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アルコール依存症は「魔物」だった――この言葉が私を救ってくれた

アルコール専門病院に入院して間もない頃、一冊の講演録と出会いました。

タイトルは、「アルコール依存症は魔物である」

最初は少し大げさな表現ではないかと思いました。

しかし読み進めるうちに、「まさにこれだ」と思わず膝を打ちました。

なぜ自分は酒をやめたいと思いながら飲んでしまったのか。

なぜ家族に心配されても、「自分は大丈夫」と言い張ってしまったのか。

なぜ何度も失敗を繰り返したのか。

それまで説明できなかった自分の行動が、「魔物」という言葉によって、一つひとつ理解できるようになったのです。

魔物は、静かに育つ

講演録では、アルコール依存症を「魔物」にたとえています。

その魔物は、誰もが脳の中に持っている卵から生まれる。

しかし、かなりの量のアルコールを飲み続けなければ、その卵はかえりません。

私は、お酒に強いことが自慢でした。

顔も赤くならない。

たくさん飲める。

若い頃は、それを長所だと思っていました。

でも実際には、その体質こそが、魔物を育てやすい条件だったのです。

魔物は、とても巧妙です

この講演録で最も印象に残った言葉があります。

「実に巧妙で、不可解で、しかも強力」

まさにその通りでした。

魔物は最初から「酒を飲め」と命令するわけではありません。

「今日は仕事で疲れただろう。」

「少しくらいなら問題ない。」

「ストレス解消も必要だ。」

そんなふうに、ごく自然な考えとして心に入り込んできます。

そしていつしか、

「自分は依存症ではない。」

「まだやめるほどではない。」

「その気になればいつでもやめられる。」

そう信じ込ませてしまいます。

今思えば、それは私の考えではありませんでした。

病気そのものが語りかけていた言葉だったのです。

断酒を決意しても終わらない

依存症は、「酒をやめよう」と決心したら終わる病気ではありません。

むしろ、そこから魔物との本当の戦いが始まります。

「断酒会なんて行かなくても、自分一人でやめられる。」

「もう半年飲んでいないんだから、一杯くらい大丈夫。」

「眠れないなら少し飲めばいい。」

こうしたささやきは、私自身も何度も経験しました。

恐ろしいのは、それが「もっともらしく聞こえる」ことです。

だからこそ、一人で戦うことはとても難しいのだと思います。

魔物が一番嫌がるもの

では、この魔物には弱点があるのでしょうか。

講演録では、それが断酒会やAAのミーティングだと書かれています。

最初に読んだときは、少し不思議に思いました。

でも今なら、その意味がよく分かります。

ミーティングでは、それぞれが自分の失敗や苦しみを正直に話します。

すると、「自分だけではなかった」と気づきます。

そして、「その考え方は依存症がよく使う手口だよ」と仲間が教えてくれます。

魔物は正体を隠して心の中で働くことを好みます。

だからこそ、その正体を言葉にされることを嫌うのでしょう。

病院はゴールではなくスタート

この講演録には、医療の役割についても印象的な表現があります。

病院は「魔物が暴れた後の修理工場」であり、「戦闘準備センター」であるという考え方です。

私はこの表現がとても好きです。

入院によって体は回復します。

病気について学ぶこともできます。

でも、本当の回復は退院してから始まります。

そのための準備を整える場所が病院なのだと考えると、とても納得できます。

20年以上たっても色あせない理由

この講演録が書かれたのは20年以上前だそうです。

それでも今読んでも古さを感じません。

それは、アルコール依存症という病気の本質が変わっていないからでしょう。

もちろん、この20年で治療法は進歩しました。

依存症は「意志が弱い人の病気」ではなく、脳の病気として理解されるようになりました。

薬物療法や心理療法も充実し、地域の支援体制も広がっています。

それでも最後に必要なのは、自分一人で抱え込まず、人とつながり続けることです。

この部分だけは、20年前も今も変わっていません。

おわりに

私は、この「魔物」という考え方に出会えたことで、自分を責め続けることを少しやめることができました。

「自分は弱い人間だから飲んでしまう。」

そう思っていたものが、

「病気が自分を飲ませようとしていたのだ。」

と理解できたからです。

もちろん、それで病気が治るわけではありません。

魔物は眠っているだけで、いなくなることはありません。

だから私は今も、仲間とのつながりを大切にしています。

もし今、お酒をやめたいのにやめられないと苦しんでいる方がいたら。

あるいは、ご家族のことで悩んでいる方がいたら。

「魔物」という見方を一度知っていただきたいと思います。

きっと、自分や大切な人を責める気持ちが少し和らぎ、回復への第一歩につながるはずです。

この話を動画にしています。
この講演録をもとに、私自身の体験と佐田先生の医学的な解説を交えながら対話形式でお話しした動画も公開しています。

「魔物」とは何なのか。
なぜ人は酒をやめたいのにやめられないのか。

文字だけでは伝えきれない思いも込めていますので、ぜひ動画でもご覧ください。
YouTubeはこちら
https://youtu.be/zxyYg5vtdJI

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