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塵と十字架(12)


 敵が潜伏している室内に複数で突入する場合、部屋内部を入口を中心として四十五度程度に区分しておき、突入する各人がそれぞれの分担部分を制圧する。これは室内を分割するという事で、同じ相手に重複して発砲するという無駄を排除でき、且つ制圧は効率良く短時間で進む。クリアリングという手法だ。特殊部隊による人質救出作戦などで有効な作戦の一つである。
 
「どちらにしますか」
 促すように、機械的な声が。
「え?」チカゲは足を止める。明らかにこの事態に戸惑いを隠せない様子。「ああ……じゃあ、右」
 マキコは扉前に慎重に立つと、アサルトライフルM16シリーズの中でも最高の銃と言われるM4A1カービンを構える。M203・40ミリグレネードランチャーを装着した形だ。アサルトベルトには幾つものナイフを装備していた。扉向こうからは既に見慣れた感のある獣人の気配。唸り声と物音。
「開けます」
 低いが、よく通る声。チカゲは慌ててMP5を腰にあてがった。
「3、2、1、Go」
 声と共にマキコが鉄製の扉を蹴り開く。扉取っ手は向かって左側に付いていた。つまり扉に体を寄せて、右手を使って開く形だ。そのまま滑り込めば部屋左半分が視野に入る事になる。中に蠢く獣人が入口目掛けて一斉に飛びかかった。
 必然的に左半面を補う事になるマキコは、まず部屋中央目掛けランチャーを放つ。その衝撃波に身を晒しながらも、アサルトの引金を。耳慣れた9ミリパラベラム弾より幾分重い銃声が、一分間に数百発のスピードで発射される。そのまま彼女は左側に上体を捻った。アサルトライフルの射撃反動に、それでも長身が揺らぐ事はない。
 暫く呆気に取られて女の後ろ姿を見ていたチカゲだが、マキコと扉の隙間に滑り込むようにして部屋に突入した。右側は扉の死角になっている。目視より先に弾丸をぶち撒ける。今度はMP5の断続的に軽い銃音が爽快に響いた。狙いを付けるというより、右側全体に隙間なく撃ち込む感覚だ。自衛隊特殊部隊の姉に酔っ払う度に訓練させられていた。この動きは身に染み付いている。
 空中に飛び上がった三匹の獣人が腹を撃ち抜かれる様が見えた。だが引金にかけた指は硬直したようにそこから離れない。弾丸は撒かれ続ける。前後に広げた足の後ろの踵に体重をかけるので、銃口は安定して狭い室内をくまなく蹂躙する。侵入者に襲い掛かるより先に、獣人は壁に叩きつけられ泡を吹いた。
 何度か装填し直した弾倉が切れ、ようやく銃音は緩慢になり消えていく。銃身の加熱にも気付いたのだろう。チカゲは溜めていた息をそっと吐いた。部屋中白い煙に覆われている。何とも言えぬ動物臭と血の臭い。片手で口元を覆う。涙目になって咳き込んだ。
「違いますか」
「……え?」
 そう言われ、彼は我に返った。マキコが死体を一つ一つ調べている。死んだ獣人の中に友人は居ないかと問うているのだと気付いた。
「あ、ああ……居ないみたいだ」
 そんなもん、見ただけで分かる訳ねぇだろ。そう言いかけて口ごもったのだ。夢中になって撃っていた。最早原型を留めない状態のものも多い。
「Dr.カーンもここには居ないようですね」
「ああ……」
 突っ立ったままのチカゲを残して、マキコはさっさと部屋を出て行った。更に上階を目指して階段を上がる足音が響く。重心を親指付根に移す歩き方、正確な歩幅は軍隊経験者特有のものだ。
 元暗殺組織《サイレンサー》の隊員だという彼女をチカゲに付けたのは、おそらくイズミなりの計らいだったろう。この《赤き塔》──電波塔最上部に設置された制御ルーム。そこへ到達する事が今回の目的だ。しかしその道程には百を越す数の獣人が居るのだ。
「まどろっこしい!」
 今朝、イズミが突然そう叫んだのだ。《塵》中を回ってビーストを、そしてドクターを捜していてはどれ程無駄な時間を食うか知れない。
「電波塔から放送を流すわ」
 《塵》の何処かに潜んでいる筈のドクターにメッセージを送る。
 そうイズミが言い切った以上、それを覆す事は出来ないと本能と経験で知っているチカゲはおとなしく従った。
 電波塔制圧戦とでも言えようか。イズミ、それからマキコとチカゲ。塔上層部の制御ルームを目指して、南北の階段から二手に別れて駆け上がったのはちょうど三十分前の事だ。万一ドクター達が隠れていてはと各階に設計された小部屋を調べながら、つまり逃亡を防ぎつつの捜索を兼ねたものなので、予定より時間がかかっている。
 ちらり……チカゲがマキコを見上げる。黒ずくめの長身、赤い眼帯。表情は動かない。その上終始無言で……。必要な時に発する言葉すら抑揚がなく、まるで感情が見えない女だ。
