「地方女子とお酒」から膨らんだ話
唐突だが、私はこの先の人生で殺人や傷害といった重大犯罪の「加害者」になる可能性も「被害者」になる可能性も否定していない。
当然、人を傷付けたい訳でも、傷付けられたい訳でもない。
可能性はゼロとは言えないという話である。
①
高校を卒業した頃であったと思うが、人づてに小学校の同級生が亡くなったと聞いた。
交通事故であったらしい。
私の記憶の中では、明るく人当たりも良く人気のある女の子であった。
私自身も仲が良かった。
彼女の実家は小さな商店を営んでおり、気温の高い日はその店でアイスを食べ、普段家では見ない高そうなお菓子(とはいっても数百円)を、観察していたことを思い出す。
ご両親とも、子供に優しい穏やかな大人であった様に思う。
その後の人生でも、自ら命を絶った友人、仕事も家庭も順調であった知り合いの突然の事故死など、何の前触れもなくある日突然、私の世界から姿を消す人々を見送った。
死なないまでも、性的暴行にあった女友達や、夜中の繁華街で車に詰め込まれて連れていかれた男性や、克服したと言いながら薬物に囚われ続けていた草野球チームのメンバーは、今どうしているだろうか。
仲間たちの話題に上らないという事は、きっと今でもどこかで生きているのであろう。
傷は癒えただろうか。それぞれに抱えた不幸は誰の責任であったのだろう。
我々の隣にはいつも、苦しみの原因が素知らぬ顔でたたずんでいる。
②
4.5年ほど前、友人が営む飲食店で、20人ほどが集まる小さなイベントがあった。
知り合いのバンドの演奏だったのだが、1時間ほど聴き入った後、集まった人々それぞれで、お酒の入った談笑が始まった。
その中に、友人と呼ぶほどにはお互いを知らず、かといって知り合いと言ってしまうと少しの違和感を覚える、一組の夫婦が居た。
年齢は、私よりも2つ3つ上で、3人の子供さんが居る。
一次産業を生業にしている旦那さんは、細身ではあるがしっかりとした筋肉を持ち、真っ黒に日焼けした肌と短く整えられた髪型も相まって、精悍な雰囲気を持つ。
薄い茶色の長い髪が少し波打つ奥さんは、とても美しい顔立ちをしているが性格は豪胆である。
母ちゃんは強い、そんな事を感じさせる迫力を持つ。
精悍で程よい気弱さも混じる旦那さんと、美しく強い奥さん、素敵な夫婦である。
(便宜上呼び方を、旦那さん 奥さん この後登場する娘さんの事は娘 私の事はカズで統一しておく。)
他愛もない話で杯を重ねていたが、その夫婦の次女が来年進学で上京するという話題に移った。
西日本の片田舎から東京かと、20数年ほど前の自分を思い出しながら、彼女に幸多からん事を願う。
本人も目の前に居たので、話しかけてみた。
「環境がガラッと変わるね。お酒は覚えた?」
「いや、まだです。お父さんとビールは飲んだけど」
と、まだまだ幼さの残る表情で、はにかみながら私の目を見て答えてくれた。
良い子だな。と思う。
娘への私の問いかけに、奥さんが「カズさん!お酒は20歳から!娘に変な事教えないで!」と、冗談交じりに会話に入ってきた。
「まあね。でも、大学に行くと歓迎会とかサークルの集まりで、そういう場面もあるでしょ。変な男も多いから、お酒は早く覚えておいた方がよくない?」
という私の意見には、
「そういう場所には行かない様に言ってあるから!ね?娘?」
と、答える。
少し困った表情で、「うん」と答える娘さんを見ながら、
私は、頭の中で『想定が甘い』と呟いた。
どこの世界に、親が行くなという場所に近づかない子供が居るだろうか。
好奇心を諦められる若者が居るだろうか。
人間は、知らないものを見たい。憧れたものに触りたい。
大人に若者の興味や好奇心を止めることなど出来ないし、止める必要などない。
大人が出来る事といえば、最悪の事態を想定しそれを防ぐ方法と武器を伝えるのみである。
この娘さんのケースで私が想定している事は、お酒に慣れていない状態で飲み会に参加し酔いつぶれ、そこに運悪く自分の欲望を優先させる男が居た場合と、女性の飲み物に薬物や睡眠薬的なものを混入させ、はじめから連れていくつもりの男が居る場合である。
