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風人珈琲|おなじ星が流れて

カウンターの向こうで、夜空を見上げるお客さんがいた。

手にしたカップの湯気が、ゆっくりと星の光に溶けていく。

「同じ星を見ている人がいる」
そう思えるだけで、人は少しやさしくなれるのかもしれない。

――あの日のことを、ふと思い出した。

納車祝いに選んだ赤いキーケース。
車体に入った細いレッドラインが、どこか彼女に似ていた。

派手ではないけれど、光の角度でそっと輝く。
あの色が、彼女の笑顔に似合う気がした。

そして、なぜか一緒に手に取った“きのこのキーホルダー”。理由はわからない。
ただ、かわいかったから。それだけだった。

「……なんできのこなんですか?」
驚きと笑いが混じった声。
「いや、なんとなく」
そう答えると、彼女は目を丸くして言った。

「学生の頃、“きのこ”ってあだ名だったんですよ」

偶然のはずなのに、偶然じゃなかった。
胸の奥で何かがふっと弾けた。

笑顔の奥に、懐かしさのような、切なさのような光が見えた。

人は、誰かの無意識の優しさで、
昔の自分にもう一度出会うのかもしれない。

そしてもうひとつ、あの財布のこと。

あの日、彼女が迷っていたという財布を、
何の気なしに選んでプレゼントした。

「なんで知ってるんですか?」と笑った彼女に、
僕はただ笑い返すことしかできなかった。

偶然なんかじゃない。
たぶん、心が先に動いていたんだ。

あのとき、僕はまだ恋と呼ぶには幼すぎて、
でも、確かに心が動いた。

INFJとENFP――心の波長が交わる瞬間、
説明のいらない“風”が吹く。

あれから季節がいくつも過ぎた。
連絡は途絶えても、

ふと夜空を見上げると、同じ星が流れている気がする。

この珈琲の香りのように、
心のどこかに、まだその風が残っている。



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