは、インフレの原因なのか、それとも解決策なのか

ここで、もう一段深い矛盾が出てくる。
同じ7月14日、ウォーシュFRB議長は議会証言でこう述べた。「AI導入などで、生産性の伸びは強い」。CPIが弱かったことについては「任務完了とは認識していない」とし、高インフレを容認しない姿勢を強調した。次回会合での具体的な利上げは示唆していない。
前日のウォラー理事は、AIをインフレの原因として見ていた。半導体もメモリーも電力も、AI投資が価格を押し上げていると。翌日のウォーシュ議長は、AIをインフレを抑える力として見ている。生産性が上がれば、同じ人数でより多く作れるから、物価は下がる方向に働く。
FRBの中で、AIは物価を上げる要因でもあり、下げる要因でもある。どちらが勝つかは、まだ誰にも分からない。だから、AI銘柄の割引率は、AI自身の生産性がどれだけ本物かにかかっている、という奇妙な構図になる。moomooのコメント欄に「つまりまだ確定してないの?」という書き込みがあったが、まさにそれが正解だ。確定していない。
私自身の実感で言えば、生産性はかなり上がった。AIで動画制作のパイプラインを組んでいるが、これが無ければ毎日投稿はほぼ不可能だと言い切れる。制作時間30分ほどで、あそこまでの動画が作れる。少し前を思えば破格だ。ウォーシュ議長の「生産性の伸びは強い」は、現場の肌感覚とも合う。
ただ、生産性が上がったからといって、私が物価を下げる側にいるとは思わない。むしろ逆だ。もっと良い出力を求めれば、その分だけ計算資源の費用がかさむ。私がAIに払う金は、めぐりめぐって半導体やサーバーの需要になり、株価を押し上げている。だから、体感としてはこうだ。AIは私の生産性を上げてくれる解決策であると同時に、確実にインフレの原因にもなっている。この2つは矛盾しない。私は、原因のほうが今はまだ勝つと読んでいる。

私が2日間、何もしなかった理由

私は元プロ雀士だ。麻雀には押し引きという技術がある。相手の手が高そうなら降りる、自分の手が育っているなら押す。局面ごとに判断を変える。
押し引きが機能するのは、局に終わりがあるからだ。半荘が終われば点数は確定する。
インデックス投資には、その終わりがない。持ち続けている限り、局は終わらない。だから、地政学ニュースを見てベタオリする、という判断はここでは効かない。降りた先に、点数が確定する瞬間が来ないからだ。前日の夜に売っていれば、翌朝の27%反発とナスダックの続伸を、私は外から眺めるだけだった。
私は過去に一度、地政学イベントで持ち株を投げた。数週間後、指数はきれいに戻った。私は戻りに乗れなかった。手数料と税金と、二度と取り返せない時間が残った。あれ以降、私はNASDAQ100のインデックスファンドを、どんな下落やニュースが来ても持ち続けている。サテライトで全世界半導体株インデックスも持っているが、これも売買していない。結果として、今もプラスを維持できている。
当時は何の知識もなかった。チャートが下がっているのを見て、反射的に売ってしまった。理屈もなく、ただ赤い数字が怖かった。売った直後は、これで損失が止まったと安心すらしていた。だが、結局は市場が戻る。戻っていくチャートを外から眺めながら、市場は長い目で見れば右肩上がりになるのが原則なのだ、と腹の底で理解した。朝倉慶さんの「株はもう下がらない」というタイトルは、その瞬間だけを切り取れば乱暴に聞こえるが、長期で見れば正しい方向を指していると、今は思う。
今回の2日間でやるべきだったのは、ニュースを分解することであって、ポジションを触ることではなかった。業績が悪化したのか、割引率が上がっただけなのか。前日にこの切り分けができていれば、慌てて売る理由がないことは分かる。そして実際、翌朝には割引率のほうが先に戻った。
厄介なのは、この2つが将来つながりうることだ。原油高と高金利が長引き、社債市場の消化力まで細れば、ハイパースケーラーの資金調達コストが上がる。採算の低いデータセンター案件が先送りされる。数四半期遅れて、GPUやHBMの需要に効いてくる。割引率の問題が、業績の問題に変わる経路だ。そこは見ている。ただし、見ることと売ることは別だ。

