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ジェルム g e r m e


〈 ジェルム 〉あらすじ

ひとりの少年がいた。名は〈 ジェルム 〉。
幼くして母を亡くしている。
父に一度も会ったことのない彼の名は 
靴職人だったおじいちゃんがつけたもの。
戦地から戻ってくることのなかった父親をもつおじいちゃんは 
おなじ境遇のジェルムに 靴をつくり 遺していた。

〈 ジェルム 〉という名と遺された5足の靴
ときおり どこかからきこえてくる
おじいちゃんの懐かしくあたたかな声
だいすきな母の言葉.....

せつなくも優しい想い出に支えられ導かれながら
たいせつな人々の想いをたどり 
生まれてきた意味 生きてゆく意味を探し求める 少年ジェルム

月日は流れ 画家を志し町を離れていた
青年ジェルムは 
ほんとうの自分をみつけるために故郷へと戻ってきた
幼い頃 母とよく訪れた海のみえる小高い丘で 
おじいちゃんがみつづけていた 美しいゆめに出逢う



だいすきなこの星に 
   ぼくは旅立ってきた

   終わらない
     ゆめのつづきをみるために

     探してきた
       ぼくにとっての
        ほんものをみつけるために

    ねぇ きみは知っている ?

       そらよりもあおく
        あの花が咲く理由を   


                                   ぼくのなまえは ジェルム

おじいちゃんがつけてくれたんだ。
なぜ ぼくに
そのなまえをつけてくれたのか 
おじいちゃんに聞いてみたい。
だけど おじいちゃんは 
もう ここにはいない。
ぼくが一歳の誕生日を迎えた その日 
おじいちゃんは 
どこかほかの星に旅立ってしまったんだ。
だいすきな星空をみあげながら 
おじいちゃんに話かけるょ。
おじいちゃん ぼくはもっともっと 
おじいちゃんといっしょにいたかったょ。

ちっちゃな頃の記憶をたどりながら 
おじいちゃんの顔をおもいだそうとする。
おじいちゃんの写真は一枚だけ。たった。
それも うしろ姿。
でもね ぼくにはなんとなくわかるんだ。
ちっちゃなぼくを
抱きあげてくれたときの 優しいめ。
ふさふさの眉毛に たかい鼻。
それから これはたぶんなのだけれど
おばあちゃんが焼いてくれる 
シナモンの香りいっぱいの 
キャロットケ-キを食べたときの
うれしそうな顔。
ぼくはおじいちゃんを いつも忘れない。
なぜって ぼくはかんじるんだ。
おじいちゃんが いつも
ぼくをまもってくれていること。
おじいちゃん ありがとう。

あれは ひまわりが
すてきに笑っている夏だった。
なにもかもが みんな
とけてしまいそうなくらい 暑い暑い日なのに
ママはすこしずつ すこしずつ 
つめたくなっていった。
いつもとかわりなく
優しくほほえんでいるママは 
まちがいなくぼくのママなのに 
「 ママ ママ 」 ってキスしても 
ママのだいすきなお花を
手に握らせてあげようとしても
ママは ぼくを抱きしめてはくれなかった。

ぼくにはわからなかった。

なぜ ママが ぼくをおいて 
どこか遠くへいってしまったのか

なぜ ママは ぼくに
なにも言ってはくれなかったのか

ぼくにはわからなかった。
ちいさなぼくを抱きしめて 
おばあちゃんは 教えてくれたょ。

ママは ぼくをおいていったんじゃない って 

ママは ぼくと
いっしょにいたかったんだ って

ずっとずっと いっしょに

ずっと ずっと
いっしょにいたかったんだ って。

ぼくが すこしだけわかったのは
もう ママにキスすることができなくても
もう ママが抱きしめてはくれなくても
もう ママといっしょにはいられなくても
ぼくは ここにいて 
おひさまに 「 おはよう 」
おつきさまに 「 おやすみ 」
かみさまに 「 ありがとう 」 って

ママが教えてくれたことを守ってゆく。
そう きらきらのお花を咲かせてゆく。

でもね ママ
どんなにかなしいときも 
どんなにさみしいときも
「 にっこりね 」 って 
ママはいつも言ってくれていたけれど
そう簡単にはできないんだ。
ごめんね ママ ごめんね。

ママは いまもどこかで
ママのいい香りと優しいきらきらを
いっぱい咲かせているの ?


  あなたが 
    どこにいても

    あなたが
      なにをみていても

   そばにいるよ
     みつめているょ
       ゆるされることならば

       おひさまみたいに
         みまもっているょ
         
           どんなときも
             どんなときも


  「 ジェルム ジェルム 」

あの日 どこからか きこえてきた
なつかしく あたたかい響きは
まちがいなく おじいちゃんの声。
ちっちゃなぼくを ひざにちょこんとのせて
おじいちゃんは よく
子守うたをうたってくれたって
ママからきいたょ。

  「 ジェルム 」

おじいちゃん 
どうしておじいちゃんもママも
ぼくがおとなになるまえに
遠くへいってしまったの ?
ぼくが いい子じゃなかったから ?

みどりの風が 
しろいブランコをゆらしている。

いま ぼくの足をまもってくれている靴は
おじいちゃんがつくってくれたんだって
ママがうれしそうに話してくれたょ。
ぼくがまだ 
ママのおなかのなかにいるときから
おじいちゃんが 一足一足 
こころをこめて つくってくれたこと。

〈 ジェルム はじめての靴 〉

〈 ジェルム よちよちと 
   歩くことにであう靴 〉

〈 ジェルム 元気いっぱい 
   走りまわれるよろこびを感じる靴 〉

〈 ジェルム ころんでも 
   おきあがって歩く意味を知る靴 〉

ぼくのためにおじいちゃんが
つくってくれた靴は
ぜんぶで五足。
どれもがだいすきな靴だょ。
そういえば ママのきれいな足元にも
ママの頬とおんなじ
ばらいろの靴がかがやいていたね。
いま いっしょに歩いているこの靴が
ぼくにはちいさくなってしまったとき
ぼくは おじいちゃんが
ぼくのためにつくり遺してくれた
最後の靴をはくことになる。