 使える戦力が三人しかなく、しかもそれを二分するという事で、彼女なりに弟を気遣っての組み合わせだったのだろうが、これなら一人の方が余程ましだ。頭の奥から苛立ちが湧いてくる。チカゲはもどかしく上着から煙草の紙箱を取り出した。残り少ないマリファナ煙草を肺の奥まで吸い込むと、苛々が消えていく。
「女々しい男だ」
 階段の手すりから下を覗き込んで、サイボーグのような女が言った。
「え……?」
 煙が喉の奥に引っかかり、チカゲは咳き込んだ。今迄の冷淡な敬語とは違い、まるで突き放したような口調。かっと頭に血が昇った。
「何だよ」足元に煙草を投げ捨てる。麻薬(これ)の何がいけないと? 「この五年間、僕がどんな思いでいたと? あんたはずっとイズミと一緒に居たくせに!」
 羨ましくてしょうがなかった。こんな女が、何で僕よりイズミの側に居られるんだ? 彼女の言うように自分がどうしようもなく女々しい事も分かっていた。しかし詰らずにはいられない。そんな彼を見やり、女は唾を吐き捨てる。
「あの場所にアタシも居ました」
 低い、低い声。チカゲに向かってアサルトの銃口が光る。殺意すら感じさせない一瞬の行動に、彼の全身が凍った。これが元暗殺部隊(サイレンサー)の動きか。彼女の指が動くのが、やけにゆっくりと見える。
 銃声。反撃はおろか叫ぶ事すら出来ず、チカゲは微かに身を縮めただけだった。
 ビシッ。
 鋭く空気を切って、弾丸が耳元を掠める。脳震盪を起こしかけてふらついた彼の腕を、駆けて来たマキコがつかむ。直ぐ背後で獣人が叫びを上げたのが分かった。銃撃の威力で上体が鉄柵を越えて、そのまま遥か下の地面に落ちていく。
 た、助けてくれたのか?
 咄嗟に腕を払って自分で手すりをつかんだが、全身に震えが走るのを自覚する。振り払われた腕を、マキコは自身の銃に添えた。
「あの場所にアタシも居ました」
 同じ台詞。突風が吹き荒ぶ階段の途中で、彼女は足を止める。
 あの場所って……?
「国会議事堂です」
 アタシはあの場所で死んでいる筈でした。
 それだけの単語ですぐに分かった。二〇三三年、国会議事堂テロ事件だ。
「そこに居た? じゃあイズミと……?」
 マキコの顔に初めて表情らしいものが浮かんだ。
「テロリストが投げた手榴弾がアタシの目に当たりました。爆発する寸前、イズミが素手でつかんで投げ返してくれたのです」
 赤い眼帯は《赤き死》への思いを表している。片目を失い《サイレンサー》を除隊になった彼女をイズミが拾ったのだ。アメリカ戦線の自身の部隊に、彼女の配属を願い出たと言う。
「アタシの目に罪悪感を覚えたようです」
 しかし片目の失明にも拘らず、マキコの射撃能力に衰えはない。イズミだって彼女には相当の信頼を置いているのが分かる。捻くれた弟は、そう思って目の前の女を睨みつけた。しかし彼女は淡々とした表情で言葉を続ける。
 アメリカ戦線、敵地深くで、ある日突然日本の崩壊を知り、味方部隊は散り散りになった。二人は重度の精神病患者の施設に紛れて輸送船でニッポンへ帰ったのだと言う。アメリカが《塵》制圧に匙を投げかけた際の最後の輸送がそれであったのだ。アメリカ国内の厄介な患者を目の届かない所へ追いやる悪政策。イズミが言ってたっけ。必死になってダスト(ここ)に戻って来たんだと。
「アル中のイズミが時々奇声をあげたり暴れたりするので、違和感なくその船に溶け込めたが」
 ロクな姉弟じゃない──ちらりとこちらを見るマキコの視線はそう語っている。或いは喋りすぎたと思っているのだろうか。
 突然、黙り込んで彼女は歩を進める。イズミを待たせてはならない、さっさと上に行かなければと言うように。チカゲはこの無口な女性の感情が少しずつ読めるようになってきていた。
「それで? 《塵》に戻ってから電波ジャックを?」
 あのテープを流していたのか。尤も、電波状態も治安も悪い中、街の人間にイズミの声は届かなかったのだろうが。
「さっさと歩け」
「……分かったよ」
 後は無言で、二人はかなりの高さまで上ってきた。足元の階段の隙間から覗く地上は遥か下。四百メートルにもなろうか。階段を何百、否、何千段登った事か。風もきつい。マキコは泰然と立っているが、チカゲは手すりにしがみ付くようにしていなければ飛ばされてしまいそう。さすがにこの辺りまで来ると獣人の数もまばらになっていた。
 マキコが足を止めてこちらを振り返る。早くしろと言っているのか。
「……分かってるよ」
 荒い呼吸を繰り返しながら、帽のような足を引きずる。あの女は何なんだ。息一つ乱しちゃいねぇ。人間とは思えない。絶対サイボーグだ。ぶつぶつ言いながらも階段を上っていると、今度は上空に影が落ちた。
「何……?」
 振り仰ぐチカゲに、雷のような叫びが落ちる。
「遅いよ、二人とも! 何やってたの」
