人事の無茶振りを「最高の教育の場」に変えてやった
実習生がやってきた当日の朝のことだ。
人事課長が全社員の前で、唐突にこう言い放った。「今回のコーオプ実習生、対応は品証で!」
……はぁ?
私と取締役は思わず顔を見合わせた。「大丈夫か?」と聞かれたが、聞いていない。
紹介が終わるやいなや人事課長を捕まえると、ボスが勝手にOKを出していたらしい。「あいつ、またやりやがった」。本当に、クソみたいな話だ。
そもそも「コーオプ実習生」とは、学業と実習を組み合わせ、将来の戦力を育成する「未来への投資」だ。それなのにこの丸投げぶりはどうだ。
ボスに確認すると、「あれ、言ってなかったっけ?」としらばっくれやがった。
そこまではまだ許すが、問い詰めると「人事課長が勝手にやってんだよ」とぬかしやがる。
責任から逃げるために、平気で部下や他部署のせいにする。
だったら抗議しろや!と思いつつ、「じゃあ、今すぐ人事課長を呼んできますよ。直接話しましょう」と追い詰めると、ボスはまた黙りやがった。
私は捨て台詞のように「やりますよ。最後まで」と言い残し、現場へ向かった。
すぐさま2個下の部下を呼び、こう頼んだ。
「2週間で、検査を1人で完結できるレベルまで持っていこう。師匠、頼むぞ」
実は、俺は彼のことを「師匠」と呼んでいる。
俺は生産係長のことは「先輩」と呼ぶ。だが、品証の業務で知恵を授けてくれるこの部下のことは、誰の前でも堂々と「師匠」だ。(お客様の前では控えるが、周囲はもう知っている)
実習生にも「俺の師匠だからな」と伝えておいた。
現場でのやり取りも、あえて「型」を作っている。
師匠が不具合を見つけて報告に来た時、俺は生産側の連中に聞こえるような声でこう言うんだ。
「マジか師匠!犯人は誰だ、俺がぶっ飛ばしてきてやる!」
すると師匠は、笑いながらこう返す。
「課長、落ち着いて。やめてくださいよ〜。理由があるんでしょうから」
このやり取りを聞いて、実習生や周囲の派遣さんも思わず笑ってしまう。
かつては犯人探しに躍起になっていた師匠が、今では不具合の裏にある「仕組みの問題」を冷静に見ている。その姿を見て、周囲の警戒心も自然と解けていくのだ。
最終日、課長以上が出席する重苦しい報告会。
私は人事に掛け合い、師匠を同席させた。実習生が口を開く。
「検査の仕組みがよくわかった」「職場内の雰囲気が非常に良かった」
そして最後に、こう付け加えてくれた。
「課長さん達との距離も近くて、会社ってこんなに楽しいところなんだって思いました」
報告会後、人事課長が尋ねてきた。「あそこがそんなに良い職場だったか?」
私は笑って返した。
「そりゃあ、俺がいるからな。生産の連中が『品証は楽しそうだ、俺も移籍したい』と列を作るような、最高の職場を目指して、バカを言って場を回してるんだよ」
心理的安全性のために、冗談を言い合えるくらいが丁度いい。
でも、是正を求める時は静かに、そして確実に。そのギャップが、人を動かす強さになる。
ボスの無茶振りは腹が立つ。だが、ピンチはチャンスだ。
師匠の成長と、今の俺たちのチームの空気を見せつける最高の機会になった。
俺の目標はただ一つ。
品証以外の奴らが、「どうしても品証に移籍したい」と羨むような組織にすること。
そのためなら、何度だってバカを言って、最高に楽しい職場を作ってみせる。
