もう、引っ越すしかない
今の家に引っ越してから半年ほどしか経っていないが、引越しを検討している。
私は昨日、お酒に酔っていた。
近所の気になっていた焼き鳥屋さんに入り、焼酎ソーダ割りとハイボールを飲んだ。そしたらなんだか楽しくなってきて、帰り道でたこ焼きを買い、スキップをしながら家に帰った。そしてさらに、冷蔵庫にあった氷結を持ち出し乾杯をした。一人で。
私は酔うと歌を歌う。最近のお気に入りはもっぱらBuono!の「初恋サイダー」だ。
昨日は特に調子が良く、気持ちよく大熱唱していた。
目を閉じると、ペンライトの光の海がどこまでも広がっている。私の魂の歌声はドームの隅々にまで響き渡り、その歌声に呼応するかのように、光の群れは一つの大きな銀河となって、ゆらゆらといつまでも煌めくのだ。
酔っていてもその光景はハッキリと覚えている。私は昨日、鈴木愛理になって東京ドームでライブをしたのだ。
うん、絶対に近所に聞こえてる。
いや、でもお隣の赤ちゃんの泣き声、聞こえてきたことなくない?もしかしたら聞こえていない可能性もある。
いやいや、外で小学生が遊んでる声聞こえてるやん。絶対聞こえてるって。
いや、でも深夜で近所の人みんな寝てるやろうし...
いやいや、朝、お隣の奥さんと廊下で鉢合わせた時、気まずそうな顔してたやん。
考え出すと止まらない。何とか都合のいい証拠を集めようとするが、ほぼ99.9%の確率で近所に聞こえていると思う。
もう、引っ越すしかない。
私はまた歌うだろうから、引っ越し先は騒がしい町がいいかもしれない。繁華街のど真ん中とか、私よりもっとヤバい奴がいる場所に紛れ込む作戦だ。そしたら私がちょっと酔っぱらって歌っちゃうのなんて可愛らしいもんでしょ。「木を隠すなら森の中」って昔の人も言ってたし。
例えば天満なんてどうだろう。大阪中の呑んべえ達が吸い込まれていくあの町だ。あの町には少しくらい騒がしいことでも受け入れてくれそうな空気がある。
「なんか歌声聞こえへん?」
「天満の鈴木愛理や。」
「誰も姿を見たことがない、深夜に歌声だけが聞こえてくると噂の...?」
「今日も初恋サイダーか。」
「夏やなぁ。大将、水茄子の浅漬けとハイボール追加で。」
これから私は「天満の鈴木愛理」という異名を背負って生きていくのか。ちょっと荷が重いな。
とりあえず、お隣の奥さんと会ったら、いつも通りに挨拶をして様子を見よう。
そして「鈴木愛理ちゃん好きなんですか?」と言われた時にはすぐに引っ越せるよう、荷物の整理は始めておこう。