若者の好奇心が抑制できない事は重々承知の上なので、「飲み会に参加させない」という方法は、考えていない。
行く事を前提に対策を与えるべきだ。
最悪なケースが起こった時に、「だから行っちゃダメって言ったのに!」と娘を責めても、それは親の無責任さを現わすだけである。
「いやでもさ、友達の付き合いとか憧れの先輩なんかに誘われたら、断れない事もあるじゃない?ノリが悪いとか言われてさ。そんな時に変な男が居たらと思うと、心配になるじゃない」
と、話を続けた私に、「カズさんみたいな人ばかりじゃないから!でもカズさんみたいな人も居るから、飲み会とか行っちゃダメだよ!」と娘に釘を刺す。
私みたいな人ってなんだよと、内心少し不快に思いながら、それ以上この話を続ける事はしなかった。
自分の娘には、そんな不幸など訪れない。
本当に悪い人なんかいない、誰でも話せば分かる、そんな価値観や概念を持っているのだろうか。だとすれば、危うい。
いや、この場では周りの目を気にして、そう言っているだけで、家では伝えるべきを伝えているのだろう、愛娘が東京に行くのだ、その対策を怠る親など居るものか。
しかし万が一、万が一だが、地方から上京する女の子が抱えるリスクを認識していないのであれば…と思うと、お節介を焼きたい衝動に駆られる。
私の頭が想定する最悪のケースは、私の経験体験が導き出すものである。
お節介を焼きたい衝動も交えて、私の想定が生まれる理由を数字を使いながら、説明したいと思う。
今読んでくださっている方の中にも、「考えすぎ笑」「ドラマや映画の話でしょ」と感じる方は多くいるであろうが、そんな事はない。
私の主観の前に、客観的なデータから紹介していく。
③
昨今の、ジェンダー意識の高さや女性の社会的立場の向上促進、ハラスメント対策を主体としたコンプライアンス徹底などで、今までの時代であれば見過ごされていた内容も公になっており、その数は年々増加傾向にあると思われる。
不同意性交(強制性交)は、2024年の確定値(捜査済み)で、3,936件。
不同意わいせつ(強制わいせつ)は、同じく2024年の確定値で6,992件となっている。
発生地域は、東京がワースト1で次に大阪となり、事件数だけで見れば大都市であればあるほど当然多い。
被害者の年齢層は、10代(13歳~19歳)が約40% 20代が40%強であり、大阪府警のデータを見ると、全体の3割以上が学生(中学生 高校生 大学生 専門学校生)となっている。
これは、不同意性交のみの内容であり、不同意わいせつを含めると被害者の年齢層はもっと低くなる。
そして、この数値は警察が把握している事件のみであり、誰にも相談できず、したとしても泣き寝入りしているケースは含まれていない。
被害の性質上、表に出ている数は僅かであり、試算では15倍~25倍(下記、内閣府の通報割合がベース)の被害者が居るのではないかと思われる。
内閣府のデータでは、不同意性交の被害者のうち警察へ通報する割合は4%~6%となっており、2024年の被害者数が3,936件なので、実際には約63,000件~98,400件の被害者が考えられる。
この被害者のうち、4%は男性である事も付け加えておく。
つまり、少なく見積もって年間60,000人の人々が被害にあっており、そのうち10代と20代で約8割であるから、54,000人。
東京での被害者は約15%であるので、8,100人。
関東以外の地方から、進学で上京する女性数は年間約20,000人~25,000人であるが、東京という経験が全くないので、特に危ないと言える。
上記の上京者に関東を含めていないのは、親も含めなんとなく東京の肌感はあるだろうし、それなりに対策はしているだろうという想像と、実家暮らしの可能性がある為だ。
東京以外の関東からの上京者を計算に含めると、約50,000人となる。
ちなみに、東京都在住の10代20代女性は合わせて135万人だ。