靴は どれもが一足ずつ
しろい箱に入っていて
箱には おじいちゃんからの
メッセージがあったのだけれど
最後の靴だけは なぜか はだかのまま。

おじいちゃん ぼくは
ずっと考えたょ。
箱が足りなかったわけじゃない。
この靴をはく意味は 
ぼくが自分でみつける_______

そうだよね おじいちゃん。

  「 ジェルム 」

姿はみえないけれど
おじいちゃんの優しい
あたたかなひかりをかんじていた。
おじいちゃん ありがとうね。

町には おじいちゃんがつくったという靴を
たいせつにはいているひとが
いまも たくさんいるょ。
みんな笑顔でいうんだ。
おじいちゃんのつくった靴がすきだって。
この靴といっしょなら 
どこまでも歩いてゆけそうだょ ってね。
おじいちゃんは
靴にどんな魔法をかけたの ?
どうして靴をつくろうとおもったの ?

ママが言っていた。

「 わたしたちは いまね
    とてもすてきな星のうえにいるのょ

     星はまぁるいの まぁるい星のうえを
       まぁるくまぁるく歩いてゆくのょ 」

しらかばの木が どこまでも
どこまでも続いていて
木々の葉が ひかりとおどるこの道は
かぎりなくまっすぐにみえていて
どんなふうに歩けばいいのか
そのときのぼくには よくわからなかった。

「 いろいろな道があるのょ。
    すごく急な坂道だったり 
      でこぼこしていたり___

  でもね 歩いてゆくために 道はあるのょ。

    ころんだら 起きあがって 
      つまずいても だいじょうぶ。

       急がなくていいのょ 
         ゆっくりと一歩 一歩
           きらきらをみつけながら 
             歩きましょうね。 」

きらきら って なんだろう ?

「 ねぇ ジェルム 
    ジェルムは ママのどこがすき? 」 

う-ん どこって
ママの顔も ママの手も ママの声も
どれも みんな
みんなだいすきだょ。

「 ほら みて 
   いま 歩いてきた道には
    あなたのお花が咲いているわ。 」

ぼくのお花 ?

「 ジェルムが ママをすきだって 
    言ってくれるように
      ママもジェルムのすべてがすき。

   たとえば とおくはなれていて
     あなたの手にふれられないときにも

     たとえば ママのめが
       あなたをみえなくなってしまったとしても

   あるいは ジェルムの声が
     きこえなくなってしまったとしても

     かんじるもの
       忘れないもの

         それが あなたのきらきら。 」

「 あなたが いま 
    わたしと歩いてきた道には
           たくさんのきらきらがみえるでしょ。 

    ひとはみな だれもが
      そのひとにしかないきらきらを
        もっていると ママはおもうの。

  おじいちゃんは 
    おじいちゃんだけのきらきら

   おばあちゃんは 
     おばあちゃんだけのきらきら

  ジェルムは ジェルムだけのきらきら

    どこを探しても 
      ほかにはみつからないわ。 」

ぼくのだいすきなママは
世界中でたったひとり
ママしかもっていない
ママだけのきらきら。

「 道にはね
    まえに歩いたおひとの
      きらきらがのこっているわ。

 おじいちゃんのきらきらも いつも
   わたしたちをまもってくれているのょ。
     ジェルムにも
      かんじられるかしら ? 」

ママとふたりで歩いてきた道が
さっきよりも もっと 
明るく輝いているような氣がした。

「 ジェルムのおともだちも 
    みんなみんな
      きらきらのおひとょ。 」

みんな ?

ぼくは考えた。
最近 ぼくのクラスで起こっている
なかまはずれや嫌がらせ

昨日 お隣の家に怒鳴り込んできた
男のひとのおそろしい声

おじいちゃんのお父さんや 
信じられないほどのたくさんのいのちを そして
みんなの笑顔を奪っていったという
戦争のこと。

ぼくは ママのめをみつめた。

「 ジェルム 
    わたしたちはね どんなときも
      きらきらにつつまれ 支えられ

     きらきらにまもられ 助けられ
       きらきらに生かされているのょ。

  おひさまも 空気も この木々も
    そこに咲いている ちいさなお花も 
      ほら あそこのことりたちも 

     みんなみんな 
       それぞれのきらきらを
         いっぱいにひろげているわ。

  でもね ジェルム
    わたしたちひとは 
      なぜか 忘れてしまうの

      美しいひかりのたね
        きらきらを
          いっぱいもっているのに
  
                        忘れてしまう.....」

ママはそう言って
すきとおるようなあおい空を
かなしそうにみあげた。

  「 ジェルム 」

ぼくの足元には
おじいちゃんの靴があった。
おじいちゃんがつくってくれた靴には
おじいちゃんのきらきらがいっぱいだった。
おじいちゃんのきらきらが
みんなの足元を みんなが歩いてゆくのを
まもってくれているんだね。

ぼくは なぜだか急に駆けだしたくなった。

バレリーナだったママが
かろやかにとんできて 
ちいさなぼくを
すぐに抱きしめてくれた____________

あの頃のしあわせなぼくは もう いない。

おじいちゃん ごめんね
ぼくがもっと もっとつよくなって
ママを まもらなければいけなかったんだ。

  「 ジェルム ジェルム 」


  いつのまにか
    ギザギザと尖って  
      欠けてしまったこころのかたち

     つまずいて  
       ころんで
         坂道をころころと
          ころがって
            どこまでも
              ころがって
                おちていって

   そして 氣がついた

     いつのまにか
       優しくまぁるく
         みちているこころのかたち
   
         ぼくは 支えられていたんだね
           まぁるい
             まぁるい この星に

            まぁるい
              まぁるい
                あなたに いつも


ママがお空に戻ってからというもの
いつのまにか
ぼくの居場所は 屋根裏部屋になっていた。
そんなぼくを おばあちゃんは きっと
毎日心配してくれているにちがいないけれど
おじいちゃんのおじいちゃんがつくったという
あかい屋根としろい壁 そして
おおきな窓があるこの家の
いちばんうえにある ちいさな場所が
ぼくのお氣に入り。
天にむかってある
とびらのような窓のむこうに
みえる ひろがる はてしない世界。
ここにくると
おじいちゃんやママに
それから ママがちいさなぼくに
いつも読んできかせてくれた 
ママのだいすきな童話 *人魚姫*の
アンデルセンさんにも逢えるような
そんな氣がするんだ。

