「星間飛行」
2008年6月25日、17年前の今日、言わずと知れた名曲が世に放たれます。
1982年から続くマクロスシリーズの25周年記念作品、マクロスF(フロンティア)。第12話「ファステスト・デリバリー」にて「星間飛行」をWヒロインの一人であるランカ・リーが歌い、リリースされました。
作曲:菅野よう子
作詞:松本隆
マクロスオタクなら菅野よう子さんは見慣れた名前かと思いますが、みなさんは作詞の松本隆さんをご存知でしょうか。松本隆さんは「赤いスイートピー」や「木綿のハンカチーフ」など数えきれないほどの名曲で作詞を担当されているレジェンド作詞家です。そんな松本隆さんが作詞された"星間飛行"について、読解力のない工学部卒のオタクが、感じたことをつらつらと書いていきたいと思います。
タイトル「星間飛行」
松本隆さんはサン=テグジュペリの小説「夜間飛行」のもじりだと語ります(CONTINUE Vol.46)。サン=テグジュペリといえば「星の王子さま」でご存知の方も多いと思いますが、「星の王子さま」は彼の最後の作品であり、その12年前の1931年に刊行されたのが「夜間飛行」です。そんな理由だけで柄にもなく「夜間飛行」を読み始めました。

サン=テグジュペリあるあるだと思うのですが、流石に半世紀以上前の翻訳は読みにくいです。「星の王子さま」でも読みにくいと評するFF様をお見かけしました。特に文学に素養のない私は「夜間飛行」読了まで2ヶ月を費やしました(土日しか読んでませんが)。切り分けのできる方には最新の翻訳版を読むことをおすすめします。
さて現代でこそ飛行機は昼夜を問わず飛んでいますが、「夜間飛行」が刊行された1930年代、夜のフライトは命懸けです。レーダーなんてものも無く、自分がどこにいるのか把握するのも容易ではありません。郵便飛行という使命の下で夜間飛行の実績を蓄積している時代、1件事故が起きれば夜間飛行そのものの存在意義を揺るがす状況。航空郵便会社の管理職は厳しいルールを運用し、会社で孤立していきます。現代の私たちが夜の発着便であちこちへ移動できるのは、先人たちが命を賭して夜間飛行の危険性を洗い出し、克服してきてくれたおかげでもあるわけです。
孤独な夜空のパイロット、涙を浮かべながら無事を祈る妻。どことなく星間飛行の歌詞とも通づるものがある気がします。「星間飛行」は(変ホ)長調の明るい雰囲気ですが、マクロスの舞台では死と向き合いながら生きるパイロットと、それを想う歌姫のラブソングです。曲調に惑わされず緊張した背景を想像しながら「星間飛行」の歌詞を噛み砕いていくと今まで気づかなかった側面に出会えるかもしれません。放課後別れたらもう会えないかもしれないので。
ランカ・リー=中島愛
マクロスシリーズでは声優自身が歌う場合と、歌唱担当を分ける場合があります。「星間飛行」を歌うランカ・リーの楽曲は"ランカ・リー=中島愛"と表記され、Wヒロインの"シェリル・ノーム starring May'n"表記と差別化されます。声優をいわゆる"中の人"と呼んだりするこのご時世、「=」で結ばれる表記には特別な意味があるはずです。長らくまめぐを応援してきた中島愛学会の方々なら当然の解釈というものが存在するのかもしれませんが、読解力ペラペラな私にも少し考える時間をください。
ゴールデンウィークの娘イベ ~キラッ☆バースデー~でも語られましたが、「=」はある種の縛り、呪いにすらなったと思います。「C.V.」ではなく「=」であるからにはファンからも公式からも「中島愛はランカ・リー」として扱われてきたでしょう。本編の中で芸能界に飛び込むランカは、マクロスFがデビュー作になる中島愛そのものです。しかしランカはランカ。ファンの中で盛り上がっていくランカ像を侵さないように、という想いが足枷になったこともあったでしょう。そんな「=」を自然に受け入れられるようになった中島愛自身が作詞を担当した「equal」をどうぞ。
初代マクロス歌姫、飯島真理も「=リン・ミンメイ」と見られることに悩んだ時期があるといいます。これほどイコール扱いをされるとは当の自分も思っていなかったでしょうから、自分自身の作詞曲よりもマクロス曲を求められるのは嫌気がさしても仕方がないかと思われます。「マクロスは歌いませーん」ともなるわけです。そんな初代を経て、あえて「=」で結ばれたランカを、永遠に会えないもう1人の自分として、素直に受け止めてもらえることはファンとしても嬉しい限りです。そんなランカとして、中島愛のデビュー曲となる「星間飛行」は現在でも特別な一曲であり、大切に歌われています。そんな星間飛行が昨日、NHKうたコンで披露されたそうです。我が家はテレビが無いのでみられませんが、先頭に述べた12話放送の前日に、「=」を受け入れた中島愛の歌唱がテレビ放映されるのは運命的な気がします。