どうであろう。
単純に考えてはいけないが、東京に住む10代20代女性135万人に上京組50,000人が加わった約140万人のうち、8100人は不同意性交の被害者となっている。(2024年のみを切り取った場合)
140万分の8100、すなわち約0.006%。
10万人に6人。16,666人に1人の割合である。
しかし、すでに東京在住の135万人と関東からの上京組は、東京経験があるので、東京のメリットデメリット、危険な場所やシチュエーションも個人差はあれども理解を持っているだろう。ここが一つのポイントである。
関東以外の地方から上京する年間20,000人~25,000人の女性はそれが分からない。なんなら、電車の乗り方もタクシーの乗り方も知らない女性も居る。
危機回避能力は経験に依存する。その為、地方から上京したばかりの女性の危うさは、想像に難くない。
つまり、被害者になる可能性は誰にでもあるものの、東京に住んでいる期間が長い人ほど、その経験から危機回避能力は高まっているので、分母には含まれない場合もあるということだ。
そして、東京経験がない、危機回避能力がゼロに近い地方からの上京者は、もれなく分母に含まれる。
実際は140万分の8100ではなく、もっと高い危険性である事を理解してほしい。
そんな彼女達に対し、必要な情報を渡し身を守る術を伝える事は大げさな話であろうか。
お酒は20歳から、それはそうだ。
法律であろうが条例であろうが、ルールを守る事は大切である。
ただし、大切な人を守ることよりも優先させる必要はない。
④
次に、加害者と発生場所を見てみたい。
東京都に住む10代~60代の男性は490万人おり、そのうち日本人が453万人外国人が37万人となる。
これに、東京近郊に潜伏していると思われる不法滞在外国人男性が約15,000人から18,000人存在し、なにかしらのコミュニティに所属している。
加害者の年齢を見てみると、
19歳以下 12%~15%
20代 25%~30%
30代 20%~25%
40代 15%~18%
50代 10%~12%
60代以上 5%~8%
となっている。
被害者が大学生の場合、接点がある可能性が高く、なおかつ年齢割合を大きく占める10代~30代が加害者である事がほとんどだ。
東京在住の10代20代を合わせた男性数は145万人、30代は88万人であるので、合わせて230万人ほどとなる。
当然、230万人に警戒せよと言っている訳ではない。
ただの数字である。
続けて、発生場所を。
・家(集合住宅・一戸建て) 50%~55%
被害者の自宅 加害者の自宅 知人の家など
・宿泊施設 20%~25%
ラブホテル ビジネスホテル 旅館など
・乗り物 5%~8%
自家用車 レンタカーなど
・その他の屋内 5%~7%
カラオケボックス ネットカフェ 職場やサークルの更衣室など
・屋外 5%~8%
夜間の路上 公園 駐輪場など
となっており、これらのデータが現わすのは、夜道や人気のない場所で知らない相手からいきなり襲われるといったケースは少なく、その多くはお互いの家に入る事の出来る、知り合い以上の人物が加害者である事を示している。
被害者の警察への通報率が低い事も、加害者が知り合いや友人であったと仮定するのであれば、納得できてしまう。
事件そのものによる精神状態に加え、取り調べや裁判で被害状況を事細かに聞かれる際の心理的負担も大きな理由ではあると思うが、加害者が知人であるケースは、様々な負担と影響があるだろう。
これらの情報から、上京する娘さんに伝えるべきは、なんだろうか。
「危ないかもしれないから、飲み会に行ってはいけないよ。お酒は20歳になってからだよ。」ではない事だけは確かである。
⑤
大学生である限り、サークルなどの集まりはある。
飲み会もあるだろう。居酒屋ではなく、自分や友人の家で行われる場合もある。これらは避けられない。
そして、そのほとんどは楽しい時間になるはずである。