 隊長、と叫んでマキコが階段を駆け上がる。負けじとチカゲも走り出した。マキコを押し退けて姉の前に立つと、宥めるようにぽんと腕を叩かれた。
「ご苦労様。でも、遅いよ」
「イズミ、聞いたよ。テロの時……」
 しかし彼女はもう聞いてはいない。マキコが向こうから呼んでいた。早くも電波塔最上部にある制御ルーム前で、銃を構えて待っているのだ。
「行くよ、チカゲ」イズミが駆け出した。
 ここがこの建物のメインシステムルームだ。塔から発する電波調整の全てをここで行うのだ。
 イズミとマキコが目配せして、姉が扉を蹴り開ける。M4A1を発射しながら、黒服の女が突入しかけた時だ。その彼女が微かな声をあげた。弾き飛ばされるようにその場に倒れる。潜んでいた獣人が飛び出して来たのだ。ほとんど反射的にチカゲはMP5をぶちかました。
「退きなさい!」
 イズミが叫んで自身のグレネードピストルで獣人に狙いを付ける。動きが素早いので照準を合わせるのが困難だ。これを仕留めるのはチカゲには不可能だと《赤き死》は判断したのだ。
 銃声。獣人が宙に跳ねて階段を転げるのを見届けてから、彼女は室内に入っていった。
 制御ルームと言っても、二メートル四方程度の小さな部屋だ。本来であれば隣りのビルで本格的に制御出来た筈だが、焼けてしまった以上ここで操作するしかない。管理する人間は居ないが電力だけは不自由なく、煌々と光を放つスイッチとスピーカー類は生きているのが分かる。センサーも激しくアラームを発していた。
 先程の獣人の犠牲者だろう。女の死体を跨ぎながら、マキコが手馴れた様子で幾つかのスイッチを触っている。
「貸して」
 イズミがマイクをひったくる。電波ジャックではなくて、塔(ここ)から大音響の放送を流すつもりだ。古い方法だが失敗も少ない。
『私はブラッディ・デスだ』
 いつの間にか部屋を出ていたマキコが扉向こうからイズミに頷いてみせる。音声が正確に出ている事を、外に確認に行ったのだろう。
『炭疽菌、ペスト菌の兵器化、毒物製造、大規模生物兵器量産等の容疑で国際刑事機構より国際指名手配を受けている、パキスタン出身の科学者Dr.カーンよ。街に居る事は分かっている。この街を一歩でも出れば主権国家に拘束、逮捕される事は自身でも分かっている筈だ』
 私はブラッディ・デスだと、もう一度彼女は言った。
「貸せ、イズミ」
 まどろっこしくて仕方がない。
『ビーストは……ビーストは何処だ?』
 チカゲが横から叫んだ。たちまちのうちに後ろからマキコに羽交い絞めにされる。黙れと怒鳴られ、イズミの側から引き離された。その様を横目に、イズミは苦笑する。
『あの獣人は何? 恐らくは倫理(モラル)が技術に追い付かない時代に、ただ造っただけのモノでしょう。造りたいから造った。造れるから造った。ううん、思想についてとやかく言うつもりはないわ。今のこの事態には直接関係ないから』
 《赤き死》は希代の犯罪者を、まるで目の前に置くかのように真っ直ぐ語りかけていた。高い声に、一切の澱みはない。
『この街を見なさい。あなたは一体、何をしたいの? 自我の薄い獣人を造り続けて……この街を占領するつもり? それとも中国やアメリカに戦争をしかけるつもり?』
 私は《赤き塔》に居ます。直ぐに来なさい。そこで彼女の声は一気に低くなった。
『さもなくば《塵》中の獣人を一匹残らず殺す。いくら造っても全員、殺す』
 私には出来る。必ず殺す。
 こう言って、唐突に彼女はスイッチを切った。
「下に行くわ!」
 武器を握り締めてイズミは部屋を飛び出す。この塔に自分が居る事をおおっぴらに宣言したのだから、すぐにでもロケット砲が飛んできてもおかしくない。早く下りよう。置きっ放しのRATTも心配だ。そんな事を叫んで、階段を二段飛ばしで駆け降りる。
「ちょっ、ちょっと待って」
 チカゲはもたもたと上着を探った。置いてくわよ、と下から怒鳴り声。そして何発かの銃声が続く。獣人と交戦している様子だ。本当に置いていかれかねない。入口付近でマキコが苛々したように彼を振り返った。
「ちょっと待って……」
 チカゲが取り出したのは例のテープだ。数年前、イズミが吹き込んだもの。彼自身、夕べ初めて聞いた。それを彼は装置にセットした。こんな旧式のソフトに対応出来るハードがあって良かった。スイッチを押すとキュルキュルと微かな音を立ててから、イズミの声が《塵》中に響き渡った。
 
     ※
 
 ドクター・カーンが何らかのコンタクトを取ってくるならば、地面で迎え撃つべきだ。足場の悪い塔では、獣人に対して動きの悪いこちらの不利は見えているから。イズミがそう言ったのだ。
 またもや数百メートル。カンカンと足音を響かせながら、今度は地上へ。何千段という階段を登って降りて。うんざりしながら、もうふくらはぎの筋肉にはブルブルと震えがきている。手すりにつかまりながら、おかげで塔を下りるのに予定の数倍もの時間を費やしてしまった。イズミの姿は直ぐに見えなくなり、マキコだけがチカゲに歩調を合わせてくれていた。
