二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第八話 ルキウス王子との出会い(5-5)
「きっと王子さまはミックと引き離されて、失恋に泣いていたから、私に会おうとしなかったのね」
「いや、多分やむを得ない事情があったのだと思う。それに怪しい述は魔術対策省の魔術師たちが解いて、事なきを得たらしい」
「魔術対策省? あまりいい響きではないわね。この国では魔術を使える人が少ないと聞いたから、防衛のために魔術師を雇い入れているのかしら」
「君は頭がいいな。私が傍から見た王女は、王子の言うことににっこり笑って、肯定の相槌をするだけの従順な姫君ばかりだったよ」
もしアレックスが先に生まれていて、ミレーネが普通の王女だったら、きっと何の疑問も抱かずに、大国の王子に気に入ってもらえるように、一生懸命お愛想笑いをしていたのかもしれない。
「私は中途半端な人間なの。女ではあるけれど、王には私しか子供がいなかったから、帝王学や政治学も学ばされたわ。私は君主向きじゃないと分かっていても、必死だった。でも弟が生まれたから、学んだことも、私の存在さえも必要がなくなってしまったの」
「もしかして、後の王位継承で揉めるのを防ぐために、国王から強制的にこの舞踏会に参加するように命令されたのか?」
「お父様はそんなことおっしゃらないわ。私が自分で先のことを考えて、ここに来ることを決めたの」
「……君は自分を要らない存在だと思っているかもしれないけれど、自分の頭で考えて、よりよい選択をして行動できる尊敬すべきレディーだ。この国のように大きな国を治めるには、領土の開拓や治水など、いろいろ難しい問題が山ほどあると聞く。そのときに帝王学や政治学を学んだ妃が傍にいれば、この国の未来の王は心強いんじゃないかな」
学んだことを実践するには、王としての威厳や人々を従わせる強い統率力とカリスマ性がいる。ミレーネは自分にその資質がないと、常に悩んできた。
でも、王子がミレーネを相談役として意見を尊重してくれるなら、自分の居場所を作ることができるかもしれない。
「そんな風に考えたこともなかったわ。ありがとう。あなたはどこの王女さまの侍従なのかしら?」
男はにやりと笑って、首を振った。
「さっき秘密を教えたばかりだから、これ以上自分の首を絞めることは教えられない。きっと君は心の中で、私が他国の王女の臣下のくせにプリンセスの君に対して態度も大きいし、言葉遣いもなっていないと思っているだろ? 私のプリンセスに告げ口されては敵わないから秘密にしておく」
「あら、告げ口なんて意地悪なことしないわ。でもたいていの王族や貴族は言葉遣いや礼儀作法を重視するから、私以外の王女の前では気を付けた方がいいと思うの」
肝に銘じます、と言いながら男は優雅にお辞儀をした。
「ほら、またからかって。でも、あなたが素で話してくれて楽しかったわ。態度は大きいけれど、相手を不快に感じさせないし、話の運びが上手くて親しみが持てるもの」
最初にこの男性を見たときに抱いた印象は、王女の機嫌を取るために、葉っぱや土をつけて猫と小鳥を探す姿から、従順な従僕だと思った。けれど話すうちに、この男性は侍従の立場に甘んじて終わるような人じゃないと思えてきた。
この国の情勢も頭に入っていて、短時間話しただけで、私の背景や問題点を見抜き、思いもよらないアドバイスが出せるから。
きっと末は大臣クラスに出世しているのかも。
「もし、あなたが君主なら、王族の古い考え方を破って、新しい組織とアイディアで国を発展させていくのでしょうね」
この人のように、内なるパワーを秘めた男性が、この国の王子だったらいいのに。外見も素敵な王子に、こんな風に熱っぽい瞳でじっと見られたら、舞踏会に参加した王女たちは、息ができずに卒倒しちゃうかもしれないわ。
「おや、何を想像して笑っているんだい? 私が君主ならとうれしい評価をくれたくせに、やっぱり似合わないと思っているんだろう?」
そんなことないと、ミレーネが否定しようとしたとき、遠くでアイリスがミレーネの名前を呼ぶのが聞こえた。
「いけない、アイリスが心配するわ。行かなくちゃ。あなたも見つからないように早くここから去って」
ミレーネは小鳥のララとペルシャ猫のミックを男性に渡し、館の方へと歩き始めた。
背中越しに舞踏会で会おうと言う男の声が聞こえたが、王子のお相手探しの舞踏会で、参加者の王女が他の男性と仲良く話すわけにはいかない。
別れたくない気持ちにケリをつけるため、ミレーネはさようならと小さく呟いて、小路の入り口へと走り出した。
次のお話をお楽しみください(*´▽`*)
二人のプリンセス 愛と憎しみの魔法 第九話 舞踏会(1-4)|風帆美千琉 (note.com)
