ANALYZING BASEBALL (アナライジングベースボール)第三話
【第三話】
神崎(ナレーション)『翌日、監督には話をしに行き、今後のことについては無事了承をもらった』
『ただ他校のデータ収集については規則で許される範囲、許されない範囲があるので、それをしっかり確認した上でやっていくことになり、』
『当面の間は、練習のサポートと自分たちのデータ分析に従事することになった』
ノックの球出しを手伝う神崎の姿がそこにはあった
シーンは変わり、女子マネージャーの松井奈々子が神崎に何かを手渡す
奈々子「神崎くん、これ頼まれてた分のスコアブック」
神崎「お、ありがと奈々子」
神崎は部室の机の上にノートとスコアブックを広げ、作業を始めた
神崎(ナレーション)『監督からはベンチでのスコアラーをやりたいのかと聞かれたが、それは特に希望しないと伝えた』
『それはここまでマネージャーとして頑張ってくれてた奈々子が務めるべきだと思うし、
この間の試合でそれが出来なかったことは当然奈々子だって悔しい思いをしているだろうから、そこに後から割って入ろうなどという気にはとてもではないがなれなかった』
神崎は奈々子とのやり取りを思い出す
神崎(ナレーション)『奈々子からも同じことは聞かれたし、自分のことは気にしないでとまで言われた』
『そういう人間だから、皆から信頼されるのだ、奈々子は』
グラウンドでは浦田が練習を仕切っている
神崎(ナレーション)『新チームのキャプテンは無事、浦田になった』
『当然、誰の異議もなく新チームはスムーズに始動した』
『各々が各々の役割を持って、新しいチームが動いていく』
『俺もその中で、しっかりと自分の役割を全うしてチームに貢献していこう』
『そう…思っていた所なんだけど…』
神崎はブルペンに入り、ピッチャーの投球練習の球を受けている
ピッチャー「次、カーブで」
神崎「OK!」
「ギュン!」
鋭く曲がったその球が神崎のミットに突き刺さる
神崎「OK!ナイスボール!」
ピッチャー「いや、ナイスボールってw めっちゃミット流れてますやんw」
神崎「すまん木良(キラ)、俺のキャッチングじゃちょっとキツいわ。ストライクだから安心して」
ピッチャー(木良)「ノらねぇなぁ、なんか」
神崎(ナレーション)『木良大輝(キラダイキ) この間の夏の大会で唯一、1年でベンチ入りした選手だ』
『真っ直ぐの速さ、変化球のキレ、正直1年とは思えないレベルをしている』
『ひょっとしたら、』
『俺たちの代のエースは、コイツかもしれない』
投球練習は終わり、木良のもとには神崎と藤倉が来ていた
木良「え?配球のプラン?」
神崎「うん、明後日の試合、先発お前だろ?しっかり準備した上で試合入った方がいいと思って」
木良「そんなのいいですって、明後日の状態なんてまだわかんないし」
神崎・藤倉「…。」
木良「大体、高校野球のレベルで配球とかいらないっスから。いつもみたいに真っ直ぐ、カーブ、スラ、適当に混ぜてくれればいいっスから」
「それをテンポよくゾーンに投げ込んでくのが結局一番打ち取れるんですから。無駄に色々考えて時間かけたくないんですよ、サイン交換に。」
神崎「うん、だからそういうのも含めてな…」
木良「じゃあそれでいいっしょ、今ので」
「そんなもんでしょ、高校野球なんて」
木良の軽率な発言により生まれたしばしの沈黙の後に、
神崎は口を開いた
神崎「…わかった」
木良「おけ!じゃあ明後日のプランは『適当に混ぜてテンポよく!』で!宜しくお願いします!」
神崎・藤倉「…。」
藤倉「俺、アイツと組むのヤダ」
神崎「藤倉、あんまそれは言うな…」
翌々日、相手校のグラウンドにて、既に試合は始まっていた
スコアボードによると南翔は1回表に2失点、2回表に3失点しており、
5点のビハインドを背負った状態で2回の裏の攻撃に入ろうとしている
ベンチには無表情でキャッチャー防具を外す藤倉と、一人離れた所で既に心身ともに疲弊している様子の木良の姿があった
神崎は藤倉のもとに寄った
神崎「どうよ?木良」
藤倉「見ての通り。カーブほぼ入んない、スライダーは論外。真っ直ぐ狙い打ちされてどうしようもなくなってる」
神崎「うん、とりあえずスライダーは捨てようか」
「ちょっと木良とも話してくる」
神崎は木良のもとに寄る
神崎「どうよ」
木良「へっ、見たらわかるでしょ、こんなん」
「だから言ったでしょ、当日の状態なんてその時にならないとわかんないって」
神崎「うん、だからそういうのも含めて準備しときたかったんだけどな」
木良「…。」
神崎「まぁいいや」
神崎は言葉を続ける
神崎「真っ直ぐの制球は決して悪くないよな」
「ただ初回の攻撃見る感じ、向こうの打線もそもそも真っ直ぐ狙いだったと思う」
「そこに輪をかけて変化球入んないのがバレちゃったから、二巡目以降も自信を持って真っ直ぐ狙いでスイングされちゃってる」
「狙い球通りとはいえ、お前レベルの真っ直ぐをしっかり捉えてくるのは向こうの打線もさすがだわ」
「まぁお前の調子と向こうの作戦が悪い意味で噛み合っちゃったからこそのこれだけの失点って感じだな」
木良「…解説者さんですか?」
木良の嫌味には微塵も触れず、神崎は続ける
神崎「スリーボールまでは全部カーブでいこう」
木良「…え?」
神崎「最悪ノースリーになっていい、その次の真っ直ぐは絶対見逃すから、まずは1-3から勝負」
「こうなったらバッターもフォアボール取らなきゃいけないって義務が生まれるから、多少は自信を持ってスイングがかけられない」
「明らかに配球変えてきたら向こうだって気にはなる。運よくカーブでストライクが取れれば、向こうは更に後手に回る」
木良「…ノースリーからの真っ直ぐ振ってきたら?」
神崎「絶対振ってこない」
「そんなもんだよ、高校野球なんて」
先日の自分の発言を返されたようなその言葉に、木良は虚を突かれた
神崎「まぁ当然リスクはあるけど、このままじゃ打たれ続けるだけだ、何か変えないと」
「どうする?」
木良はグラブを手に、神崎には背を向けたままベンチから立ち上がった
木良「…フォアボール連発したら、神崎さんのせいっスから」
神崎「OK」
試合は終わり、南翔の選手たちは帰り支度をしている
アイシングをしながら身支度をしている木良のもとに神崎が姿を見せた
神崎「よく立て直したな、あそこから」
木良「なんか、何球もカーブ投げてたら感覚戻ってきましたわ」
神崎の指示に従ったことで上手くいったことに、若干のバツの悪そうな表情を浮かべつつも、木良は言葉を続けた
木良「でも俺、配球主義は否定派ですから」
「打たれんのも、負けんのも、全部ピッチャーの責任だと思ってます」
木良のその言葉は、粗放なだけではない、ピッチャーとしての覚悟や矜持がどこか感じられるものだった
神崎「うん、それでいいよ」
「色々考えるのは、こっちの仕事だ」
木良のもとを離れた神崎は、どこか遠くに視線を向ける
木良(新チームの初陣は残念ながら勝利では飾れなかったけど、)
(でも、俺は…)
(俺の生きる道を、見つけられた気がした)
グラウンドの木々が、風に揺れていた
