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セルフレジという誰も得しないシステム



スーパーで見た光景

近所のスーパーで、こんな光景を見たことがある。
セルフレジの前で、お年寄りがもたもたと操作している。後ろには列ができている。レジの横には監視員が3人立っている。でも誰も助けに行かない。ただ、見ている。

別の日には、若い人が機械の前で困っていた。
バーコードがうまく読み取れない。エラー表示が出る。監視員が来て、なぜか怒鳴っていた。客に悪意なんてなかったはずなのに、口論になっていた。

これを見て、ずっと引っかかっていた。
「監視員がレジを打てばいいだけなのに、なぜこんな非効率なことをしているんだろう」と。

一見、合理的に見える仕組み

調べてみると、セルフレジの設計自体には、ちゃんと理屈がある。

監視員1人が、セルフレジ4〜6台を同時に見る。もし監視員が自分でレジ打ちをするなら、1人で1台しか処理できない。
だから企業からすれば、「1人の人件費で、本来4〜6人分必要だった処理能力を生み出せる」という、立派なコスト削減になる。

客が担っているのは、バーコードを読ませる、袋に入れるという作業。
監視員が担っているのは、エラー対応や不正のチェックという、判断が必要な仕事。
仕事を分解して、機械にできる部分を客に、人間が必要な部分だけを少数の監視員に残す。理屈の上では、これでうまくいくはずだった。

現場で起きていること

ところが実際には、これがうまく機能していない店舗がある。

操作に不慣れな客が多い店では、監視員はエラー対応や操作サポートで呼ばれる頻度が高くなり、複数の客から同時に声をかけられる。
結局、つきっきりで会計を手伝うことになって、有人レジと変わらない時間がかかってしまう。

それなのに、セルフレジは以前の有人レジの4〜6倍の場所を取るので、その分、商品を並べるスペースが減る。
人件費は思ったほど減らず、おまけに売り場も狭くなる。

プロのレジ係2人が手際よく会計をこなした方が、結果的に多くの客を処理できて、客のストレスも少なく、また来たいと思ってもらえるかもしれない。
企業は「レジ1台あたりの人件費」という、目に見えやすい数字だけを見てコスト削減に走り、客の満足度や再来店という、目に見えにくいけれどもっと大きな利益を、知らないうちに減らしているのかもしれない。

万引き犯にされてしまう人

もっと深刻な話もある。

高齢者がセルフレジを使えず、助けを呼んでも誰も来ず、仕方なく会計を済ませずに店を出てしまった、という体験談を見つけた。
本人に悪意はない。でも外から見れば、それは万引きと区別がつかない。
実際に、スキャン漏れや操作ミスで不正を疑われるケースは、すでに各地で起きている。

これが企業の人件費削減のために起きているとしたら、あまりにも理不尽だ。
人件費を数千円、数万円浮かせるために、買い物に来ただけの人が、犯罪者扱いされる危険を背負わされている。
万引きで疑われれば、たとえ後で誤解だと分かっても、その記憶や周りの目という形でダメージは残る。比べものにならないほど重いものを、客が一方的に負わされている。

レジ係が本当にやっていたこと

レジ係の仕事は、「商品をスキャンしてお金を受け取る」という作業だけではなかった。
読み取りエラーが起きても、それはレジ係の技術の範囲内の話で、客が疑われることはなかった。レジ係は、会計という行為にまつわる責任を、すべて引き受けていた。
これは目には見えにくいけれど、とても重要な役割だった。

セルフレジは、この「責任を引き受ける」という部分を見落として、表面的な「スキャンして会計する」という作業だけを切り出してしまった。
だから、エラーが起きたとき、その責任を負う人が誰もいないまま、結局、一番弱い立場の客に押しつけられてしまう。

監視員が困っている客を積極的に手伝わないのも、同じ理由かもしれない。
手伝いに動けば、自分の持ち場である他のレジの監視が手薄になる。動かなければ客が困る。どちらを取っても、自分の責任になりかねない。
だから「何もせず立っている」のが、一番安全な選択になってしまっているのではないか。
これは監視員が悪いわけではなく、責任の所在をあいまいにしたまま現場に丸投げした、仕組み自体の問題だ。

あなたのせいじゃない

もし、セルフレジで嫌な思いをしたことがあるなら、それは、あなたが不器用だったから、頭が悪かったからではない。
本来、企業が用意しておくべき「責任を引き受ける仕組み」が、最初から欠けていたからだ。

機械がうまく読み取れなかったのは、機械の精度の問題かもしれない。操作が分かりにくかったのは、画面のデザインの問題かもしれない。
それを「客がちゃんとできなかった」せいにして済ませてしまうのは、本来は企業が引き受けるべき責任を、何も知らされていない客に黙って押しつけているのと同じだ。

セルフレジも、BOTのカスタマーサポートも、表向きは「効率化」と呼ばれている。
でも実際に起きていることを並べてみると、企業が得たのは、決算で報告できる人件費削減という、見えやすい数字だけかもしれない。
その代わりに、客は無償の労働とエラーのリスクを背負わされ、監視員は板挟みになって怒鳴られ、企業自身も、売り場の縮小や客離れという、もっと大きな代償を払っているとしたら、これは誰も得をしていない。

もし、セルフレジの前で困ったことがあるなら、誰かに不正を疑われて悲しい思いをしたことがあるなら、それはあなたが悪いわけじゃない。
本来、企業が引き受けるべきだった責任が、たまたま一番声を上げにくい、あなたのところに流れ着いただけなのだ。


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