貯蓄「過去最高2059万円」のウラで進む格差 ─ 騙されないための5つのデータ
「家計の貯蓄、過去最高の2059万円」
2026年7月、この日経新聞の見出しが流れてきたとき、私はXで少し乱暴なポストをしてしまいました。
「2000万円も貯蓄はありません。まず金融資産の年齢別格差が大きい。次に、高齢者の中でも貯金ゼロ世帯はかなりの割合。騙されてはいけません」
このポストには、想像以上の反響がありました。おそらく多くの人が、同じ違和感を持っていたのだと思います。「平均2000万円」と言われても、まったくピンとこない。むしろ、「自分は少数派の負け組なのか」と不安になった人もいたはずです。
結論から言えば、 日経新聞の記事は「間違って」いません 。総務省統計局の家計調査は、日本で最も信頼できる公的統計のひとつです。数字そのものに嘘はありません。
ただし、この「2059万円」という平均値は、そのままでは実態のごく一部しか映していません。今日は、この数字の裏側にある ①全体の格差、②年齢別の格差、③高齢者内部の格差、④貯蓄ゼロ世帯の実態 を、公的データに基づいて丁寧に解きほぐしていきます。
1. まず前提を確認する ─ 「2059万円」はどこから来た数字か
総務省統計局「家計調査」(貯蓄・負債編、2025年平均、2026年5月19日公表)によると、二人以上世帯の1世帯あたり貯蓄現在高(平均値)は 2059万円 で、前年から3.8%増加し、比較可能な2002年以降で過去最高となりました。7年連続の増加です。
この増加を牽引したのが、有価証券(株式・投資信託など)です。前年比16.7%増の440万円となり、3年連続で増加しています。背景にあるのは、2025年10月27日に日経平均株価が史上初めて5万円を突破するなど、記録的な株高が続いたことです。日本証券業協会などの集計では、2025年12月末時点のNISA口座数は約2830万口座(前年同月比10.4%増)、年間買付額は約18兆7935億円(同7.7%増)に達しました。資金循環統計でも、家計部門の金融資産残高は2351兆円と過去最高を更新しています。
つまり「株高とNISA普及によって、家計全体の金融資産の“見た目”が押し上げられた」というのが、この報道の骨格です。この構造そのものは事実であり、否定するものではありません。
ただ、詳細は後述しますが、金融資産に占める有価証券資産の保有比率は、富裕層ほど大きい。これは世界共通の鉄則ですので、みんなの「お金」で、富裕層が持っていた資産を大きくしている状態です。
さて、「平均2059万円」という一つの数字が、あまりに多様な現実を覆い隠してしまっている ことを、これから順番に見ていきます。
2. 平均値のワナ ─ なぜ「2000万円」に実感が持てないのか
まず押さえておきたいのが、平均値と中央値の違いです。
平均値は、一部の富裕層が多額の資産を持っていると、そちらに大きく引っ張られます。全世帯を貯蓄額の低い順に並べて、ちょうど真ん中に来る世帯の値である「中央値」の方が、多くの人の実感には近いとされています。
総務省の同じ調査によれば、2025年の貯蓄保有世帯の中央値は 1264万円 (貯蓄ゼロの世帯を含めた参考値では1167万円)でした。平均より800万円近く低い数字です。
さらに衝撃的なのは、この調査自身が明かしているデータです。
貯蓄現在高の平均値(2059万円)を下回る世帯が 66.1% (約3分の2)を占めている
つまり、「平均以上の貯蓄がある世帯」は全体のおよそ3分の1しかありません。 約3分の2の世帯にとって、2059万円という数字は「自分ごと」ではない のです。SNSでの反響の大きさは、この構造をそのまま映し出していたと言えるでしょう。

3. 格差①:全体の格差 ─ 五分位でみる「約60倍の壁」
平均と中央値の差だけでも十分に大きいのですが、世帯を貯蓄額の少ない順に5等分(五分位階級)してみると、格差の実態はさらに鮮明になります。
同じ総務省「家計調査」(2025年)から、貯蓄現在高の低い方から高い方への五分位階級別の平均値を見てみましょう。
第Ⅰ階級(下位20%):102万円
第Ⅱ階級:534万円
第Ⅲ階級:1193万円
第Ⅳ階級:2353万円
第Ⅴ階級(上位20%):6113万円
上位20%の世帯は、下位20%の世帯のおよそ 60倍 の貯蓄を持っています。「平均2059万円」という一つの数字の中に、102万円の世帯から6113万円の世帯までが同居しているわけです。
興味深いのは、有価証券(株式・投資信託)の保有比率です。貯蓄全体に占める有価証券の割合は、下位20%の世帯ではわずか6.9%であるのに対し、上位20%の世帯では27.0%に達します。 株高の恩恵は、もともと株式や投資信託を保有している世帯に、より大きく及ぶ ということです。「貯蓄現在高の平均が過去最高になった」という現象の裏側には、資産を持つ世帯がさらに資産を増やすという構造が透けて見えます。

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