明日以降、私が追う数字

短期では、原油が本当に落ち着くのかを見る。トランプ大統領は来週イランの発電所や橋、最終的にはエネルギー関連の標的を攻撃すると述べ、米軍はすでに追加攻撃を発表している。20%案の撤回で「発言リスク」は下がったが、「物理的なタンカー攻撃リスク」は残っている。IMO集計では、7月14日時点で中東・ホルムズ海峡周辺の確認済み海事事件は56件に達している。見るべきは大統領の発言そのものより、海峡の通過船舶数と海上保険の引受条件という実データだ。
半導体では、SKハイニックスの9月以降の実際の出荷数量、歩留まり、NVIDIA向けの割当比率、Samsung・Micronとの価格競争。それにIBMが示した「顧客がメモリーを前倒しで押さえている」という需要が、次の四半期に他社の決算でも確認できるか。
銀行決算は前日、JPモルガンが過去最高益、ゴールドマンも予想超えと、トレーディングと投資銀行業務の好調を示した。信用の面で問題は出ていない。一方で、NVIDIA製H200の中国向け出荷が「ごくわずか」ながら始まったという米高官の発言もあり、輸出規制の緩みは半導体需給の別の変数になる。
利上げ確率を引用するときは、必ず時刻を添えたほうがいい。CME FedWatchは先物価格から計算されるので、数分で動く。前日50%が翌朝15%になったのが、その証拠だ。
長期で見るなら、追うものはもっと少ない。私はNASDAQ100を持ち続けるだけだ。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではない。投資判断は自己責任でお願いしたい。

出典

半導体・HBM4・IBM
The Bell(SKハイニックス、NVIDIA向けHBM4量産出荷)
https://m.thebell.co.kr/m/newsview.asp?newskey=202607090651159040103096&svccode=04
DIGITIMES: SK Hynix reportedly starts Nvidia HBM4 shipments
https://www.digitimes.com/news/a20260713VL219/sk-hynix-hbm4-nvidia-shipments-samsung.html
SK hynix Newsroom(HBM4開発完了・量産体制構築)
https://news.skhynix.com/sk-hynix-completes-worlds-first-hbm4-development-and-readies-mass-production/
Reuters(NVIDIA CEO、Samsung・SKハイニックス・MicronがHBM4認証・生産入り)
https://www.reuters.com/business/media-telecom/nvidia-ceo-sees-robotics-next-major-sector-south-korea-2026-06-05/
NVIDIA公式(Vera Rubin量産拡大)
https://investor.nvidia.com/news/press-release-details/2026/NVIDIA-Vera-Rubin-Ramps-Into-Full-Production-to-Power-Agentic-AI-Factories-Worldwide/default.aspx
ホルムズ海峡・米イラン情勢
米中央軍(CENTCOM)公式:イランに対する海上封鎖再開
https://www.centcom.mil/MEDIA/PUBLIC-RELEASES/Article/4542098/us-forces-to-resume-naval-blockade-against-iran/
Reuters(トランプ大統領、20%通航料案を撤回し湾岸諸国との投資協定に置き換え)
https://www.reuters.com/world/middle-east/trump-says-us-take-investment-deals-with-gulf-states-instead-fee-strait-hormuz-2026-07-14/
Reuters(UAEタンカー2隻へのミサイル攻撃)
https://www.reuters.com/world/middle-east/uae-says-two-tankers-hit-by-iranian-cruise-missiles-strait-hormuz-one-crew-2026-07-13/
米エネルギー情報局(ホルムズ海峡の通過量)
https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=65504
FRB・インフレ・金利
米6月CPI(BLS公式)
https://www.bls.gov/cpi/
ウォラーFRB理事 2026年7月13日講演
https://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/waller20260713a.htm
ウォーシュFRB議長 議会証言スケジュール
https://www.federalreserve.gov/newsevents/2026-july.htm
CME FedWatch Tool
https://www.cmegroup.com/markets/interest-rates/cme-fedwatch-tool.html
米10年実質金利(FRED / DFII10)
https://fred.stlouisfed.org/series/DFII10
※市場概況・個別銘柄の値動き(SKハイニックス27%反発、IBM25%安、JPモルガン・ゴールドマン決算、7月利上げ確率の低下など)はmoomooニュース(配信元:MINKABU、Trader's Web、Fisco、時事通信社、ロイター通信)2026年7月15日朝の市場概況による。

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