 ぜぇぜぇ言いながら下り立った地上には、止めたままの形でRATTが横付けされていた。
「誰も盗らねぇよな、こんな胡散臭い車」
 ボンネットのミニ=ガン。荷台の棺桶を見てチカゲは唸る。暫くしてからはっとしたように顔を上げた。
「待てよ、イズミは?」
 てっきり運転席に座って文句を言いながら二人を待っていると思ったのだが、彼女の姿はそこにはない。代わりにという訳ではなかろうが、後部座席に黒い塊が。這いつくばるようにして呻いている。チカゲは視線を逸らせた。それはごく見慣れた姿だったから。
「動くな」
 マキコがM4A1を構えたので、慌てて止めに入る。
「止めてくれ。僕の知り合いだ」
 友達と言わずに、知り合いと表現したところにささやかな抵抗が見て取れる。しかしマキコは不審そうに銃を構えたまま近付くと、銃口で黒ずくめの男を突付いた。
 うっ、と呻いてオキは身動ぎする。
「怪我をしているようだ」
 マキコに言われ、初めて気付いた。黒い衣服だから分かりにくかったが、コートにはべっとりと血液が付いて赤黒い光沢を放っているではないか。
「オキ、どうしたんだ?」
 肩をつかんで起こすと、腹に傷口が見えた。鋭利な刃物で切られた外傷ではない。抉られたようなものだ。じくじくと今も血が滲み出てくる。獣人の爪にやられたに違いない。チカゲの額から血の気が引いた。
「チ、チカゲ……」オキがうっすらと目を開ける。「聞いたよ。あんたの姉さんの言葉……」
 それで俺は戻って来たんだ。でも獣人に襲われて……。
 目の焦点が合っていない。友人の顔は色を抜いたように蒼白だ。今にも泣き出しそうな面持ちでチカゲはマキコを振り返った。表情も変えずに頷きを返す彼女が、今は頼もしく見える。
 大柄なオキを、さすがにマキコ一人で抱える事は出来ず、チカゲと二人でとりあえず塔一階の建物に運び込む。ドクターが実験室にしていた小屋で、勿論ここには真っ先に踏み込んで無人を確認していた。
 実験道具と共に一通りの救急キッドは用意されてあるから、マキコはそれを駆使して手当てを始める。オキを寝かせたのは死体の頭部を開けていた寝台だが、そんな事に構ってはいられなかった。
 それは熱したナイフで傷口を焼き、消毒を繰り返してから縫合するという実に荒っぽい手当てであった。勿論麻酔もない。幾分役に立つかどうか……麻薬煙草(マリファナ)を怪我人の口に突っ込んで、チカゲは悲鳴を上げて暴れる友人を押さえる係りだった。こういう事は苦手だ。終始目を逸らせているが、マキコの手当ての様が視野に入る度に嗚咽を飲み込んでいる様子。
 手当ては僅か十分で完了した。さすがに実戦経験を経た軍人である。戦場では例え救急治療班といえども手当てに時間はかけられない。極僅かな間に、的確な治療を行わなければならない。特殊部隊に居た彼女はそんな訓練まで受けていたのだろう。
「傷は浅い。本当に浅い」
 突き放したようにマキコは言った。表情は変わらないが、呆れたような口調である。寝台に横たわったまま呻くオキを、冷たく見下ろす面持ちだ。
「……おい、起きろよ」
 小声でチカゲが囁くと、友人は目を開けた。腹を押さえて顔を顰めながらも、頭だけ持ち上げる。顔色は悪いが、意識ははっきりしているようだ。マキコの言うように大した怪我ではなさそうだ。腹に視線を送ってから、しかしオキはやけに弱々しい声で呟いた。
「チカゲ、多分アレはビーストだ……」
 不意にマキコが彼の足首をつかむ。たまらずオキは悲鳴をあげた。
「だ、誰だ……? まさかあの時の?」
 今頃気付いたのか。オキは女とチカゲを交互に見る。混乱しているのだ。無理もない。当で襲撃を受けた女に、今こうやつて手当てされているのだ。
「あぁ、もぅ……。色々あったんだよ。それより確かなのか。ビー……」
 面倒臭くなってそう答えた時だ。続く肝心の質問に覆い被さるように、オキが悲鳴を上げた。マキコのナイフが一閃したのだ。
「な、何するんだ!」
 友人の足首には血が滲んでいる。薄皮一枚を裂いた、見事なナイフ捌きだ。サイボーグのような女は、無言で切っ先をチカゲに向けた。
「何……?」
 そこには小さな機械のような物が突き刺さっている。
「チップ状のGPS(全地球測位システム)です。埋め込まれてから一年は経っている。塔制御室のセンサーが反応してアラームが鳴っていたのは、こいつのせいだったようだ」
 突然の話に、チカゲはきょとんとして友人を振り返る。オキも痛みを忘れ、呆然と首を振った。
「まさかアラカキが……?」
 オキは呟く。まるで首輪を付けるように体内にGPSを? だからどこに居ても必ず居所をつかまれていたのか?
