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AIで生まれた時間を、なぜ私たちはまた仕事で埋めてしまうのか

先日、日経新聞の記事を読んでいて、気になるデータがありました。

経済財政白書が紹介したパーソル総合研究所の調査によると、AIを活用することで、対象業務の作業時間は平均16.7%減少したそうです。

ところが、業務時間を短縮できたと答えた人は25.4%にとどまり、業務でAIを週4日以上利用する人は、利用しない人より残業時間が長い傾向にあるといいます。

もちろん、AIを使うことが残業を増やしている、という単純な話ではありません。

それでも不思議です。

仕事は速くなった。なのに、働く時間は減っていない。

なぜなんでしょう…?

効率化して、何をしたかったのだろう

一つには、AIで生まれた時間を別の仕事に使っているからでしょう。

1時間かかっていた仕事が40分で終わる。20分空く。
だから20分早く帰る、とはあまりならない。
「じゃあ、これもやっておこう」となる。

企業にとっては合理的です。同じ時間でより多くの成果を出せるなら、生産性は上がります。

ただ、ここで少し引っかかります。

そもそも、私たちは何のために効率化しているのでしょうか。

より多くの仕事をするためなのか。
より良い仕事をするためなのか。
人を育てるためなのか。
新しいことを考えるためなのか。

そこを決めないまま「時短しよう」「生産性を上げよう」「AIを活用しよう」と言っているように思います。

「時間ができたら走ろう」では走れない

そんなことを考えていて、自分のランニングと似ているなと思いました。

私はマラソンが趣味ですが、「時間ができたら走ろう」と思っていたら、まず走れません。

いつも後悔します。
仕事が終わったら。メールを返したら。家のことが片づいたら。
そんなことをしているうちに、一日は終わります。

だから逆にします。先に、走ると決めてしまう。

朝のこの時間は走る、と確保して、残った時間で仕事や生活を組み立てる。
一見すると、走っている1時間は「使ってしまった時間」です。

でも実際には、体力がつくだけでなく、考えが整理されたり、前向きに物事を考えられたりする。私自身そう感じますし、周りの市民ランナーからもよく聞く話です。

走る時間は「消費」ではなく「投資」なわけです。

仕事にも、同じような時間があります。

人を育てる。対話する。振り返る。学ぶ。新しいことを試す。将来について考える。

いわゆる「重要だけれど緊急ではない」第2領域です。

これらは「時間ができたらやる」のではなく、先に時間を投資すると決めない限り、なかなか実現しません。

轍に乗るのに、意思はいらない

なぜなら、日常の仕事には「轍」があるからです。

朝、メールを見る。会議に出る。頼まれた仕事をする。問題に対応する。またメールを見る。

一つひとつは必要な仕事です。

ただ、それを繰り返しているうちに、目的をいちいち考えなくても一日が回るようになります。

轍とはそういうものです。

一度できてしまえば、ハンドルを強く握らなくても車輪はその方向へ進んでいく。

轍に乗るのに、意思はいらない。
投資には、意思がいる。

ここに、AIで効率化しても忙しさがなくならない理由の一端があるように思います。

時間が空いても、行き先を決めていなければ、そこにはまた日常の仕事が流れ込んできます。

AIは、轍の中を速く走る道具なのか

AIによって、私たちはずいぶん速く仕事ができるようになりました。

資料をつくる。文章を書く。情報を集める。分析する。

でも、速く走れるようになったからといって、行き先が変わるわけではありません。むしろ目的を問わなければ、同じ轍の中を、以前より速く走るだけになるのかもしれません。

これはAIに限った話ではないでしょう。

時短、効率化、タイパ、コスパ。

どれも「どうすれば少ない時間やコストでできるか」を考えるものです。

もちろん大切です。ただ、その先にある、
「それで生まれた時間を、何に使いたいのか」は別の問いです。

何に時間を使うかを、先に決める

順番が逆なのではないかと疑うことができていないのだと思います。

AIで効率化する
→ 時間ができる
→ 何か大事なことをする

ではなく、

大事なことに時間を使うと決める
→ その時間を先に確保する
→ そのために仕事を効率化する

AIは、仕事を速くしてくれます。でも、生まれた時間を何に使うかまでは決めてくれません。

AIによる生産性向上を考えるとき、
「何時間削減できたか」だけでなく、「その時間を何に投資したのか」まで問いかけたい。

速く走れるようになった今だからこそ、ときどき目を上げて、
「そもそも、どこへ行きたかったんだっけ?」
と考えることが必要なのだと思います。

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