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脳筋

大学生活も三年目の後期となると、いよいよ高度な内容の実習が入ってくるようになった。
専門の施設で朝から夕方過ぎまで、卒業後の職務と同様のことをする、という実習が始まったのだ。
一週間まいにち、規則正しく学校に通う。
(ただそれだけ?短くない?)
と侮ることなかれ。
それだからこそ、一日でも休むと単位の修得が、かなり難しくなる。そして、この実習は必修科目である。そのため、落とすことはすなわち、留年を意味する。
(いや、だからちゃんと出ればいいんでしょう?)
もちろんそんな事はわかっている。
でも、こちらはダメ学生なのだ。
まいにち朝早くに起きて時間通りに学校に行き、長時間実習を受けて、さらにはレポートまで提出しちゃうなんて、考えるのも恐ろしい苦行である。
(実習期間は飲み会には行けないよな。しゃーない、家で飲むのも控えめにしとこ)
この期に及んで飲むのを止めるつもりはない。
こういう所がダメなんだろうな。

ともあれ、最初の三日はなんとかかんとか実習をこなした。
もともとその職業につきたくて大学に通っているのだから、めちゃくちゃ楽しいとまではいかなくても、(なかなかいいじゃん)くらいの気持ちで受けられるはずである。
現に同級生は楽しくて仕方がない、というツワモノもいた。
いや、それが本来のあるべき姿なのか。
自分もそのようにありたい、とは思う。

人は運動不足で急に体を動かすと大怪我をすることがある。
ては、急に頭を使うとどうなるか?
まさか、だからと言うわけではないだろうが、四日目の朝に酷い頭痛が始まった。
普段は頭が痛くなることなんて全く無いのに、尋常では無いくらいにズキズキする。
頭の血管が異常に拍動して、そのたびに血管の内腔が無理矢理広げられるような感覚である。
それでもなんとか学校に行き午前中の実習を終える頃には、痛みがひいているといいな、と願った。
ところが、むしろズキズキは酷くなってきた。
(もしかしてコレ、ヤバいやつなんじゃ無いのか?)
頭痛に慣れていない身としては、生まれて初めて感じるレベルの疼痛に、もはや恐怖を感じてきた。
(脳の血管が破裂する寸前なのではないか?もしそうなったら、死ぬぞ…)
それでもなんとか朦朧としながら午後の実習をやりとげて、レポートの提出も終えた。

帰宅して横になって寝てしまうことも頭をよぎったが、(そのまま死ぬパターンあるぞ、これ)という恐れから、大学から直行で救急病院に駆け込んだ。
尋常じゃない頭の痛みという主訴に、医師はすぐさまCTを撮るという判断を下した。
何が出るか気が気じゃなかったが、出てきた画像を見た医師はこう言った。
「CTでは脳の異常は見つかりませんでした」
(おお、それは良かったです。でも、どうしてこんなに痛いんでしょう?)
もう一度頭を触らせてくださいね。
医師は触診しながら、ふんふんなるほど、と言うふうに肯いた。
「おそらく、筋肉痛ですね」
(え?筋肉痛?)
「ええ。頭皮の筋肉痛です」
(は、はぁ・・・)
思わず気の抜けたような声が出てしまった。
そして今の一言を聞いたからなのか、あれほど酷かった頭痛がすっかり消えていることに気づいた。
病は気からということか。
「じゃあ、痛み止めのお薬出しておきますね」
(あ、はい。ありがとうございます)
筋肉痛なんかであれほどの痛みが出るのものなか、流石に半信半疑ではあった。
そもそも頭の筋肉痛というモノがあるのかどうかも。
少なくとも今までに聞いたことは無い。
それでも痛み止めだけで完全に痛みは落ち着いた。
無事に実習を終える頃には、体は頭痛など無かったかのように、すっかりいつも通りの状態になっていた。

後日の飲み会で、早速ネタにした。
死ぬんじゃないかという頭の痛みが、実は頭皮の筋肉痛だったのだ。
盛り上がらないわけがない。
そして案の定友人たちは、
「頭を使い過ぎたからだろうね」
と笑った。



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