   「 ジェルム ジェルム 」

つめたい雨が
ぼくのこころのドアをたたきつけるように
降り続いたその日

屋根裏部屋の隅に
ママがたいせつにしていた
バスケットをみつけたょ。
おばあちゃんがつくってくれた
サンドイッチや だいすきないちごを入れて
ママとぼくは よく ちいさな冒険にでかけた。
なつかしくて
バスケットを そっと もちあげると
ママのちいさくて ほっそりとした手がかんじられた。

「 ジェルムが 大きくなったらね
    だいすきな女の子と
      冒険を続けてゆくのょ。

   そのときは 
     このバスケットを貸してあげるわ。
       特別にょ。

  それにね とびっきり美味しい
    いちごのジャムをつくって 
      焼きたてのパンに
        たっぷりとはさんであげる。 」

だいすきな女の子なんて.....
ちょっぴりあかくなったぼくをみて
ママが微笑んだ。

おじいちゃん ぼくね 
みてしまったんだ。
バスケットを持つと カサカサと音がして
なかに なにが入っているのか
なんだかすごく氣になって
いけない っておもいながらも
あの日 ぼくは
バスケットのふたをあけてしまったんだ。

ママのいい香りが
ちいさな屋根裏部屋に ふんわりとひろがって
さくらいろの封筒には
ママの優しい文字が お花のように咲いていた。
それはまちがいなく 
ママがかいた手紙

  『 愛するひとへ 』 

胸がどきどきした。
なまえも 住所も 切手もない手紙
だれにも読まれることなく
いつからなのだろう
ずっと眠っていたママの想い。
ママの愛するひと  .....
天窓から やわらかなひかりがさしてきて
ぼくは そのなかの一通を手にとった。
それは とてもあたたかかった。

ほくはそれまで ずうっと自分を悲しんでいた。
自分を憐み
すくなくとも 
しあわせ とはおもえずにいた。
なぜ? どうして?
なんども なんども口にしようとしたょ。
けれど そのたびに
ぼくのとなりで
お花のように咲いているママが
ガラス細工のように 
こわれてしまうのがこわくて
聞くことのできなかった ぼくのパパのこと。

あとからあとから
こぼれおちる涙が どこまでもどこまでも
ぼくのちいさないのちを優しく つよく
深くみたしてゆくのをかんじた。


  
なくなってしまうものが
  あるとおもっていた

    だいすきな
      たいせつなあなた

       かけがえのないひかり

     でもね
       それはちがっていたんだね

        だいすきな
          たいせつなあなたは
   
            いつも ここに

             わたしという
               永遠のいのちのなかに



  

   「 ジェルム 」

いつだって だれよりもしあわせそうに
きらきらと輝いていたママ

パパはいつも ママのなかにいたんだね。
ママがどんなにパパをすきで 
たいせつに想っていたのか
ぼくが なぜここに生まれてきたのか
知らなかった 知りたかった なのに
氣づくこともできなかった
たくさんのきらきらに
閉ざされていたこころのとびらが
静かに ゆっくりと 
ひらかれてゆくのをかんじた。

 いつからか
   閉ざしてしまった
     こころのドア

    くもったままの
      こころの窓

      あけるのがこわかった 
        こころの鍵

  いまなら
       きっと できる

    どうしても捨てられなかった
      仮面をはずすこと

      ゆめでみた
        ほんとうの自分に出逢うんだ

          すべてがひかりにかわるから

ごめんね ママ。
ぼくを ぼくをゆるして.....

おじいちゃん あの日からぼくは 
お花を育てているんだ。
ママが好きだった すみれに 
しろいチュ-リップ 

 雑草と言われたら可哀想 と

ママがたいせつに可愛がっていた たんぽぽでしょ
それから いちごも忘れずに ね。

  「 ジェルム 」

おじいちゃん 
ぼくも ママのようになれるかな。
すべてを受け入れ
つらいことも 苦しいことも乗り越えて 
どんなときも にっこりと 
ぼくのお花を ぼくだけのお花を咲かせることができるように。
そのとき もう一度 逢いたいな 
だいすきなママに おじいちゃん。
そして パパにも。

おじいちゃん
いま ぼくはしあわせだょ

おじいちゃん おばあちゃん
パパにママ
みんなのきらきらが
ぼくの なくならないたいせつなたからもの。

おばあちゃんや
いつかあらわれる ぼくの愛するひとを
まもってゆけるように
ぼくは この道を歩いてゆくょ。
おじいちゃんが つくってくれたこの靴といっしょに
ぼくのきらきらを咲かせてゆく。

おじいちゃん みていてね。

  「 ジェルム ジェルム 」

ぼくのなまえは  ジェルム 

いまは まだ
たよりなくて
ちいさな ちいさな芽だけれど

いつか きっと
   いつか きっと
      いつか きっと......   

                                               


  きみの笑顔にはげまされ
    ぼくは 今日まで 歩いてきた

     もしも という言葉が
       ぼくをゆるすなら
 
        きみに告げてくれるだろう

          あの日のぼくの旅立ちを
            天たかく舞う 鳥たちが

 きみの言葉に支えられ  
   ぼくは 明日も 歩くだろう

     いつか という言葉が
       ぼくをみちびくなら

         きみは待ってくれるだろう

           あの日のままのぼくのこころを
             終わりなき きみへの愛を

 
 きみのひかりにつつまれて
   ぼくは 今日を 生きてゆく


     


この町をはなれて もう何年になるのだろう。
まるで ぼくを待ってくれていたかのように 
ここはあの日のまま
すこしもかわっていない。
ここをはなれることなど 
すこしも考えたこともなかったぼくは
あの日もママと ここに来ていた。

「 おじいちゃんもね 
    よくここに来ていたのょ。」

おじいちゃんも?