 ああ、そうだったのか。チカゲは顔を顰めた。アラカキが僕の側に常にオキを付けていたのはそういう訳か。友人の意思とは関係なく、自分達の所在地を常にアラカキに送っていたというわけだ。色々と友人を疑った事を思い出し、チカゲは地面を睨む。
「ごめん、オキ……」
 オキは無言で彼の腕を叩いた。
「それで……ビーストはどこに?」
「いや……」
 オキは首を横に振る。
「Dr.カーンの居所を知っているか?」
 マキコの更なる問いに、今度は頷いた。
「知ってる。チカゲ、あの場所だ……」
「あの場所って……」
 
 彼をRATTに運び──移動が傷に良くないといっても、友人をこんな所に置いておくわけにはいかなかった──後部座席に寝かせる。マキコが運転席に座った。
「ちょっ、ちょっと待って」今しも出発しそうな雰囲気に、チカゲが待ったをかける。「イズミはどこ行ったんだ」
 アクセルから足を離して、マキコが塔を見上げた。しかしそんな筈はない。彼女は自分達より早くに降りた筈だ。待っているのが嫌になったか、それとも何かを見付けたかして何処かに行ったに違いない。あの姉の事だ。何を考え、何処へ行ったかなんて分かる筈もない。RATTの近くを通ったと思われるが、意識朦朧だったオキに尋ねるのも酷な話だ。
 仕方がない。僅かな躊躇の後、マキコは車を走らせた。イズミの事だから既にドクターの居所をつかんだのかも。
「俺は……」後部座席でオキが身を起こす気配。「俺は死体提供先としてDr.に利用さされていたんだ」
「オキ、寝てろ」
 上着からベレッタを出して放ってやる。イズミがため込んでいた中から取って来た武器の一つだ。彼の銃(S&WM60)とは違うが、オキはおとなしく受け取った。怪我人といえど、自分の身は自分で守れという事だ。
「Dr.は著しい戦闘能力を持つ獣人部隊を各国の軍に売るつもりだ」
 マキコが「矢張り」と唸った。
 ドクターはニイガキのように自身で《塵》を制圧するつもりはない。勿論大国に戦争を仕掛ける気もない。言わば戦争産業に自身の科学技術を利用するつもりだ。生物兵器──特に人間が絡んだそれ──に関しては、倫理観を持ち合わせる主権国家においては大っぴらに研究するのは難しい。しかし軍事力の一環として、技術だけは持ち合わせていたいというのが各国の本音だ。そこに奴は目を付けた。
 だが、そこで問題が生じた。人工生命体ならいくらでも造れる。その技術はある。しかし、脳には限りがある。こんな街(ダスト)でも死人の数には限度がある。人間の感覚を備えた戦闘型獣人を造る為には人間の脳が不可欠だとドクターは信じる。危険察知等──所謂第六感を備えた脳を、人工的に造り出す事は非常に難しい。否、不可能だ。
 当然の経緯だ。ドクターはオキを襲った。生きた人間の脳を奪う為に。
 争っている最中に、灰色の獣人が割り込んで来たのだ。ドクターを襲い、オキまで巻き込んでから獣人は逃げた。
 たまたまなのか、それともビーストだから助けてくれたのか。腹に傷を負ったオキはふらつきながら街に逃げ戻った。そこでイズミの言葉を聞き、電波塔までやって来た。そこに自分の車を見付けて力尽きたのだと言う。
「でもビースト(あいつ)は一旦獣化しちまったら目茶苦茶だしな」
 相手を認識して助けたり襲ったり出来るものか?
