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息子にも弱点があった〜絶対に音感のない世界


破天荒でお茶目で、どうしようもないお調子者の我が息子。

※いろいろネタの多い息子です。

これまで数々の武勇伝を残してきた彼にも、実は明確な弱点が存在する。

音楽だ。

世の中には「絶対音感」の持ち主がいるが、息子はその真逆、いわば「絶対に音感のない男」である。

その残酷な事実に自分でも早々に気づいていたのだろう。
普通、保育園児という生き物は大声で元気よく歌うものだが、息子は昔からあまり口を開けて歌わなかった。
「僕の歌声は、どうやらみんなの響きと何か違うぞ」
と、幼心に薄々察していたに違いない。

そんな音痴な息子も成長し、中学生になった。

厄介なことに、彼が入学した中学校は、合唱コンクールに命をかけている学校だった。
学校の体育館でこぢんまりと開かれるのではない。近くの本格的なコンサートホールを丸一日貸し切り、全校生徒が集う一大ビッグイベントなのである。当然、保護者も大勢詰めかける。

音楽がこの世で一番苦手な息子も、流石にこの包囲網からは逃げられず、数ヶ月に渡る練習とステージで歌うことは避けられなかった。

しかし、結果から言うと、息子のクラスはなんと3年連続で最優秀賞を獲得するという快挙を成し遂げたのである。

奇跡が起きたわけではない。これには、息子と3年間ずっと同じクラスだった天才・A君の存在がとてつもなく大きかった。

A君は音楽センスが抜群だった。歌が上手いのはもちろん、ピアノやギターも弾けて、完璧な音感もある。演奏動画を見せてもらったが、「惚れてまうやろー!」と叫びたくなるほどだった。

そんな音楽の申し子のようなA君は、当然クラス全体+男声パートのリーダーであった。そのリーダーA君が不協和音を発する息子を見逃すはずがない。ある日、息子に「合唱とは」を直々に指南してくれたのだという。

息子から聞いた、当時の二人の会話がこれだ。

A君:「お前さ、バスのくせにテナーの音とごっちゃになってるんだよね。いや、というかどっちでもない怪しい音の時の方が多いかな」
息子:「まあな。自慢じゃないけど、その通りだ」
A君:「よし、俺がバスの音程を教えてやるから、一回一緒に歌ってみろ」
息子:「わかった」

〜息子の熱唱タイムwithA君〜

途中で
A君:「……よし、分かった。お前はもう、自由に歌え」


こうして、A君による愛のボーカルレッスンは秒で終了した。

本番、息子が取った戦術は「クラスの邪魔にならない程度に、口だけは大きく、ボリュームは極小で歌う」ことだった。
そして、息子が削った音量の分は、すべてA君が隣でカバーしてくれたのである。

驚くべきことに、A君はテナー(高音)とバス(低音)のパートを行ったり来たりしながら歌うことができる、とんでもない能力の持ち主だった。
息子のカバーをするだけでなく、その日のクラス全体の歌声のバランスを見て、瞬時にテナーに入ったりバスに入ったりして調和を取っていたのだという。もはや中学生のレベルを超越した、合唱界のスーパーマンである。

このスーパーA君の超人的な活躍のおかげで、息子のクラスは見事なハーモニーを奏で、3年連続最優秀賞という輝かしい伝説を残すことができたのだ。

さて、そんな絶望的音痴の息子であるが、本人は音楽を聴くことも、カラオケに行くことも三度の飯より大好きである。

ちなみに彼の不動の持ちネタ(十八番)は、安室奈美恵の『愛してマスカット』だ。

平成初期の懐かしすぎるチョイスと、彼の壊滅的な音程が見事に化学反応を起こし、カラオケで歌うと鉄板でウケるらしい。
中学校や高校のお楽しみ会でも果敢にステージで披露し、選曲の渋さと歌の下手さの相乗効果で、会場を大爆笑の渦に巻き込んだという。

音楽の才能はゼロ、いやマイナスで、歌えば完璧な音痴。それでも彼は自分の弱点すら武器に変え、人を楽しませるエンターテインメントに昇華させてしまう。

楽譜の音程は外れても、人生のノリは決して外さない。やっぱり、底抜けにタフで愛すべきお調子者である。

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