小高いこの丘で 
なないろの風に吹かれて過ごす時間が 
おじいちゃんもきっと すきだったにちがいない。

「 おじいちゃんはね 
    この海を渡ってゆける靴をつくろう と
      おもっていたんじゃないかしら。 」

海のうえを歩いてゆく靴 ?

ここからみる海は とてもすてきだった。
色とりどりの宝石が そこらじゅう
無数にちりばめられていたとしたら
それも きっと 美しいにちがいないけれど
ここは それよりもずっとずっと美しく
すてきだと ぼくはおもっていた。
この美しい海を いつまでも
いつまでも ママと眺めていたかった だけど
このうえを歩いてゆく勇氣は まだ 
ぼくにはなかった。
おじいちゃんは この海を渡って
いったい どこにゆきたかったのだろうか ?

「 おじいちゃんのお父さん 」

戦争でお空にかえった
おじいちゃんのお父さん ?

「 そうよ おじいちゃんはね
    お父さんに
      抱っこしてもらったこともないの。 」

ぼくは息をのんだ。

「 おじいちゃんがまだね
    お母さんのおなかのなかにいるときに
      写真を一枚だけのこして

    おじいちゃんのお父さんは戦地へと
      お船に乗っていってしまったの。
        海軍の兵士さんだったのょ。 」 

海軍 ?

「 この美しい海も空も みんなみんな
    すべて戦争のために_________ 」

ママはそういって しずかに めを閉じた。
この穏やかにしずかで 美しい海が    
〈 戦争 〉というものの場になっていた という事実が
ちいさなぼくには まだ わからなかった。

戦争 って なんなのだろう ?

ぼくたちひとは なぜ
いじわるをしたり 
競いあったり 争いあったり  
戦わなければならないのか

なぜひとが この星のうえで
ともに生きているおひとのいのちを 
傷つけたり 奪ったりしなければならないのか 

ぼくには わからなかった。
みんなみんな ともだちなのに。
みんなみんな なかまなのに。

ぼくは 昨日のことをおもいだしていた。
ああっ と思った瞬間に
一匹のちいさなちいさな蟻が ぼくの足元に消えた。
急いで足をあげたのだけれど  まにあわなかった。
手遅れだった。
いまさっきまで
ちいさなからだで 一生懸命に歩いて
蟻としての仕事に精をだしていたはずの
ひとつの尊いいのちが ぼくの不注意で
ふみつけられ消えてしまった。

ごめんね ごめんね
ごめんね 許して___

何度あやまっても 悔いても悔いても
蟻が歩きだすことは もう なかった。

あれは何年まえのことだろう。
あるとき ちいさな一匹の蛙が 
プレゼントのもみの木の鉢植えとともに
ぼくの家にやってきた。
愛らしい目をした きれいなみどりの蛙さん。
窓の外は もう まっしろな
ゆきの舞う寒い日のことだった。

あたたかい季節なら 家からすぐの
みどりの森の 万華鏡のようなきれいな池に
連れていってあげられたのだけれど
凍てつく寒さのなかで  
このちいさな命をまもってあげられる場所は
どう考えてみても どう探してみても
ぼくの家のなか以外 ほかにはおもいつかなかった。
蛙さんが もしも ぼくの家の中で
ちいさいけれど ぴょんぴょんと
そこらじゅうを自由に 
好きなように とびまわったとしたなら_____

そうだ。蛙さんにも お家をつくってあげよう。
ぼくは われながら よい考えだと意氣込んだ。
石の椅子も必要かな。
葉っぱもあったらいいな。
食事はどうしたらいいんだろう ?
ぼくはできるかぎり 
蛙さんの氣持ちになって せっせと用意をした。
蛙さんが氣に入ってくれたかどうかはわからないけれど
ぼくにしては 上出来のお家ができた。

蛙さん ほら きみのお家だょ。

けれど 蛙さんは さみしそうだった。
窓の外をみているのだろうか。
ずっと動かなかった。
あのちいさな背中が いまも
ぼくの胸を締めつける。
蛙さんが食べるだろうとおもって用意した
ちいさな虫たちが 弱った蛙さんに
容赦なく襲いかかることなど
幼かったぼくには まだ
想像することさえ できなかったのだ。

こんなことなら 
そこらじゅうを 自由に 好きなように
たのしく とびまわってもらえばよかったんだ。
ぼくは 情けなかった。
偶然に いや なにかたいせつなご縁があって
ぼくのところに来てくれた
あのちいさな ちいさなともだちの
運命をかえてしまったのは 
まぎれもなく ぼくだった。


あのときの だいすきなきみは 
  いつも ここにいるょ

  季節がいくどめぐり
    時代がいくらかわっても
      どんなうたが流行ってもね

   まっしろなゆきの美しさを
     忘れることなどできないように

        だいすきなきみは 
          いつも ここにいるょ

             あの頃のまま
               だいすきなきみのまま
       
  


いのちって 何だろう ?
いまさっきまで たしかに
ここに存在していた
生きて いた 生かされて いた
いのちは どこにいってしまったんだろう ?

ぼくは〈 戦争 〉を知らない。
映画やテレビで そういう場面を みたことがあるだけだ。
なんの理由もなく 
蟻さんや 蛙さんのたいせつな命を
一瞬にして 奪ってしまったぼくに
言えることなど なにもないのだけれど
ただ そんなことのために 
ママがぼくを産んでくれたわけじゃなく
命を奪ったり 奪われたりするために
生まれてくる命など あるわけがない
そして ぼくが   もしも
そんなことになってしまったならば
ママは どんなにかなしむだろうか。
ママだけじゃない。
おじいちゃんも おばあちゃんも パパだって。 
お庭にあるりんごの木だって
もう ぼくには すこしちいさくなってしまった
しろいブランコだって
どうしてぼくの姿が
みえなくなってしまったんだろう って
きっと 心配するにちがいないんだ。