「でも……腹に傷があったんだ」
 オキは言う。あの時、俺が解剖した痕に違いない。しかし何であれその獣人が何処へ行ったかまでは分からない。
「今心配なのはドクターの行動だ」マキコは車のスピードを上げた。「一度たがが外れたら何を仕出かすか知れない」
 《塵》の中で人間狩りを始めるかもしれない。
 まさか、脳味噌の為に? 馬鹿げてる。チカゲは苦笑を禁じえない。そもそも……と続ける。
「この街(ダスト)の人間がどうなろうと知った事じゃねぇよ。僕は正義の味方じゃないんだ」
 空が急速に暗くなる中、車が停まった。雷が鳴る音が遠くに聞こえる。
「ここまで来て往生際の悪い男だ」マキコが呟く。
「ここまで来て、か」
 チカゲはその場所に下り立った。懐かしい場所だ。ここを出たのはつい数週間前の事か。もう随分長い時間が経ったような気がする。麻薬更生施設──数日前にチカゲが占拠して、それから無人になっていたその場所に、ドクターはオキの案内で潜んでいたようだ。どうりでどこを捜しても居ないわけだ。
「ここに居て下さい」そう言ってマキコは車を降りた。手にはM4A1.グレネードランチャーを装着している。「アタシが片を付けてきます」
 止める間もなく扉の向こうに消える。
「どうするんだ?」とオキ。責めるような口調に聞こえて、チカゲは舌打ちを繰り返す。
「分かってるよ。僕も行くよ」
 こちらは愛用のMP5を抱える。照準装置(エイムポインター)を付けている。当然のように付いて来ようとするオキに、ここに居ろと言い捨ててからマキコの入って行った扉へ向かう。ぽつぽつと雨が降り始めていた。
「うっ……」
 数日前と比べ、内部は様変わりしていた。クリスマスの飾りが施された廊下中に無残な死体が転がっていたのだ。噎せ返る死臭。それから腐臭。たまらず元来た扉へと踵を返した彼の耳に、エキセントリックな声が響く。
「《塵》の人間は絶対に長生き出来ないさ。放射能をしっかり浴びているからねぇ。ならば逆に生物兵器、放射能備蓄体として傭兵稼業をしてはどうだい?」
 マキコと話しているのか? チカゲは息を詰めて声の元へと歩を進める。特に多数の死体が散乱した──ここは患者達の休憩室となっていた部屋だ。その扉前で彼は立ち止まった。ドアに付いた小窓越しに中を窺う。
 居た。
 白衣の大男。マキコの姿はない。ドクターは死体に馬乗りになって、メスの刃を頭皮に付き立てながら早口で捲し立てていたのだ。
 常軌を逸していると思う。どうするか……。
 MP5を抱え直しながら、躊躇ったようにその場に立つチカゲの頬を鋭い光が刺した。
 ──何?
 それは極一瞬の事。チカゲは目を凝らす。室内の男の様子に変化はない。その向こう側、窓の外だ。再びきらりと光ったのはナイフの光。マキコだ。合図を送ろうとしているのか、目玉を動かしている。
「え? 何?」
 首を振ると、彼女の動作が一瞬止まる。それから再び、辛抱強く同じ動きを繰り返した。目玉が右を向いて、瞬き数回。それから左を見る。
「……分かんねぇよ」
 おそらく特殊部隊で使われている合図なのだろう。何分後に突入するとか、そういう事。分かる訳ねぇだろ。僕をイズミと勘違いしてやがるんじゃねぇか。
「面倒臭ぇな」
 たまらなく雑な気持ちになった。こういう時の行動は決まっている。姉だってそうするだろう。高く足を上げると、扉を蹴り開ける。強行突破だ。これしかない。
 耳慣れたMP5の銃声が雷のように響き渡り、巨大な白い影が揺らぐ。《塵》のこの事態を招いた男が、しかし呆気なくそこに倒れた。


二〇三三年七月六日 国会議事堂テロⅢ 真実

 直ぐ後ろで女が目を押さえた。悲鳴はあげない。そう訓練されているのだ。恐らく特殊部隊の一員だろう。私は急いで彼女の元に走った。
 手榴弾──手作りに等しい。カプセルに火薬と共に大量の釘やガラス片を入れただけの簡単な造りの爆弾だ。それでも致死性は十分。今直ぐに爆発しなくとも、不発弾であるとは考えない方が良い。女の目を直撃し、床に転がったそれを拾って遠くへ投げる。なるべく空中高くで爆発するようタイミングを計って。
 テロ事件の現場とは正に想像を絶する空間である。
 人間が──ただそこに居ただけの無関係な人間までもが凶器になる。出口に向かって押し寄せ、殺到する二百の人間の波は脅威だ。式典の性格から列席者は軍事関係者が大半である筈なのに、情けない事に統制も何もない。収集の付かない事態に陥ってしまっている。