作詞:松本隆
作詞を松本隆さんに依頼したのは、最終的には菅野よう子さんです。2008年のSFアニメでありながら、ランカ・リーは「大人たちが用意した舞台で、大人たちが用意した歌で」古典的な"アイドル"として歩み始める銀河の歌姫、超時空シンデレラとして描かれています。松本隆は「銀河一のアイドルのデビュー曲」として依頼を受け、「星間飛行」を作詞しています。古典的アイドルに、とびきりのデビュー曲ですから、作詞家にはアイドル黄金期のレジェンドを、というお話です。
飯島真理の曲も作詞していた松本隆は、念願のマクロス曲として作詞に取り組みます。何度も擦られた話だとは思いますが「キラッ⭐︎」も決してpopなノリだけでなく、赤道小町ドキッ、誘惑光線クラッ、星間飛行キラッだったかもしれない、松本隆持ち前の味付けでもあります。この味付けが20年代でも通じるところがやはり、若者の好みが〜と言われる時代でも「良いものは良いのだ」という説得力を感じさせます。
昨今の文章的だったり直喩の多い歌詞の中で、星間飛行の歌詞はしっかりと"詞"であり、17年経った今日でも噛み締めるほど味が滲み出る趣深い存在感を放っています。次章では浅はかながら歌詞の内容を改めて咀嚼してみたいと思います。

ペーパーバックのオンデマンド版は今でも購入可能です
歌詞の考察
やっと歌詞です。ここまで読んでいただいてありがとうございます。
星間飛行の素晴らしいところは、本気で全銀河に届けようとしているところ。松本隆本人も語る「超普遍的な愛」を表現するにあたり、歌詞には文明の利器が登場しません。自然、物理、感情で描かれる純粋な歌詞はおそらくどの文明でも、どの時空でも、綺麗に訳せることでしょう。
水面が揺らぐ 風の輪が拡がる
触れ合った指先の 青い電流
水面の中心から揺らぎ、波紋が広がる様子は振動を。風にのって空気中を伝わる振動は音を連想させます。そして電位差(感情差)がある2人が恐る恐る触れ合う指先では高い抵抗値で絶縁破壊が起こり空気中の分子をプラズマ化し、青い電流が走ります。その様子のイメージはミケランジェロの「天地創造」だそうです。神がアダムに命を吹き込む場面はランカがアルトに愛を教えるかのような。電流が青い以上は未だ大気中の情景です。
水面=マクロスゼロ、風=マクロスプラスのオマージュであることも本人から語られています。念願のマクロス曲ということで、前作にも触れる姿勢はいかにマクロス相手に本気にしてくれたかが伝わります。
見つめあうだけで 孤独な加速度が
一瞬に砕け散る あなたが好きよ
一方的な(双方でも)加速度は重力のように引き寄せられ衝突。「あなたが好き」というシンプルな表現は全銀河の聴衆にこれはラブソングであると宣言します。一点の波紋から砕け散り発散、次の句で無重力の宇宙まで。風の輪が爆発を示唆すると語ったように、スケールが一瞬で大きくなります。
透明な真珠のように 宙に浮く涙
悲劇だってかまわない あなたと生きたい
美しさの象徴である真珠が宙に浮く、ここは2人の間の重力以外は作用しない宇宙空間、急上昇です。宇宙スケールの愛をどんな悲劇をも受け入れる覚悟で伝えます。愛を教えることはポジティブな意味だけではありません。知ることは知恵の実のように罪でもありますから。
キラッ!
流星にまたがって あなたに急降下 ah ah
濃紺の星空に 私たち花火みたい
心が光の矢を放つ
誘惑光線・クラッの様に音程がついていたキラッ⭐︎はレコーディング中の菅野よう子の判断でセリフになります。松本隆を唸らせるこの判断が、誰もが知る場面になります。

人によってはエロいと感じるかもしれないサビ入りですが、松本隆は否定しません(肯定もしませんが)。ピンクのモーツァルトを書く男ですよ。
急降下、そして急上昇。愛は駆け引き、距離の詰め方は大切です。それを濃紺の星空で。ただの夜空でなく濃紺なところが、純に宇宙の表現を感じさせます。レイリー散乱のない、宇宙空間の星空で、心はこれ以上ない光の速さで愛を伝えます。その2人の爆発的な愛は138億年の宇宙の歴史の中で一瞬の輝き、まさに花火が消えゆくような儚さ。
会話などなしに 内側に潜って
考えが読み取れる 不思議な夜
超普遍的な愛に言葉は不要です。内側に潜り込み夜を過ごす…?