なのに〈 戦争 〉は起こった。
この美しい星のうえで
何度もなんども。
そのたびに もう二度と
戦争はしてはならない 
だれもが そう願っているはずなのに
どうしてだろう。
なぜ だれも とめなかったのだろう。
なぜ だれにも とめられなかったのだろうか。

いま ぼくの目のまえにひろがっている海は
だれのものでもない。
この空も この大地も あの木々も あの花々も 
だれのものでもなく
この地球も 
だれかのもので あるわけもないのに
ぼくたちひとは 奪いあい 戦って
友を支配しようと求め続けてきてしまった。

ぼくたちは なぜ ここにいるんだろう。
なにをするために ここへ来たのだろうか。

そう 問いかけることもできずに
幼かったぼくは
ママの瞳が あの日
勿忘草いろに うるんでいるのをみたんだ。

そうだ 
だれかが とめなくちゃいけなかったんだ。
だれもに愛するひとがいる。
戦いにゆき だれかの愛するおひとの
いのちを奪うのではなくて
みんなの愛するひとを みんなで
護らなくっちゃいけなかったんだ。



おひさまみたいな あなたがいて
  空のような あなたがいて
    みどりのような あなたがいて
      花のような あなたがいて

   風のような 大地のような
     ことりのような あなたがいて

       みんなで 春のような空間を
         創ることができたなら

            この美しい星に
              この手に
                武器はいらない


     
あのときのママの横顔を描きたくて
ママの想いを確かめたくて 
一緒にみた あの海をのこしたくて
ぼくは キャンバスに向かったんだ。
おじいちゃんがみた ゆめ
おじいちゃんがぼくに遺し
たくしてくれた あの五足の靴
そして たくさんの愛
ぼくも なにかを ここにしるしたいと考えたんだ。

あまりに近くにありすぎて
氣づかなかった たくさんのしあわせ
あのときのいろ かおり あたたかさ 
どれもが ぼくの かけがえのないたからもの。

記憶は次第に薄れてゆくもの と ひとはいうけれど
遠ざかれば とおざかるほどに
離れれば はなれるほどによみがえってゆく

〈 きらきら 〉

そのひとにしかない そこにしかないたからもの。
それは 決して おもいでなんかじゃなく
いまも ぼくのなかで生き続け
燃え続けている いのちの糧。
そう あの日 ママが言ってくれたようにね。
ぼくは その〈 きらきら 〉を
かけがえのない〈 きらきら 〉こそを
ここに描きたい あらわしたいとおもっているんだ。

みえなくても きこえなくても
たしかにある たいせつなもの。

どんなに時が流れても
決して 消えたり なくなることもない
ほんとうにたいせつなもの。

〈 きらきら 〉を愛し 
  〈 きらきら 〉をひろげ
    〈 きらきら 〉を贈りあう

それが 仕合せ。

 「 仕合せは 魔法のパズルょ。
     ほら ジェルムがすきな
       ジグソーパズル。

     みんなみんなひとつひとつ
       かたちがちがっていて
         だから 組みあえて つながって
           ひとつの絵が完成するでしょ。

   みんなが おなじだったら 
     困っちゃうわ。
  
     もしもね なかよしのエリーのママと
       ジェルムのママがおんなじだったら どう?

        みんな ちがっているからこそ 
          助けあえて 支えあえて
            ひとつになれて しあわせなのょ。」 
 
いまも はっきりと聴こえてくるママの声。
ぼくが ぼくであるかぎり
それは ずっと永遠に。
そうだよね ママ。



それは みえないかもしれない
  それは きこえないかもしれない
    それは 氣がつかないかもしれない

      派手ではなく 
        きらびやかでもなく
          にぎやかでもなく
 
   眠っているおひとにも 遠くにも
     魂の奥深く 
       いのちのみなもとに響き届くもの

      きみが きみである 
        ぼくが ぼくであるしるし

           それが きらきら


 
おじいちゃんはここに来て
なにをみていたの。
まっしろなキャンバスに向かっているとね
どこからか そんな懐かしい声が聴こえてきたり
筆を持つこの手は ママの和かな手や
おじいちゃんがつくってくれた靴の感触まで
いまも たしかに 覚えているんだ。
目をつむっていても 手が動いてゆく。
ぼくのからだの37兆の細胞さんたち みんなが
ぼくといっしょに
ちゃんと生きてくれている
生き続けてくれている証拠だね。
おじいちゃんも そうだったのかな。
靴を履くおひとのことを想ったら 不思議と
そのひとにぴったりな靴ができあがる。
魔法使いみたいにね。

ぼくね 展覧会に 絵を出品してみたんだ。
それから いくつものコンテストにも挑戦してみた。
ところがね 
友人たちは みな 次々と認められて
入選したり 入賞したりしているのに
ぼくの絵は どうしてだろう
だれの目にも こころにも とまらないようなんだ。
ぼくのなにかが まちがっているのだろうか。
ぼくの絵には なにが足りないのだろうか。
世界中のみんなのしあわせや
みんなの平和を祈る想いは
ぼくの ただの独りよがりにすぎないのだろうか。

おじいちゃん
ぼくは どうすればよいのか
わからなくなってしまったんだ。
このまま 絵を描き続けていても
どうにもならない
仕方がないんじゃないか とおもえ
ついには 筆を持つことも 
キャンバスに向かうことも
できなくなってしまったんだ。

そういえば 想いだしたょ。
ママがバレリーナだった頃
絵のモデルをしていたことがある って言っていたね。
あまり詳しく聞いたわけじゃないけれど
ぼくを産んでくれるまえ
こどもの頃から ずっと
お世話になっていたバレエのお教室を
ほんとうのことではない噂で 破門されて バレエの世界からも
追放されそうになったこと。

 「 おひとはね 真実よりも 
     真実ではない 偽りのほうを
       ほんとうのことだと
         信じてしまうこともあるの 」

ママは そんなことも言っていた。
信じていたものが 砂のお城のように崩れ落ち
こころもからだも ぼろぼろになっていたママを 
ひとりのバレリーナとして
描き続けてくれた画家が
ママの芸術の師だって。

