ケビンの一言いわせて! #61|駅前に市場を

私の生まれ故郷デトロイトには、「イースタン・マーケット」という有名な市場があります。ダウンタウンの東側にあるから「東の市場」。日本と同じで、アメリカの地名も案外そのままです。
祖父も父もデトロイトでレストランを経営しており、仕入れのために早朝のイースタン・マーケットへ通っていました。市場といっても一つの建物ではなく、数ブロックにわたる一帯です。卸売業者の建物と、農家が屋台を並べる屋根付きのパビリオンが混在しています。早朝は地域中の飲食店や小売店が仕入れに訪れ、朝が進むにつれて、今度は観光客がカフェやベーカリーの朝食を目当てに集まってくる。つまり、商業の流通拠点であると同時に観光名所でもあり、デトロイト市だけでなく地域全体を支えている市場なのです。
駅は、人・物・情報が交わる町の玄関口です。市場は駅前だからこそ、大きく育つ可能性があります。
さて、山ノ内町です。湯田中駅前では毎週末、小さな朝市が開かれています。出店は「生産者」に限られていますが、その定義は必ずしも明確ではありません。一方、最近では観光局を通じて、キッチンカーが同じスペースを借りる例が増えています。つまり、駅前にはすでに「市場」の芽が自然に育ちつつあるのです。足りないのは、その芽を地域の資産に変える戦略ではないでしょうか。
稼げる農業と観光。山ノ内町の経済を支える二本の柱です。この二本を一つの場所で結びつける地域市場。地元の農産物が並び、飲食店が仕入れ、観光客が朝食を楽しむ市場を、北信全体の拠点へと育てることができれば、イースタン・マーケットがデトロイト、そして南東ミシガンに果たしている役割を、湯田中駅前が北信地域に果たせる日が来るかもしれません。
もちろん、こうした構想は一つの朝市や一つの観光局だけで実現できるものではありません。農家、さまざまな飲食店や小売店、宿泊業、交通機関、そして近隣の市町村。多くの関係者をまとめ、町境も年度も越える戦略的なビジョンを描ける機関が必要です。わが町のどの機関にその力があるのか。あるいは、その力を示してきたのか。それは、本連載を読んでこられた読者の判断にお任せします。
どのような町をつくりたいのか。その前提となるのは、どのようなビジョンを描ける人を町政に送り出すかです。幸い、判断を示す機会は遠くありません。町長選挙も町議会議員選挙も来年前半、もう1年を切っています。それを決めるのは、ほかならぬ町民の力です。
デトロイトのイースタン・マーケットも、最初から数ブロックの規模だったわけではありません。小さな市場が、地域の力で少しずつ育っていったのです。湯田中駅前の小さな朝市を眺めながら、私はその「始まり」を見ているような気がしてなりません。
