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【応募用一気見版】90年代ゲーム文化史「ゲームセンターに出会いはあったか?」コミュニケーションノート編。

(※こちらの記事は、既にリリース済みの記事、第13~15回「ゲームセンターに出会いはあったか。」を、1本にまとめたものです。)

1990年代のゲームセンターにおける、ちょっと変わった交流ツールと言えば、「コミュニケーションノート」だ。

カラオケボックスや観光地などに置いてある、「内容は何でも良いから、記念に一言残していってね」風のノートで、主にお客さん同士の交流、お店に対する要望などを書き込む「掲示板」のような役割を果たしていた。

当時はまだスマホどころか、ケータイすら普及していなかった。連絡手段と言えば家の固定電話。誰が出るかわからない「家電」が当たり前の時代だった。1990年代後期~2000年代初期になって、ようやくポケベルやPHSが登場したように思うが、とにかく今ほど気軽に個人宛ての連絡を取りにくい時代だったのは間違いない。

その頃、ゲームセンターの住人は、それぞれが少し微妙な距離感を保っており、「あ、あの人はスト2が強いナントカさんだ!」と思いつつも、声をかけて仲良くなるということはあまりなかった。友達というよりも、ゲームセンターという閉鎖された空間のみで顔を合わせる戦友というかライバルというか、毎週顔を合わせるのに名前も知らない、そんな不思議な関係が当たり前だったように思う。

「いつも見てます。スト2強いですね!」
の一声をかけられないシャイなあんちくしょうどもに、差し伸べられた救いの手。それがコミュニケーションノートだった。それまで顔しか知らなかったプレイヤーの正体を、ノートの中でなら知ることができた。名前を知らないプレイヤーがノートに書きこんでいる姿を見かけると、すぐにノートを見に行って、「あぁ!あの人がAOIさんかぁ!」などと喜んでいた。ほとんどストーカーに近いものがあるが(笑)、純粋な興味と仲良くなりたいという好意からなので、問題にならないことが多かったように思う(多分)。

雑記帳なので訳の分からない暗号のような書き込みも沢山あったが、玉石混交のカオスっぷりは、現在のインターネット・SNSに近いカタチだったのではないだろうか。ゲーム情報、店への意見(ほとんどが文句)、同人作家さんのイラスト、そして謎のワード「合言葉はBee」……。おもちゃ箱をひっくり返したような内容で、眺めているだけでも楽しかった。

私はと言えば、まさに半年ROMったような感じで、実際にノートに書きこむのは、もっと先のことになる。

■ゲーマーの名前は3文字がお約束!?


当時、ゲーマーの名前は3文字で表現されることが多かった。
なぜなら、ゲームでハイスコアを残した時などに記録できるスコアネームが、3文字であることが多かったからだ。

ほとんどの人は自分の名前のイニシャル、あるいはアタマを取って「K.K」や「KAZ」などとしていたが、これだけではなかなか個人を特定できない。
しかし、これをコミュニケーションノートの情報と紐づければ、高確率で本人にたどり着けるのだ。
たとえその人がお店にいなくても、「あ、またKAZさんがハイスコア出してる!」のような感じで、知らぬうちにライバル設定したりされたりしていたのだと思う。

どうだろう、この距離感。当時のオタクの奥ゆかしさというか、内向的な部分がモロに出ている。何せここまで、一言も声をかけていない。
今思えば、このじれったい距離感も、実は心地良かったのかもしれない。

私はノートを書かない代わりに積極的にスコアネームを入れるようになり、ジワジワと店内での存在感を増していった。
もしかしたら、顔も知らない誰かに、自分の存在だけは知ってほしかったのかもしれない。
そして、そのスコアネームがきっかけで、私はある人物と出会うことになる。


■ついにきた、ミステリーディナーへの誘い


主に格闘ゲームをプレイしていた私は、「ストリートファイターZERO」「KOF」などのゲームでハイスコアが出た時、自分のスコアネームを残すようになった。また、ボタンをひたすら連打するのが得意だったので、「マッハブレイカーズ」のようなフィジカル勝負のゲームにも名前を残した。

ある日、店舗内で「ストリートファイターZERO大会」が開催された。
多数の出場者の中、私は運良く優勝できたが、スコアネームのまま登録したことで、完全に素性がバレてしまう。仕方がないので(?)、これをきっかけにしてノートに書き込みを行うようになった。