 落ち着いてくださいと必死に叫んでいるのは警備担当者くらいだ。それでも浮き足立っているのが分かる。第一あの男──アラカキといったか。あんな声ではこの場の誰の耳にも届くまい。まるで助けを求めるようにあちこちに視線を走らせる。比較的冷静なのは私くらいのものだったろうか。
 
 国会議事堂ホール。午後一時に始まった式典。
 開始十五分後、外の植込みで爆発が起こる。時限装置式の爆弾が設置されていたのだ。その音を合図とするかのように議事堂玄関ホールに凄まじいプロペラ音が近付いてきた。次いで地震のような衝撃。ドン、という破壊音は壁が破られた音だろう。無人のヘリが──恐らく遠隔操作されたものに違いない──突っ込んで来たのだ。この部屋には防犯上の理由から硝子窓はないが、それでも壁がガタガタ震え、飾りのシャンデリアが弾けた。瞬時に照明が落ちる。
 闇。
 ここで人はパニックに陥った。軍人なんて脆いものだ。銃がなければ手足を捥がれたように無力なのだから。当然ながら私を含めて全員、ここでは丸腰だ。
 直ぐに非常灯が点いた。通常の白熱灯とは違って、まるで赤外線レーダーの照準装置から覗く色合いの世界だ。
 それでも僅かな光の下、人々は動き出す。口々に悲鳴をあげながら殺到する出入り口の扉は、しかし向こうから鍵が掛かっているようで、彼等はその場で壁や扉を叩き始めた。
 ──よく見ろ。
 自分に言い聞かせる。特定の誰か──この場には総理だって居るわけだし──を狙った狙撃ではなく、要人の集まる場所を狙ったテロだ。珍しい事ではない。こういう仕打ちを受けるような事を、いつの間にこの国はしてきたのだろうか。
 もしそうであるならば、これだけでは済むまい。数秒後にはテロ実行犯がこのホールに突入して来る筈だ。或いは既に侵入しているか。手榴弾はどこから投げられたのか。警備員、或いは職員の制服を着た者が突然銃を乱射する可能性だってあるのだ。
 見渡す私の視線が、一点で止まった。
 一人の人物をそこに見たから。二十五、六くらいか。無精髭を生やして、くたびれたスーツをだらしなく着崩している。この騒ぎに飲まれたようにその場に立ち尽くしている様子は決して軍人に見えないし、報道関係者でもなさそうだ。
 男の口が動く。この照明の中でははっきりとは見えないが、どうやら声には出さずに口の中で何事が呟いているようだ。その男の視線がずっと私を捉えている事に気付き、ぞっとした。男の手にはペンシル型の小型カメラ。自動撮影なのか、数秒毎にフラッシュが光る。その度に人々が悲鳴をあげた。そう言えばこの間、後を付ける不審な男が居たから投げ捨ててやったが……この男だったような気がする。
「危ないっ……!」
 低い、はっきりした女の声。私は我に返る。状況を認識するより早くに体は動いていた。再び転がってきた手榴弾を蹴り返す。入口に人が集中しているので、部屋の奥で破裂させるように。
 声の主を振り返る。先程の女だった。
「しっかりしなさい!」
 意識が朦朧としているのが分かる。床に倒れ、片目を押さえた指の間からはどくどくと鮮血が溢れ出ていた。もう片方の目が虚ろに私を見上げる。こんな状態ながら、手榴弾の気配に気付き警告を放ってくれたのか。私は自分の上着を脱いで彼女の顔にあてがった。怪我の場所が場所だから、眼球を傷付けるのが怖くて下手に止血を施せない。
「あ、あたしが……」
 転がるように駆けて来た年配の女性が、私の手から彼女をひったくった。この制服は医療関係者、つまり軍医だ。メディカルポーチから止血帯やガーゼを取り出したのを見て、私は彼女達に背を向けて立ち上がる。
 そろそろ薄闇にも目が慣れてきた。
「クソッ、銃さえあれば……」
 時折転げ来る手榴弾以外、敵の姿が見えない。派手な攻撃がないだけに不気味さが募る。どの程度の規模で、一体ここで何が起ころうとしているのかすら。だから人は必要以上に混乱するのだ。それがパニックに拍車をかける悪循環。
 私は例の男の所に走り寄った。怪しいったら、こいつ以上の不審者は居ない。壁伝いに全力で疾走する。相手に銃を抜かせる暇を与えない為、それからこちらとの距離感をつかませない為。男はこちらを眺め、全身を硬直させてその場に立ち竦んでいた。
 至近距離まで近付くと一気に飛びかかる。上着と腰、それから足首。つまり銃を隠せそうな箇所を叩いて、有無を言わせず中の物を出していく。カメラやビデオ、実に様々な機器が出て来た。
「ご、ごめんなさい。《赤き死》……」