大学で出会った仲間たちとの時間を楽しみ、様々な経験をする貴重な時期である。
しかし、非常に低い確率だが被害にあってしまう女性が居る事は事実であり、その低い確率で起こった事は、その女性の人生を大きく変えてしまい、場合によっては人生が終わってしまう。
我々の世代であれば、スーパーフリー事件は忘れる事が出来ない。
あの事件では被害者は400人以上いたとされているが、起訴されたのはたったの3件である。自殺者も出ている。
スーパーフリーの様な大きな組織が現在もあるとは思いたくはないが、いつの時代も似たような人々は存在する。
あの事件で有罪判決を受けた男が、公判中こんなことを言っていた、「新入生の女性は酒も弱いしゲームも弱いから、すぐに〇〇せる」
⑥
客観的なデータと言いながら主観も入ってしまったが、ここからは私の主観のみとなる。
男側からの目線で言うと、特に10代20代のうちは経験が少ないだけに、セックスへの興味や願望が異常に高い時期である。
それに加え、裏社会というかアウトローな世界観に憧れる時期でもある。
人という生き物は、自らが摂取した情報を行動に移す癖の様なものがある。
潜水士をモチーフにした映画で感動すれば、潜水士になろうかと思ったり、ゴッドファーザーを見た翌日は、なにか尊大な雰囲気で街を歩いてみたりと、頭の中の映像を自分に置き換えて追体験を望む。
なので、食べ物と同じく頭が摂取する栄養(情報)も、良質で自分との適合性が高いものがベストである、というのが私の持論である。
ただ、その取捨選択は若いうちには難しく、悪質な栄養も人格を形作る時期には必要であるので、偏ってしまう事もある。
ただ、人間偏ると、碌なことはない。
そして、偏った人間が集まると危険度が跳ね上がる。
若い世代に限った話ではないが、同じ偏った考えを持つ者同士のコミュニティは暴走しやすい傾向にある。
似たような思考回路の人間が集まり、自分たちの居心地が良い状態にするために他の考えを除外し、それはおかしいという言える人間がいなくなってしまう事が理由である。
ストッパーが存在しないために、少しの違和感を感じたとしてもそのまま進み続けてしまう。
メディアなどで見る、過激な主張をする個人やコミュニティはその状態になっており、本来の目的から遠ざかり他の考えを論破する事に情熱を燃やしている。
これは、暴走から他者論破に進む過程で「正義」を付与するために起こる。
自分たちは正しいという大義名分を、自らの行動や理念に付与するとどうなるか。
自分たち以外の意見は、「悪」となるのである。
この正義と悪の構図になった瞬間に、言葉や理屈は通用しなくなる。
相手を思いやり、他者の幸せが自分の幸せに繋がるといった宗教哲学は吹き飛び、正義という名の暴力が始まる。
そして意外にも、世の中で正義という大義名分を得る理由は幼い。
例えば、嗜好用大麻を解禁せよ日本は遅れていると主張する人たちは、外国では当たり前に使われている事を大義名分にするが、実際に大麻を解禁している国は10か国前後と少なく、アメリカは州によって判断が違うが嗜好用大麻を認めているのは、50州中24州である。
大義名分にするほどの正当性はない。
正当性はないのだが、コミュニティの中で「そうだよね!」「外国では当たり前だもんね!」と共感しあうと疑問を持たなくなってしまう。
そしてそのまま、正義へと進化し主張の大義名分に変貌してしまう。
このレベルに行くと、他者の声は届かない。
これと同じことが、あらゆる場所で起こっており、犯罪においても無関係ではない。
犯罪において最も注意しなくてはならないのが、罪悪感の喪失である。
人を傷付ける・迷惑をかける・困らせる、こういった事を防ぐのは罪悪感であり、罪悪感の担当は法律ではなく、宗教である。
日本だけではなく世界全ての国と地域において、他者への攻撃を抑制する根源は宗教であり哲学でもある。
ただ、宗教によって他者の定義が違うので、問題の原因にもなり得るが、これはまた別の話。
現代日本は、宗教観が低下している為に、宗教や哲学によっての行動抑制が難しくなってきている。