ローカルな大会に優勝したくらいで、有名になるとかそういうのはなかったが、コミュニケーションノート内では挨拶をしてくれる人が増えた。
「強いですね!」「今度ぜひ対戦しましょう!」という文面は素直に嬉しく、自分が認知されたことも喜ばしかった。今でいう「承認欲求」ってヤツだったのかもしれない。

何度かのやり取りのあと、「みんなで会ってご飯でも行きませんか?」という書き込みがあった。「by お腹が空きすぎたZONO」のような名前が書かれていたが、これだけでは男性か女性かの区別がつかない。文字がかわいらしければ女性、という判断も、なんとなく危険な香りがする。
そもそも、「みんな」とは誰を指すのだろうか。前のめりに手を挙げて、自分が含まれていなかったら恥ずかしすぎるので、私はしばし静観した。

気が付くと、ノート内にはある程度のコミュニティが誕生していたようで、5~6人のノーター(とは言わないと思うが、便宜上こうしておく)に声をかけられた。断る理由もなかったので、「では、ぜひ」ということになり、お互いに顔もわからない、謎の食事会がセッティングされたのである。

■ドキッ!クセつよだらけの大お食事会


待ち合わせ場所に行くと、ひと目でそれとわかる集団があった。
ケミカルウォッシュのジーンズにネルをインしつつ、アタマにはバンダナを巻いている男性。非常に細身で、筋トレを怠ったランボーのような風貌だ。
続いて、ケンシロウよろしく、黒のバトルスーツを着込んでいる者。世紀末を感じさせる凄いファッションだ。眼光鋭く、バールのようなものを所持していても不思議はない。
さらに一際目を引いたのが、白衣の男。白衣というか、これは和食屋さんでよく見る調理着…?いずれにしても職場の制服のように見えるが、プライベートでもこの格好なのだろうか。
とにかく、絶対にカタギではないだろうという銀河系個性派集団が、私を待ち受けていたのである。

「どうもこんにちは。」
最初に口を開いたのは、デイトナUSAの筐体に腰掛けていた長髪の女性。
キットクル系と言っては失礼だが、腰のあたりまで伸ばした黒髪が特徴的な人物だ。度の強そうな眼鏡の奥では、こちらを値踏みするような視線が上下に動き続けている。
正直、女性がいたのは意外だった。この濃いメンツの誘いに、女性が乗っかってくるとは……誰かの連れかとも思ったが、どうやら彼女も常連のノーターのようだった。

食事会と言っても、その会場はゲーセンの隣にあるマックだった。
スムーズにひと通り挨拶を済ませはしたが、その後何を話せばよいのかわからない。集まった面々も同様に感じていたようで、今日の天気はどうだとか、仕事は何をしているだとか、当たり障りのない会話をして食事会は終了した。集まってからピュアボーイのスキルを発揮する面々。ケンシロウ(バトルスーツ)などはイケイケで女性に声をかけそうにも見えるのに、実はグループで最もシャイボーイだったかもしれない。人は見かけによらないものだ。

全体的に、紅一点の女性ノーターが場の雰囲気を仕切る感じで、男性陣はなんとなく引き気味という、ありがちな図式だった。ノート内だとあんなに饒舌なのに、なんでリアルになると黙るんだ。キミたちは閃光の指圧師(シャイニングフィンガー)か。
結局、コミュニケーションノートにおけるこのパワーバランスはしばらく続き、男性ノーターと女性ノーターが交わることはなかなかに難しかった。

今思えば、当時のオタク的オフ会と言えばこの雰囲気が鉄板である。
とにかく人見知り傾向が非常に強く、会話が弾まない。
特に、女性なんて藤崎詩織くらいしか話したことがない(偏見含む)のだから、当然と言えば当然である。実は自分の得意な分野になると特有の早口スキルが発動するのだが、とにかくそこに行くまでに時間がかかる。まるで、久しぶりに会ったイトコのようだ。

しかし、そんな食事会からわずか数日後。
誰あろう、この私が、ノートの書き込みをきっかけにある女性と交流する、驚きの出来事が発生するのである。



■果たし状イベント!? 謎の挑戦者、現る!