 抵抗する様子はない。泣き出しそうな声で、男が呻いた。
「何これ!」この状況も一瞬忘れ、私は大声で怒鳴っていた。「アンタ、名前は?」
 消え入りそうな声で男は名乗った。
 男のポケットにはアクリル絵の具で真っ赤に塗られた小型ビデオカメラが三台。そのサイドには隠し撮りと思しき私の写真が貼られている。上着からは似たような形態の赤い小型カメラ。ご丁寧にブーツの中にまで何台か隠し持っていた。
「な、何なの、これ! イヤ、気持ち悪い!」
 カッときて何を言っているか自分でも分からなくなっていた。
「ご、ごめ……」
 動きかけた男の顎を蹴り上げる。まともに喰らって、彼はその場に倒れた。唸っているのか泣いているのか、それとも笑っているのかも分からない。
「アンタねぇ……」
 口を開きかけた時だ。
「《赤き死》気を付けて!」
 ざわめきの中、微かに聞こえたのは軍医の声だ。私の名を《赤き死》としか知らないのだろう。ふざけた名前だ。誰が付けたのだろうか。いや、それは構わない。
 彼女の声に、私は振り返る。非常灯の乏しい明かり。しかも爆発の煙で現在、視界は極端に悪い。しかし私の視力はそれをはっきりと捉えた。
 黒光りする銃はFNブローニング・ハイパワーだ。警備員の制服を着た男が、銃を体で隠しながら入口付近に早足で近付いて行く。その歩き方がどこかおかしい。よろよろと…
…まるで重たい何かを体に巻きつけたような。ニッポン人に見えなくもないが、国籍は分からない。アジア系である事は間違いないだろうが。
 嫌な予感がした。考えるより早く、赤いハンディカムを拾って投げ付ける。狙い過たず、赤い凶器は男の後頭部を直撃した。倒れる拍子に上着がはだける。
 側に居た人が絶叫した。ノーメックス製アサルトスーツの上に、男は大量の爆弾を巻き付けていたのだ。
 絶叫は伝染していく。部屋中を埋め尽くす混乱の叫びの中、男はゆっくりと起き上がった。私の方を振り返る。左手に持った起爆スイッチを翳すように高く上げ、右手には銃。その銃口は私の方を向く。
 息を飲む音がしたのは、私の喉だったか。その場に立ち尽くす。凍り付いたように体が動かなかった。何かすればスイッチを押すぞ──その脅しに、一瞬身体が竦んだのだ。この私が、だ。脳裏に弟の顔が閃く。駄目。私が死んだらあの子は……。
 よく訓練された動作で、男が引金を引く。
 
 本当ならこの時、私だって死んでる筈だった。
 その瞬間、狼のような鋭い身のこなしで誰かが私の前に飛び出して来た。私を完全に覆うように、続け様に発射される銃弾から私を守るように。ゴフゴフと血の混じった呻きが耳を刺す。
 ──何故?
 さっきまで足元に転がっていたあの男だ。薄い布越しに銃弾を受けるような緩慢な衝撃と、その度に跳ね上がる彼の体。私は彼の名を叫んだ。
 彼は倒れる。硝煙の煙の中、私は前方に走る。奴の銃を奪った。額を狙って、撃つ。手首に軽い衝撃。分かるものだ。自分が撃った弾が、狙い通りの物を撃ち抜いたかどうかは。
 男が倒れる。同時に救援の特殊部隊が広間に雪崩れ込んだ。
 犯人を除けば死者一名、怪我人一名。未曾有の国会議事堂テロの全容が、これだ。
 私の手は犯人を殺し、服の胸元はあの男の血で真っ赤に染まっていた。
「《赤き死》か……」
 よく出来た名前ね。笑ったつもりが、喉の奥が血の味で苦くて、声が出なかった。
 ああ、早く家に帰りたい。弟の顔を見たい。手が震えるのは、酒のせいだけじゃない。私を庇って死んだ男。
「ごめんなさい……」何度も呟いた。
 でも、どうしようもない。
 彼の名をもう一度呟く。決して忘れない為に。
 
     ※
 
 ニッポンは戦争にひた走る。暴力の連鎖は止まらない。
 傷が大きすぎた。憎しみが深すぎた。その思いは、戦いを続けるうちに益々膨れ上がっていく。
 民族なんて関係ない。ニッポン人も中国人もアメリカ人も、それぞれがただの人間だ。自分の人生に納得出来るよう、誇りを持って生きる権利がある。命を奪い合う必要は決してない筈だ。しかし私の声は誰の耳にも届かない。
 国家という物が誕生してから人は誰もがそう願い、なのにいつの時代も戦いを繰り返す。
 今もそう。世界の人口は七十八億人。その一人一人が自分達の周りの平和を願っている。時に夢見てすらいる。
 七十八億の夢が、そこにあるのに……。


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