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銀河の片すみ─ 香りで読む、もうひとつの宮沢賢治。

あの日、少しだけ現実がかすんで見えた。雨があがったばかりの朝、ふと開けた引き出しの奥に、小さな瓶がころんと転がっていた。

ラベルには、手書きの文字でこう書かれている。

「銀河の旅。乗車は一滴から」

半信半疑でキャップを外すと、すうっと冷たい空気が頬をなでた。

青りんごのようなみずみずしさ、白檀の静けさ、草の葉についた朝露の匂い。

それは、まだ誰も目覚めていない山の朝だった。
世界が、しん…と音を立てている。

ゆっくりと香りが広がるたびに、目の前の景色が少しずつ変わっていった。

銀色の列車。青いりんどうの咲く野原。遠くでこだまする風。

誰かがそっと隣に座り、「どこまで行くの?」と尋ねてくる。

わたしは何も答えず、ただその香りに身をゆだねた。

やがて、森の奥から木々の香りが立ちのぼり、苔のしっとりとした気配が足元に広がる。

銀河鉄道は終点に近づいていた。

それは、終わりではなく、新しい静けさのはじまり。

「きっと本当のさいわいは...」

言葉の続きは、香りの奥に沈んでいた。

この小さな瓶の中には、物語が棲んでいる。

香りで読む、もうひとつの宮沢賢治。

もしも、あなたが今日ちょっとだけ遠くに行きたくなったら。

この香りの切符を、そっと手に取ってみてください。


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