あなたの名 呪文みたいに 無限のリピート
憎らしくて手の甲に 爪をたててみる
名前のリピートは会えない時の心情かと思っていたのですが(そういう狙いもあったかもですが)前の一文があると事情が変わってきます。爪を立てるとはそう言うことでしょうか、手の甲ですが。サビの跨るはよくエロいと言われるんですが、個人的にはこっちの方がいやらしいです。
ですが「ザ・古典アイドル曲」感は素晴らしく出ているかと思います。先に述べた「ピンクのモーツァルト」を22歳の松田聖子に歌わせる様をオマージュしていると言っても、怒られないかと思います。よりこの状況に合うのは山口百恵(当時14歳)の「青い果実」かもしれませんが…。
キラッ!
身体ごと透き通り 絵のように漂う uh uh
けし粒の生命でも 私たち瞬いてる
魂に銀河 雪崩れてく
大宇宙の中で個を隔てる壁が取り払われ、一体となる様です。ここで初めてスケールを一句の中で対比し、けし粒の魂に銀河が雪崩れ込んできます。抱えきれない様な規模感、全能感、エクスタシーです。
流星にまたがって あなたは急上昇 oh oh
濃紺の星空に 私たち花火みたい
心が光の矢を放つ
松本隆に精通したファンや先輩マクロスオタクたちによってもっと高尚な解釈がネットの海に漂っているとおもうので、こんな無粋な解釈しやがって!って方は、心を浄化しに出かけてください。お目汚ししてすみませんでした。
マクロスらしく宇宙スケールなラブソング。愛おぼえていますかと同じように自然、物理、感情で描かれる情景。ありがちな性的解釈もいいですがSFチックな深読みをしても成立するし、まだ味がする。
17年経っても歌い続けられてることがなによりの答えです。マクロスオタクとして知っている人はもちろん忘れないでしょう。ただマクロスを知らなくても「星間飛行」は知っている。そんな人を娘イベでもみましたし、珍しくないと思います。これは偶然のヒットでは無く、製作陣の渾身の一曲が、運命的なフィールドで、当然の評価を得ていると考えていいと思います。わざわざ夜間飛行を読んだんですがあまり繋がりませんでしたね。でもこうやって普段触れないものに興味を持つきっかけをくれるマクロスがやっぱり好きです。
製作陣に愛されているかどうか、生まれてきたコンテンツを見ればわかります。大量生産大量消費の時代。私の人生も無限ではないので、愛あるコンテンツを丁寧に愛して行きたいと思います。ギャラクシーライブ☆ファイナル2025、両日チケットをゲットしたので、2025年に25周年作品のマクロス25(Fの仮題)の祭典をしかと見届けてきます。
おわりに
私が本格的にマクロスシリーズを追いかけるようになったのは2016年のマクロスΔからですが、マクロスFの楽曲はもちろんその前から知っていました。私が小・中学生の頃はニコニコ動画黄金期、星間飛行やキラッ⭐︎のサムネイルはランキングや関連動画で何度も見かけました(当時は"おすすめ"なんてオーナー本意のシステムはありませんでした)。ライオンと創聖のアクエリオンの違いもよくわかってないようなガキンチョでしたから、マクロス沼で半身浴をする30歳になるとはとても思っていませんでした。私が歳をとるまでコンテンツを支え続けてくれた先輩マクロスオタクの方々に感謝しつつ、自分もコンテンツを支えられる一員になりたいですね。ここで変な使命感を纏うと厄介な人間になるので、一番は自分が楽しむことです。
前よりだいぶ文章が頭から出てこなくなりました。今年いっぱいは博士論文で嫌ほど文章を書く毎日なので頭の中から語彙力MPが無くなっているようです。現在補充している文章がノーマン・マクレイのフォン・ノイマンなので足りてるような足りてないようなといったところです。本棚には朝永振一郎、アインシュタイン、湯川秀樹が控えています。オッペンハイマーから始まった物理学史マイブームが冷める前に読めるだけ読みたいですね。歌詞考察に物理っぽさを入れたくなったのもこのせいです。だったらさっさとオッペンハイマー感想noteをかけという話なんですが。
次回のマクロスnoteは少し間が開きますがギャラクシーライブ☆ファイナル2025の感想になるかと思います。HANA・BIYORIは男1人で突撃するのは若干気が引けて…。女性ファンも多いコンテンツですから、小汚い野郎が近づいて雰囲気を台無しにすることのないように、じっと家でFの復習をしておきます。イベントと違いライブって興奮しててほとんど記憶に残ってない麻薬みたいなもんなんですが、残せるものは遺したいと思いますので、その際はまた読んでいただけると幸いです。
最後までありがとうございました。