その為、それに代わる価値観を探した結果、情報に行き着いた。
それも、自分にとって都合の良い情報である。
宗教は時に自らを否定するが、都合の良い情報は否定しない。
肯定しかしないので、自らの行動を省みる機会は失われる。
その結果、都合の良い情報が正義となり、自らの行動の大義名分になってしまった。
正義の大本が歴史に培われた思考回路ではなく、自分に都合の良い情報となり、大義名分が獲得しやすくなった結果、罪悪感を喪失しやすい状況となっている。
犯罪が増大しやすい時代と言える。
話を元に戻すと、性被害もこれに当てはまる。
女性に乱暴をするという行為への罪悪感が喪失しているという事は、その行動を是とする思考回路が存在しているはずだからだ。
その原因が組織的な集団心理なのか、個人の歪んだ認知なのかは分からない。
分からないが、何かしらの大義名分があるという信じられない結果に結びつく。
この先は、犯罪心理学の分野になるかと思うので、今回はこれ以上進めない。
ここまでの流れで分かる事は、大学新入生を代表に都会経験が少なく、お酒の場にも慣れていない若い女の子はターゲットにされやすい、性被害の加害者は知り合いや顔見知りである可能性が高い、事件が起こる現場は密室がほとんどであるという3点となる。
それらを踏まえ、私からのアドバイスは、
①酒は危険であり、誘惑はあるだろうが泥酔するまで飲むな。
②上京するまでに、親と一緒に泥酔するラインを見極めろ。
③薬物には手を出すな。誘惑はあるだろうが絶対に手を出すな。
④大麻は他の薬物の入り口になる。皆やっているからの言葉に惑わされるな
⑤薬物はタバコ型・注射器だけではない。錠剤と紙に気を付けろ。
⑥テキーラは飲むな。
⑦バーやクラブで、フルーティーなカクテルを他人から渡された場合は飲むな。高確率でアルコール度が高い酒が混ぜられている。
⑧飲みやすいだろうが、カクテルは基本的にアルコール度数が高いぞ。
⑨場所を問わず、飲み会の席でトイレに行く場合、自分のコップは空にしておけ。少しでも残っていたら、薬を混ぜてくるやつがいる。
⑩トイレから帰ってきた時に、新しい酒が用意されていたら飲むな。
⑪終電までには帰れ。終電を逃した瞬間、街は顔を変えるぞ。
⑫それでも終電を逃した場合、高くついてもタクシーで帰れ。
⑬渋谷・新宿・池袋・銀座・六本木は、22時まで。
⑭彼氏以外、家に入れるな。友達のたまり場になるのは避けろ。
⑮密室に行くな。
⑯偏った思想を感じたら離れろ。
⑰大麻とタトゥーを認めない日本はおかしいという人に出会ったら離れろ。
⑱なんにもしないは、なにかする
⑲一人で冒険する際は、居酒屋であっても呼び込みには着いていくな。
⑳クラブは、経験豊富な年上女性と一緒に行け。
以上。頑張れ、地方女子。
⑦
さて、今回は女性の性被害が主な内容となったが、話の中心は「想定の甘さ」である。
娘に訪れるかもしれない災いの想定
法律・ルールを破る危険性の想定
被害者・加害者共に、最悪のケースを想定していれば、防げた不幸もあったはずである。
この想定の甘さは、前述の通り幼稚な正義と大義名分に深く関わっているが、昨今のクリーン化で暴力に慣れていない人々が増えてしまった事にも起因する。
暴力は褒められたことではないが、無くなる事もないので、対応はしっかりとしておきたい。
という事で最後に、犯罪ではないが日常に溢れるクリーン化の弊害を観察し、話を終えたいと思う。
⑧
クリーン化と言う暴力や怒りを排除する傾向は、正義を浮きだたせてしまい、その結果暴力と怒りを生み出すという皮肉な結果となっている。
コロナ時のマスク警察などは分かりやすい例で、「マスクをしろ」という正義が、マスクをしない人への暴力となってしまった。
あの時期の特に都市部において、マスクをする事は当たり前であり義務に近いものであったが、国がその緩和を求めた後も、マスクという正義は存在し続けた。
そこに歪みが生じ、マスクをしていない人を探し、見つければ攻撃を加えるという人々が量産された。
