仮面の罪(シン)~最強の鬼を降ろした俺は最強の陰陽師となる~ (二話)

第二話

◇5年後、東京――晩夏。

 俺は一人、自室から薄暗くなる空を見つめていた。
 気づけば夕暮れ、お盆の夜。

 ――あの日と同じ夜。

「蓮太郎! 私はでるよ。今日から理事長復帰だからね。盂蘭盆祭にでないとね」
「はーい」

 俺は自室からリビングに向かった。
 そこには、祖母の源千代子だけがこの広い実家にいる。
 今は俺と婆ちゃんの二人暮らしのこの広い源家の実家。

「今日からやるんだろ?」
「うん」

 そういって婆ちゃんは少しだけ溜息をつきながら外に出た。
 俺はソファに座ってテレビをつけた。

『朱色晩夏の大霊災から今日で5年。当時最年少十二神将である土御門清峰さん。そして源光太郎さん、源風華さんの三名を始めとし、多くの陰陽師がこの国を守り、命を落としました。誇り高き我が国の守護者達に黙祷』

 5年前のニュースがやっていた。
 俺は静かに目を閉じる。
 あの日から五年、傷は癒えない。でもやっと前に進める日がきた。

 太陽学園高等部の新品パリパリの制服を取り出し、着替えた。
 今日から俺は高校2年。
 陰陽師養成学校――太陽学園高等部の二年生として復帰する。

「もうお盆か……」

 俺は玄関に向かう。
 そこには、写真が置いてある。

 俺の大切な人、そして俺が殺した人だ。
 
「父さん……母さん、清峰兄ちゃん……行ってくるね」

◇太陽学園、盆踊り会場
 

 5年前と同じように祭壇を取り囲み、生徒が前方に設置された高台に登壇している人を見る。
 それは5年後の高校生になった怜だった。

「5年前の今日この日、私と私の友人は……大切な人を亡くしました。この国を守った英雄であり……私の誇りでした」

 悲しそうに目を伏せる怜。

「我々はもっと学ばなくてはなりません。もっと強くならなければなりません。もう二度と大切な人を失わないように」

 その演説に拍手が起こる。
 潤んだ瞳で怜は霊符を握り、祭壇へ向け火を放つ。
 同時に多くの優しい火の弾が、祭壇に火を灯す。

(清峰兄さん……俺頑張るよ……頑張って、兄さんも超える陰陽師になる。だから見てて)

 怜はマイクをぎゅっと握る。

「今日はお盆です……彼らが迷わぬよう迎え火と笑顔で迎えてあげましょう」

 軽快な音楽が鳴りながら盆踊りが開始される。
 生徒達は笑いながら盆踊りをし、天に向かって火が昇る。

 それを高層ビルの屋上から見つめるのは、蓮太郎だった。
 夏の夜風に髪がなびきながら、太陽学園のその燃える火を見つめる。

「5年……長かったな」

 手には般若のような赤い鬼の仮面を持っている。
 すると街に警報が流れた。

『霊度2の霊災が発生しました。周辺住民はすぐに避難を開始してください』

「霊災か……五年たってもこの街は変わらないな」

 蓮太郎少し懐かしむような顔で、自分の手のひらを見つめ、握る。
 すると燃えるような朱色の呪力がその手から広がっていく。

◇陰陽庁霊災対策本部モニター室。

 一人の女性オペレーターが画面を見ながら報告する。

「霊度2の霊災。一級陰陽師派遣できました」
「そうか……しかし、盆ぐらいシンも休んで欲しいものだな」
「毎年言ってますね」

 すると警報がモニター室に鳴り響く。

「またか……霊度は」
「はい……東京太陽学園周辺……えーっと霊度2……え?」
「どうした」
「霊度3……4……なにこれ。なんであがって……数値が……」

 女性は焦るように報告した。
 その現象に記憶がある。
 五年前のあの大霊災と全く同じ現象だった。
 

 蓮太郎の手に纏われていら朱色の呪力は、徐々に全身へと伝わっていく。

「父さん……母さん、清峰兄ちゃん……ごめん、俺が弱くて……それと……助けてくれてありがとう。命を懸けて守ってくれてありがとう」

 そして手に持つ赤い鬼の仮面をゆっくりとつけた。
 空を見上げて、そして両手をぐっと握る。

「今日はお盆だからな……みんな見えてるかな」

 その目にはうっすらと涙が見える。
 瞬間、まるで大炎のような朱色の呪力が天まで届く。

 その瞬間、陰陽庁霊災対策本部モニター室の測定器はメーターを振り切った。
 
「霊度7……だ、大霊災発生です!!」
「まさか……また現れたのか」

 最大音量のアラームが陰陽庁に響き渡る。
 それは災厄の音、日本を滅ぼす大霊災の発生の合図。

「――すぐに長官に報告! 東京……いや、関東中に緊急避難指示!」

◇蓮太郎

 天高く立ち上る朱色の呪力。
 あの日から五年、血反吐を吐きながら死に物狂いで操作できるようになった鬼の力だ。
 父さんと母さんと婆ちゃんで、俺に封印した力の一端。

 俺はそれを操れるようになった。

 人間では、到底及ばない無限とも思えるこの呪力を。

 俺は、自身のスマホと街の慌ただしさから日本中に霊災警報が発令されたことを確認した。
 
 それが俺が五年ぶりにこの街に帰ってきた目的だった。
 警報が発令させることが、ではない。
 俺がまだ生きているということをこの国全土に知らせることが目的だ。

「それともちろん……お前たちも見えてるよな。九尾」

 だが本当に知らせたい相手はたった二人。

 あの日、俺に鬼を降ろした最古のシン――九尾。
 そして――真っ白な仮面をつけた謎の陰陽師。

「……お前らが何をしたいかなんてわからない。でも、俺が目的なんだろ?」

 俺は、ぐっとしゃがみ込み力を入れて跳躍する。
 夏の夜空に、朱色の閃光が空を駆ける。

 先ほど発生した霊度2のシンが真下にいる。
 八つ当たりのようで悪いが、この五年分の怒りのほんの少しをぶつけさせてもらう。

 俺はこぶしをぐっと握って、朱色の呪力を拳に貯める。

「俺はここにいるぞ!!」

 そしてそのまま振り下ろした。

 ドン!!

 一撃でそのシンの頭を貫通し、コンクリートの道を木っ端みじんに粉砕する。
 朱色の波動が周囲にまき散らされて、対応していた陰陽師達は腰を抜かして動けない。

「――殺してやるから、出てこいよ」

 それが俺の目的だ。

 あの日、俺の日常は俺がぶっ壊した。
 その罪を償う方法なんてわからない、償うことができるとも思っていない。

 でもせめて、あいつらを殺してやらないと、俺を守って死んだみんなに顔向けができないんだ。

 だから絶対に、成し遂げる。

 これはシンになった――俺だけの復讐の物語だから。

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