ミステリーディナーから数日が経過したある日。
コミュニケーションノートには、私宛てのメッセージが書き込まれていた。
「ストZERO大会見ました!すごー!私もストZEROやりこんでます!(弱いけど)鉄拳もやってます!目指せ10連コンボ! 」
そう書いてあった。

うん、そうだね。面白いよね。
でも、なんでこの内容で私宛てに送ってきたの、と思いつつ。
「ありがとうございます!キャラは何を使っていますか?私はリュウ一筋です!(弱いけど)対戦する機会があったらよろしくお願いします!」
と返した。

「弱いけど」的な謙遜は、当時必ずと言っていいほど入れられていたような気がする。文字だけのやり取りなので、変な自慢や高飛車な態度だと思われないよう、みんな細心の注意を払っていたように思う。いたずら半分になりがちな匿名ノートの中でも、きちんとした規律というか、マナーに気を配れているのは素晴らしかった。

何度かのやり取りの後、
「今度対戦しましょう!会社帰りの19時頃に寄ります!by龍」
という、具体的なご指名があった。
リュウ…?タツか…?どちらにしても、勇ましい名前だ。
きっと、ガタイのいいカルノフみたいな人に違いない。
ちょっと怖いけれど、どうせその時間は学校の帰りでゲーセンにいることが多かったので、了承した。

■所長 19:00  ドラゴンに遭遇

19時。店内を見渡すと、何人かのそれらしき人物がいた。
なにせ「龍」だ。100パーコワモテだろう。(偏見)
しかし、識別する目印がない。バラでも咥えておけば良かった。
しばらく狼狽していると、背後から
「すみません、遅くなりました!電車がモロ混みで……!」
という女性の声がした。

「龍です!」
背中まで届きそうなロングヘアは明るめのブラウンに染められ、前髪の間から覗く瞳はパッチリ。もしサラ・ブライアントが日本人だったら、こんな感じだったに違いない。オタクを微塵も感じさせない佇まい、どこか垢抜けた雰囲気で、彼女は私たちよりもずっと大人に見えた。

「……いや、僕、ずっと男性だと思ってました!」
声がうわずる。当時私はハタチそこそこだったと思うが、どうも女性と接するのが苦手…というか、何を話せばよいのかわからなくて、学校でも女子を避けていたようなフシがあった。それが、リハもなしでいきなり本番である。そのとき、実は2秒で帰ろうと思っていたのを覚えている(笑)。

当時、コミュニケーションノートを介した出会いは、恋愛目的でないことがほとんどだった(数年後には様変わりするが)。今回のケースもそれで、私と龍さんはゲームをしたり休日に遊びに行ったりと、個人的に仲良くはなったが、恋愛に発展することはなかった。
なかったというか、もしかしたら、やり方がわからなかっただけかもしれない。とにかく、遊びに行って楽しいと思っても、彼女の最寄りの駅まで送って行くことがあっても、その先のイメージは全く湧いてこなかった。
(もっと真面目にときメモをやっておくべきだった)

■さらば青銅聖闘士、また逢う日まで

一度だけ、近しい友人に彼女のことを話した。
「あぁ、所長クンと龍さん、最近仲良いよね。あと、龍さんって髪が長くて、ドラゴン紫龍に似ているよね。」
というありがたいコメントを頂戴した。
ドラゴン紫龍……似てねぇ……あ、龍だからドラゴン紫龍なのか……
そのあたりから、なんとなく彼女を見る目が男友達というか聖闘士というか、とにかく女性ではなくなっていき、私の興味は新作の「ストリートファイターZERO2」へと移行していった。

そのうちに、龍さんもノートに姿を現さなくなり、連絡も疎遠になった。
風の噂によると、実のお兄さんと結婚したらしい。(絶対嘘だろ)
コミュニケーションノートの出会いは、こうして音もなくフェードアウトしていくことが多かった。振り返れば、始まりの距離感が、別れの距離感でもあったというか、近くにいながらも、どこか密着はしないスキマがあった。門戸は開放されていたが、本丸のATフィールドが無敵だった。
これもまた、現在のネット文化や出会いのカタチに近いものがあると思う。

今思えば、コミュニケーションノートは少し不思議な場所だった。
ゲームの攻略情報を交換する人もいれば、対戦相手を探す人もいた。
仲間を見つけた人もいたし、恋人を見つけた人もいた。

私はと言えば、せっかく巡ってきたチャンスを、見事なまでに友達ルートへ分岐させたわけだが……(笑)

それでも、あのノートがなければ出会えなかった人たちが沢山いた。

SNSもマッチングアプリもない時代。

ゲームセンターの片隅に置かれた一冊のノートは、
確かに人と人を繋いでいたのである。

☆今回の研究結果
・スマホやSNSがない時代のコミュニケーションは、距離感が独特。
・人生にセーブポイントはない、はマジだった。
・ノート仲間は、30年が経過した現在でも交流が続いている。
・次世代に語り継ぎたい、ゲーム文化の1ページである。

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