英語読書: Have You Eaten Yet?
『もうご飯食べた?』
友達に貸してもらった英語の本を読み終えた。小説でない英語の本を読破できたのは初めてかも。
英語で読んだけれど、かなり中華系な話で、華僑の筆者が、世界中をまわって中華料理屋さんを開いている華僑の人々を尋ねて取材するドキュメンタリー。尋ねた場所ごとに章分けされていて、1話完結なので読書に時間がかかる私にはありがたい。
タイトル“Have You Eaten Yet?”は、中国語で「你吃了吗?」、直訳すると食事が済んだかを尋ねる疑問文だか、中国語話者同士ではこれがなぜか「元気?最近どう?」といった軽い挨拶になる。
日本語版の題名はどう訳してあるのかなと思って調べたら「地球上の中華料理店をめぐる冒険 5大陸15ヵ国『中国人ディアスポラ』たちの物語」。副題 "Stories from Chinese restaurants around the world" を訳してある感じ。
ディアスポラ(Diaspora)というのは、今回初めて知った言葉で、祖国の外で散らばって生きる人たちのことらしい。
世界各地のチャイニーズ
本を開くと、そんなところに?と驚くくらい、世界中至る所に中華料理屋さんがある。そして驚くほど、この筆者はフットワークが軽い。カナダから始まって、イスラエル、トリニダードトバコと続き、北欧、アフリカ、アマゾンまで文字通り世界中を4年かけて撮影チームも連れて周る。しかも、毎回訪れる先は中華料理屋さんなわけで、行く先々で美味しいご飯を食べる。うらやましい。ケニアで無一文になったり、インドで撮影を止められたり、大変な目にもあっているけど。
筆者自身も、故郷と呼べる場所が6つあるという面白い人物で、日本語を含む多言語を操りながら、その土地土地で出会うディアスポラに自分を重ねながら旅をする。なんとなく彼の自分探しを覗き見している感じもする。
また、地元の人に会って歴史に思いをはせるというドキュメンタリーの構造が、司馬遼󠄁太郎の『街道をゆく』に似たものがあり、司馬さんファンとしては嬉しい。
移民の運命と、その2世
どうやって中国を脱出し移住したか、という話もドラマチック(時に法律スレスレ、たまに完全に違法)で面白いのだが、この著者が開拓者である中華料理屋さんのオーナーの、子ども世代にもインタビューするところも興味深かった。移民1世である父親が、その土地へ導かれた運命や地域への愛や社会貢献など苦労しまくったはずの人生を美しく話す一方で、その子ども達は、「小さい頃はお店の手伝いばかりさせられて辛かった」とか、「自分たちはあくまで移民の子であって、完全にはこの国の社会の一員にはなれない」または「親は私に中華系と結婚して欲しがったけど、そうはできなかった」「自分はもうあんまり中国人じゃないと思う」といった話も赤裸々にしていたのが印象的で、異国の地でビジネスを成功させても、いろいろ複雑で綺麗な話ばかりじゃないよなと感じた。
カナダの章を読んだ時に驚いたのが、カナダではかつて中華系移民に、掃除、洗濯、料理という女性の仕事しか許可しなかったのだという話。受け入れはしたけれど賃金のいい仕事は回せないというわけ。ゴールドラッシュの時に中国人がクリーニング屋さんをして、労働着を洗った時にでる微量の砂金をせっせと貯めたという話を聞いたことがあったけど、なんとクリーニング屋かご飯屋さんで働くくらいしか彼らには仕事の選択肢がなかったのだ。それでも必死に働いて、自分の店を持つまでに至るのはすごい。
そして彼らが、次世代に無理に店を継がせようとしないのも驚いた。彼らは好きで料理人になった人ばかりではなく、彼らにとって中華料理屋は移民先でなんとか生き抜く手段だった。だから時には子どもを国外の学校へ送り出して、自分たち親世代にはなかった教育の機会と職業選択の自由を子どもたちには与えているのだ。
移民問題
本を読み進めていく内に、移民というもののイメージが変わっていくと同時に、そもそも祖国、国民の定義ってなんだっけ?と脳みそをわしわしマッサージされている感覚だった。
例えば、アジア人がほとんどいないような場所へ華僑が移住し、中華料理を食べたことも見たこともない人たちに料理をふるまって、現地の食材と好みを取り入れながら料理を工夫し、気がついたら中華料理の一品が国民食の1つになっていたという現象が、世界のあちこちで起きている不思議。国民食を作って根付かせた人って、もう名誉国民では。
移民問題は治安問題に結びつけられがちだけれど、でもこうして真面目に働いて文化を豊かにし地域に貢献する立派な移民もいるわけで、「移民」もいろいろあってひと言ではくくれないよねと思った。多種多様な移民たちに唯一共通するのは、恵まれた場所で生まれなかったことと、自分たち特に次世代の人生を良くしようという向上心と、船に乗る冒険心があることだろう。ちなみに、この本には、山越えしたり泳いだりして越境した猛者も。
中華系ディアスポラとディアスポラ
イスラエルの章で、イスラエルの移民難民受け入れポリシーが印象的だった。「大戦直前にドイツを脱出したユダヤ亡命者のボートをどの国も受け入れなかった。それを忘れない我々イスラエルは、難民を我らの楽園に迎え入れる。」と言ってアジアからの難民ボートを受け入れた首相がいたそうな。ディアスポラが別のディアスポラを助けるって、なんか熱い。
60年代のインドと中国の国境紛争の時に、インド国内の中華系が収容所送りになった苦労を語る人に、筆者が相槌を打ちながら「大戦中にアメリカ、カナダにいた日系移民も同じように苦労したんだよね」と話をするのも不思議だった。中華系に日本人の話はしない方がいんじゃない?と思ったが、ディアスポラ同士は、民族や宗教が違っても、通じ合うものがあるのかもしれない。
また、南アフリカの章で、華僑がアパルトヘイトに巻き込まれて白人にも黒人にもなりきれない彼らが苦労した話が描かれていたり、南米ペルーで黒人奴隷の代替として働かされたクーリーたちの話などもでてきたりして驚いた。世の中は知らないことだらけだ。
最後の最後に、今私の住むマレーシアの華僑の話とマレーシア料理が出てきた時には興奮してしまった。
どの中華料理屋さんも訪れてみたいし、なんなら何ヶ月か皿洗いさせてもらって旅費を貯めながら、ひとつひとつ巡ってみたい。その前に中国語と広東語をマスターしないといけないけれど。
とにかく今、私は中華料理がめっちゃ食べたい!

中華料理への愛を感じる