 「 先生は いつも 
     絵は いのちの結晶だ と
       おっしゃっていたわ。

   たった一本の線にも
     そのひとの いのちがあらわれる と。

   だからね バレリーナのモデルは
     ママひとりだけなのに 

    描かれているバレリーナは まるで
      モデルが何人もいるかように
        一枚一枚が まったく異なる人物なの。

    描かれているのは わたし ではなく
      先生のお心 いのち そのものなのね。 

        先生は いつも 嘆かれていらしたわ。
          いまはどこにも
             ほんものの芸術がない って ね 」


芸術 ってなんだろう。
ほんもの って____

そういえば
ママは おどりも心だ って 言っていた。
うまくなんか おどらなくていいって。
心をこめて 愛をこめて お花のように
真実のいのちを咲かせてゆくのが おどりだって。

天と地からいただいている 
はかりしれない愛 たくさんの恵み。
おひさまのひかりや 優しい風
きよらかなお水に 美しい自然 
いのちを育んでくれる 多くのきらきらに

「 いつもありがとう。 
    わたしからも きらきらをどうぞ。 」って

生き 生かされてゆくということは 
きらきらの大循環で
すべては まぁるくまぁるく 
めぐり めぐってゆくものなのだ と。

家には ママが描かれた絵がたくさんある。
どの絵も みんな 
いつだって ぼくにはみえるし 
どこにいても かんじられるょ。

ママのおどりも みたかったな。
もしも ぼくを産まなかったら 
ママは おどりを続けていたのだろうか。
ママのいい香りが ほんの一瞬
ふんわりと ぼくをつつみこんでくれた。


どこで生まれても 
  どこで咲いていても
    花は 花であるように

  いつ咲いても
    いつ散っても
      花は 花であるように

     泥水をかけられても
       踏みつけられても
         花は 花であるように

    たとえ 陥れられても
      蔑まれても 辱められても
        無視されても

     その美しいいのちは 
       穢されたりはしない

         花が 花であるように


目のまえにひろがる大きな海 
ここを歩いて おじいちゃんは 
どこへゆこうとしていたんだろう。

と 突然 うしろで声がした。
おじいちゃん?
うしろ向きの たった一枚の写真しか みたことのない
おじいちゃんのお顔。
だけど ぼくには おじいちゃんだって
すぐにわかったょ。
ずっと ずっと 逢いたかった。
ずっと ずっと 待ち望んでいた。
おじいちゃん ようやく
ぼくに逢いにきてくれたんだね。

おじいちゃんは ぼくが想像していたとおり
ふさふさのまゆげに たかい鼻
優しい微笑みをたずさえて そこにいた。
おじいちゃんは ゆっくりと
ぼくに歩みより ぼくをつよく抱きしめてくれた。

 『 おぉ ジェルム
     愛しきジェルム 』

おじいちゃんのあたたかなひかりに抱かれて
ぼくは 泣いた。
いつからだろうか。泣けなくなってしまったのは。

涙は あとからあとから 
とめどもなくこぼれ 流れ続けた。
目のまえにひろがる
このきらきらと輝く海は 
この星で みんなが人知れず流した
涙がひとつに集まったものなのかしら。

 「 どんなときも いつもにっこりね 」

ママは そう言っていた。
ママとの約束を守るのが ぼくのつとめ。
泣いてなんかなるものか 
ずっと そうおもってきた。
おじいちゃん 男は泣いちゃいけない?

 『 そんなことは ない

     男だって なんだって 涙は
       いのちの泉が 愛であふれたときには
         自然に こぼれてくるものだょ。

  さぁ ジェルム。
    わたしの背中にお乗り。
      出発だ! 

   ずいぶん ながいこと かかってしまった。 』

えっ なにが?

 『 靴だょ。 
     海のうえを歩いてゆく靴。 』

まさか そんな。

 『 さぁ ゆこう! 』

えっ どこに?

 『 しっかりと離さずに
     わしの背中に乗っているんだょ。 』

おじいちゃん ぼく もう
こどもじゃないんだょ。

 『 わかっとる わかっとる。 』

おじいちゃんは そう笑って
ぼくをひょぃっと 背中に乗せた。
海のうえを歩いてゆくなんて 
空を舞うゆめをみていた
バレリーナのママだって きっと 驚くにちがいない。
おじいちゃんの足元には きれいな
勿忘草いろの靴があった。
ああっ あの日の ママの目のいろ。

勿忘草の花言葉は 

〈 真実の愛 〉
〈 誠の愛 〉

ぼくは  おじいちゃんと海のうえにいた。
正確に言うと まるで空を舞うかのように
海のうえを歩いていた。

 『 ジェルム どうだい ? 
     なかなかのもんじゃろう。 』

ゆめのようなできごとに 
ぼくは すこしとまどいながらも 
ゆめの続きをたのしんでいた。
ゆめなら どうか もうすこし
もうすこし さめてしまいませんように と。

おじいちゃん どこにゆくの?

 『 約束したんだょ。
     かならず 迎えにゆくって ね。 』

だれを?

 『 海軍だった わたしの父さんを
     そして わたしの息子 
       愛するおまえの父さんを な。 』

おじいちゃんのお父さん。そして ぼくのパパ。
戦争に行って かえっては来なかった?

