キリンが見上げている穴の底
こわいのは靴を履くこと 爪先はあまりにも無防備だから 虫?
それもある。なぜだろう 穴に潜んでいる虫は怖い虫ばかりだ。
ムカデ・クモ・ゴキブリ・ザトウムシ・カマドウマ・幼虫たち・
だけどわたしは キリンがこわい本当に キリンだけは本当に。
キリンの場合は卵でも幼虫でも蛹でも成体でも死骸でも無理だ。
とりわけ 靴の奥からじっとわたしの爪先をつけねらいながら
長大な紫色のベロが靴の内側を前衛舞踏家のように踊り狂って
未読無視の止まらないタイムラインが鉄の処女みたいに静かな
三日月の あ 三日月はキリンの舌に似ている気がして 怖い
キリンが靴に落ちたのは紀元前の出来事だと聞いたことがある
高木の葉でも食ってろと四肢と首と舌を極限までひっぱられた
キリン類の身体は十分に強かったが 高さとは深さでもあると
あえて そうここは あえてあえてといういいかたをするけど
あえてある種のキリンは穴をもとめて 穴という穴の深みへと
生活圏を移していったキリンその代償として穴のキリン略して
キリンは光を捨てたのだ 光から始まる宗教世界以前の漆黒の
穴の深みへ重力にひかれるままに落ち込んでいくその時やっと
キリンは失ったものを惜しんで自らのどこまでも垂れ下がった
脚・首・舌を 逆に・逆に・逆に・重力に打ち勝つための力を
穴の底に生きる最大の生物であるキリンを捕食し合う道を選び
数万年を経て令和の現代にいたると十分な骨格と筋力と距離を
兼ね備えたキリンへと進化しとうとうその極限的重力の底から
地上にもっとも近い靴のソウルを突き抜けて紫の舌にワルツを
躍らせるほどの変態を遂げ その数は絶滅危惧種のそれに近く
だが変態キリンの一個体で地球上に存在する全ての靴の穴へ舌
を派遣することが可能だと君は知っているか その暗黒舞踏を
穴の底の変態キリンはいつまでも君の足の裏を嘗めているだけ
で満足するはずはないのだキリンは隙あれば人間の靴の底から
光を奪還するためによみがえるだろう だから日本人も帰宅後
靴を脱いではいけないし履かない靴には厳重な蓋をしなければ
いけないと あれほどわたしは口を酸っぱくして言っていたが
先日とうとう 靴を履くとき目があってしまった キリンの目
それはほとんど 信号機の黄色くらいのサイズで点滅していた
だからもうわたしは 靴を履くのが怖いのだキリンの歯のこと
そうなにしろわたしはキリンの歯のことについて何もしらない
歯? 虫歯? 虫歯は歯に穿たれた穴だとしたらやはりその穴
靴と歯のどちらも 耳? 口? 臍? 尻? 毛穴? 穴・穴
人間が穴だらけならあらゆる穴には底がありその底にはキリン
見上げているキリン穴のそこに躍る 人間の底にキリンが躍る
キリンが躍る・キリンが躍る・キリンが・キリンが・キリンが
#古賀コン #古賀コン7