ややこしいのは、その攻撃に正義が付与されている、つまり言い返しづらい事にある。
指摘された人が、マスクはしなくても良いと国も発表しましたよと言っても、「老人が不安になるだろう!」と言われると、どうにも言い返しづらい。
ロックダウンで不要不急の移動、特に都府県をまたぐ移動を制限された時にも、他府県のナンバー車を見ると怒り出す人々が生まれた。
県境に住んでいる人や仕事でやむを得ず移動している人が説明しても、「紛らわしい!」と攻撃をやめない。
そのうち、車に『〇〇県ナンバーですが、☐☐県(その地域)在住です』と張り紙をして、攻撃を避けようとする人も人達も現れた。
攻撃をする人の気持ちが理解できるだけに、対応のしづらい問題であったが、コロナと共に終息した。
このコロナ時の行動で、人々の思考回路に何かしらの変化が起こったのか、その後正義を振りかざし攻撃する人々が増えたように思う。
路上喫煙禁止エリアでタバコを吸う人を探しては攻撃をする人、少し車間が詰まっただけで通報する人、最近では歩行者への配慮が徹底された後、横断歩道ではないところを堂々と歩く人が増えたように思う。中には、停止しない車に怒りを露にする人もいる。
こういった人々が気を付けなければならないのは、正義や大義名分を盾にしたとしても攻撃は攻撃であるという事実である。
そして、攻撃をするという事は攻撃をされる事も覚悟しなくてはならない。
路上喫煙はしてはいけない。なので注意することに正当性はあるが、自身の攻撃力や防御力が増すわけではない事は理解し、注意の仕方にも気を使わなければならない。
怒りを原動力に注意をすれば、それは攻撃であるため、反撃はあり得る。
反撃があった場合、それが物理的な身体暴力であれば、警察に頼る事は出来るが、受けたダメージが大きければ今後の人生に影響するかもしれないし、違う形で復讐されるかもしれない。
だってあいつが悪いんじゃないか!と言っても、解決しない事は多々ある。
こういった正義や大義名分を盾にした攻撃を好む人は昔からいるが、数が増えている…というのが私の肌感覚で、彼らには一つの共通点がある。
それが、「安全圏から攻撃だけをしたい」である。
正義を盾にしているので、反撃できないだろうと高をくくっているのである。
自分は正しい、だから攻撃しても構わない。相手は間違っている、だから反撃はされない、されたとしても警察や第三者は自分を守ってくれるだろうと考えている節がある。
しかしながら、何度も言うが攻撃は攻撃なので、反撃はあり得る。
反撃された時に対応できないのであれば最初から攻撃するな、は社会生活において絶対条件であるといっても良いが、最近はこれが崩れてきているように思う。
攻撃するのであれば、矢面に立つのが筋、である。
個人間の戦争に、ドローン攻撃はない。
自分も傷つく覚悟が必要である。
そして、想定が甘くなる原因は、自身の行動に正義を付与し攻撃する大義名分を作り出すからである。
悪い奴を攻撃する事は許されると思っている可能性が高いが、それは大きな勘違いで、自分にとって気持ちの良い事を正義、自分にとって気持ちの良くない事を悪だと、自身で定義づけているだけに過ぎない。
どんな理由にせよ、先に攻撃する側はそこを見誤ると、間違える。
それに加え、クリーン化で暴力に触れる事が少なくなった現代人は、経験体験に乏しい。
娘さんの両親で言えば、女性を傷付ける様な男に会った事がないのであろうし、性被害にあった女性が身近に居ないのであろう。
正義を盾に攻撃する人は、他人から本気で攻撃された事がないのであろう。
経験していない限り、対応は出来ない。
これも繰り返しになるが、危機回避能力は経験に依存する。
皮肉ではあるが、正義を盾にした攻撃は、犯罪の一歩手前に位置すると個人的には考えている。
法律やルールはペナルティを定義しているだけのものであり、人間の生き方を説いているものではない。
想定の甘さが生む悲劇が少しでも減る事を願い、今回は話を終える。