おじいちゃんは ゆっくりと うなずいた。

 『 ジェルム。他人は笑うだろう。

    戦争は もう
      とっくの昔におわったんですょ と。 

     でも それはちがう。
       終わってなんかいないんだ。

         断じて 終わってなどいない。 』

おじいちゃんの背中が ちいさくふるえていた。

 『 あのときの哀しみ 苦しみ 
     まだ なにも終わってはいないんだ。     
       あの悲惨なできごとを 
         忘れてはならない。
           決して 忘れてはならん。 』

おじいちゃんのつよい つよい想いが 
その声からも ぼくにはわかった。

 『 待っているにちがいない。 
     だれかが迎えに来てくれるのを。 

   そして だれかが この戦争を
     とめてくれることを いまも
       待ち続けているにちがいない。 』

だれも とめなかった 
だれにも とめられなかった と
ぼくは 過ぎてしまったことと 過去形で考えていた。
終わってしまったこと 過ぎてしまっことを
取り返すことなどできない
かえることなどできない
もう手遅れなのだ そう 想っていた。
でも それは ほんとうにそうなのだろうか?
ぼくたちにできることは
終わったことだ 過去のことだ
仕方がない と
あきらめることだけなのだろうか?
いや ちがう
おじいちゃんの言う通り
いまからだって 遅くない
過去を変えることができるかもしれない。

哀しみは やがて 憎しみとなって 
あとあとまで生き続ける と 
なにかの本で読んだことがあった。
目には 目を 歯には 歯を 
そんな言葉が なぜ 生まれたのか
はかりしれない苦しみや つよい想いが 
共鳴しあい ひとつにあつまって
復讐 という 
とてつもなく 大きなエネルギーとなり
想念が現実化してしまうことがあるのだと。

この星のうえでの 信じ難い出来事は
耐えきれないほどの哀しみや憎しみが
あつまってしまっては 立場をかえ 
断たれることなく
繰り返されてしまった と 考える以外
ぼくを納得させるものは どこにもなかった


なにを おそれ
  なにに おびえ
    なにと たたかえというのだろうか

  奪われるもの
    失うもの
      なにひとつないのに

   それでも
     仮面をつけ
       剣をにぎり
         なにを まもれというのだろうか

     すべては ここにある
  
        しあわせも
          やすらぎも
            あなたのほほえみも

        すべては ここに

          ともにある
            いのちの意味も



そんなふうに この星のうえの
悲劇の歴史が繰り返され 
哀しみの連鎖が 断たれることを知らないとしたら
ぼくは いったい これまでなにをしてきたのだろうか。
ひとりひとりの想いが 次の瞬間を彩って 
現実にあらわれてゆくとしたならば
この瞬間 ぼくは 
まっしろなキャンバスに 
どんな絵の具で どんないろをのせて
なにを描いてゆくのだろうか。
おばあちゃんが 幼いぼくに はなしてくれたように
いのちは どこまでも続いてゆく
魂の旅は 永遠なのだ。
おじいちゃんも ママも そしてパパも
決して ぼくをおいて どこかにいってしまったのではなかった。

おじいちゃんのいのちは 天との約束を果たすため
時空さえ超えて 運ばれて続けていたのだ。

おじいちゃんのお父さん
ぼくのパパ
そして 戦地に置き去りにされている
多くの人々 友のもとに駆けつけ
みんなの手をひいて
愛する家族のもとへと 一緒に帰ってくる
その日を おじいちゃんも
おじいちゃんのお父さんも パパもみんなも
どんなに待ちわびていただろう。
おじいちゃんが ここに来て 
海をみつめていたのが なぜなのか
ぼくは ようやくわかった氣がした。
ママもきっと わかっていたんだ。
おじいちゃんも ママも ずっと
ぼくに伝えようとしてくれていたんだね。
ママ ごめんね。
おじいちゃん ごめんなさい。


  きみのひかりに
    ふれたとき

    わかったんだ

     忘れかけていた
       たいせつなこと

       ここに生まれてきたことの意味

         そして

            僕のまわりでおきた
              いろんなこと

     ひとつひとつが
       天からの贈りものだった

         あの深いかなしみでさえも

           すべてが

              花になるための


  

〈 愛 〉という言葉は 
世界中 そこらじゅうに 転がっている。
みんなが愛を求め 愛を語り 愛をうたい
一見〈 愛 〉は この星に
蔓延しているかのようにみえる が
果たしてそれは ほんとうの〈 愛 〉なのだろうか?

ぼくは 言葉 だけでも
かたち だけでもない 
ほんものの愛を知りたい と 心からおもった。
おじいちゃんやママが
ぼくに伝えたいのは 偽りではない

〈 真実の愛 〉〈 誠の愛 〉

おじいちゃんのお父さんやお母さん
おばあちゃんのお父さんにお母さん
おじいちゃんとおばあちゃん
パパやママにもらった たいせつなひかりのたね。

優しさのたね 希望のたね 勇氣のたね 
ありがとうのたね ごめんなさいのたね
ゆめのたね 愛のたね_____

そのたくさんのたねを
たいせつに育てて 
ひとつ またひとつと
一輪としておなじものがない
唯一無二の花を咲かせてゆくために 
出逢いがあり 別れがあり 
哀しみがあり よろこびがあり
涙がこぼれ 笑顔がうまれる。
ぼくの心を 想いをあらわしてくれる
ぼくのからだの37兆個の細胞さんたち
ひかりのたねは
いまか いまかと そのときを待っているんだ。

ぼくのからだは ぼくの心が
おじいちゃんのからだは 
おじいちゃん想いが 突き動かしている。
〈 真実の愛 〉〈 誠の愛 〉が
ほら みて
いま ここに奇跡を起こしている。
海のうえを歩いてゆく という すてきな奇跡を。

ママの声がした。

 「 こころにかかる虹をみつけて
     歩いてゆくのょ。
       ジェルム ひとは自由。

   すきな靴をはいて 
     すきなうたを口ずさんで
       あたりまえの奇跡をみるの

   そう とても自然に あなたらしく

   天使が舞い降りる
     ひかりの世界に ジェルム
       あなたはいるのょ。」

みあげると まぁるい虹が
ぼくたちを抱きしめていた。
なないろに輝く きらきらとした ひかりの環だった。


どこかで
  あなたを必要としているひとがいる

   どこかで
     あなたのきらきらを
       待っているひとがいる

     どこかで
       その美しいほほえみを
         忘れてしまうほど
           涙しているあのひとのもとへ

  さぁ ゆこう
    もちきれないほどの
      愛を胸に 
        ひかりのお花を咲かせるために


     
ぼくたちは 歩き続けた。
途方もない道のりだった。
歩いても歩いても 海は続いていた。
はてしない海を 
ぼくたちは ひたすらに歩いた。
待っているにちがいない
おじいちゃんのお父さんやパパと
たしかにつながっているはずの こころのりぼんを信じて。

おじいちゃんは 勇敢だった。
どんなに風がつよくなっても
雨が ぼくたちを叩きつけても
雷が轟こうが 一度として
その歩みをとめることはなかった。
ただただ 想いだけが 
おじいちゃんを 前にまえにと進めていた。

戦地へと向かった
おじいちゃんのお父さんもパパも
そして みんなも
もっと もっと苦しかったにちがいない。
もっと もっと辛かったにちがいない。
我が子の成長を そばで
見守っていたかったにちがいない。
愛する家族を護りたかったにちがいない。.
ひととして 目のまえの友を
この腕で 
抱きしめたかったにちがいない。
微笑んで 手を握り
固く握手を交わしたかったにちがいない。
世界中の平和を
みんなの笑顔を
すべての生きとし生けるもののしあわせを
最期まで 祈っていたにちがいない。
 
ひとはひとなんだ。

ひとは 愛から 生まれているんだ。

ひとは 愛 そのものなんだ。

いのちに優劣なんかない。

いのちは平等だ。

いのちは かぎりなく つよく優しく美しい。

奪われていい命など どこにもないんだ。

ぼくたちは みんなでひとつのひかり。

いのちこそが愛 愛のひかりなのだ。


たとえ信じられなくても
  この星を旅する
    きみはひかり
      ぼくは知っている

  あの冬の日に
    どんなにきみがつよかったか
      あの春に日に
        きみがどんなに優しかったのかを
          ぼくは忘れない

    瞳からこぼれる涙は
      ひかりのしずくは
        そのあかし

      ぼくの声がきこえる ?         
                          ぼくをみて

           ここにうつる きみはひかり

        どんなに傷だらけでも
          どんなに汚れていても

            きみはひかり
              きみを愛している



ぼくは忘れない。
天を仰ぎみたままのあの瞳を
地にひれ伏したあの背中を
愛する家族の写真を
しっかりとはなさず握りしめていたあの手を。

焼けただれ すべてが生気を失い
枯れてしまい 荒れ果てた地。
失望と絶望が 
美しかったであろう
このうえなく ゆたかであったであろう
その土地も 空間も すべてが 灰で埋め尽くされていた。
けれども ぼくは この目でみたんだ。
そこに ちいさなちいさな みどりの芽。
倒れていた人々の胸に
たしかに咲いている ちいさな花を。
希望の花を。

ぼくは ゆっくりと目を閉じ 深く呼吸をして
ぼくが もっともみたい みていたい
だいすきな景色を 
だいすきな光景を想像してみた。

透き通るように たかく澄み渡る あおい空

みどりの森に流れる
きれいな風と 美味しい空気 きよらかな水

すべてのいのちを
だいじょうぶ ここにいていいんだょ と 
支えてくれる あたたかな大地

おひさまのひかりをいっぱいに受けて
きらきらと舞う 木々の葉や植物たち
みな それぞれに可愛らしく 美しい花々

いのちをうたう ことりのさえずり

人々の明るい笑顔 楽しい語らい

紡がれてゆく愛の物語......

あぁ ここは美しい星。

ここに生まれて来ることを
ぼくは どれほど願っていたのか。

ここに生まれ 生きることを
どんなに待ち望んでいたのだろうか。

いつのまにか
慈愛にみちた愛のひかりに
ぼくは抱かれていた。
おじいちゃんのお父さん
おじいちゃん そしてパパ
みんなのきらきら。


ながい ながい
  トンネルだったね

  このひかりの野原にたどりつくまで

    まっくらな闇のなかで ひとり
      ちいさなひかりを
        見失いそうになりながら
  
     なんど きみは
       ふりかえっただろうか

         いま きた道を

           愛という
             約束の道の途中で



どんなに大きな木も 最初は
ちいさな芽であったにちがいない。
ぼくが どこにいても なにをしていても
みんなの想いが ぼくのからだには流れている。
いつまでも どこまでも 永遠に
ぼくをとおして 生き続けてゆくんだ。

ぼくのなまえは ジェルム。

ぼくの愛する人たちとともに ぼくは生きよう                    
いのちの芽 
愛の芽を育みながら。

きみのなまえは ?

ねぇ きみは
ほんとうに覚えていないの ?

なぜ きみが この星にいるのか
なぜ きみは ここを選んだのか

いくつものゆめをみて
なんどもなんども ぼくたちは出逢った

いくつもの涙をこぼし
なんどもなんども ぼくたちは別れ

そして また ひきよせあう

それは 永遠の絆

こんどは きっと みえるょ

愛という天の糸で はこばれてゆく
ぼくたちの美しいいのちのゆくえ

ぼくたちがこうして出逢い
ともに育む芽も
はじめは きっと
ちいさなちいさな芽にちがいない

けれど そのちいさなちいさな芽は
はかりしれない可能性を秘めている

それを信じて 育ててゆこう

ぼくたちが いまだみたことのない
ゆめのような世界へと
ぼくたち人類が 創造できなかった
愛と調和 平和の世界へと

きみと出逢えて 
ほんとうに よかった
ありがとう

ぼくたちはひかり

いまは まだ
 ちいさなちいさな芽だけれど

  いつか きっと
    いつか きっと
      いつか きっと.......



  
最後まで つたない物語を 
ジェルムとともに紡いでくださり
ありがとうございました   

どんなに深い哀しみのなかにあっても なお

つながっているいのちのバトン
決してきえることのない想い
失っても咲き続ける愛

〈 ジェルム 〉芽 という希望のひかり

いのち とは
愛 とは
平和 とは
生きる とは

この星に舞い降りてきた

あなたは わたし
わたしは あなた

だれもが 
もうひとりの〈 ジェルム 〉として
かけがえのない いまを このときを
天までも届くほどに想いをかさね かさね
きらきらと きらきらと
つよく 優しく 美しく
いのちをここに咲かせてゆけるはず
  
いのちは愛 すべてはひかり

みなさまとの出逢いに 心より感謝申しあげ  
すべてのおひとのこころの野原が
ひかりの野原でありますようにと
いつまでも どこまでも 愛をお祈りしております

                     宮下 和江




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