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迷子の猫ダイキチ (短編小説)

歩いていると、猫が、にゃあ、と鳴いた。

白い毛に黒や茶色の模様がある。片方の目の周りが黒い。赤い首輪をつけて、動くたびにシャンシャンと鈴の音がする。

僕は「にゃあ」と鳴いてみた。猫は体をまんまるにして座り込み、こちらをじっと見つめ、ふわりと立つと、鈴を鳴らしながらゆっくり近づいてきた。

どこの子だろう。

僕はいつも家のまわりで遊んでいるけれど、見たことがない。一軒家ばかりの入り組んだこの街で猫はよく見かける。黒いやつは僕を睨みつけてすぐに逃げる。茶色いやつはいつも天井の上でおだんごみたいになっている。

けれど、この猫は違っていた。僕の足にすり寄って、顔を見つめる。
目がまんまるで、顔がまんまるで、耳がピンと立って、毛がふさふさ。
何度も小さな声で、にゃあ、にゃあ、と鳴きながら動かない。

お腹がすいているのかな。

「待ってて」

僕は走って家に帰り、冷蔵庫の中にあった煮干しを数匹つかんで先ほどの道路まで戻った。

猫はいた。煮干しを転がすと、猫は急いで走ってきてくちゃくちゃ音を立てて食べてしまい、再び、にゃあ、と鳴きながら僕の顔を見ている。

小さな耳を動かして、また、僕に近づいて何か話そうとしている。僕は猫の頭を撫でながら、「もっと持ってくるね」と家に走った。

玄関先で、お母さんが家に帰って来て、「餌をあげたらいけないよ」と、ちょっと怖い顔をした。戻ってみると猫はどこかに行ってしまった。

太陽がビルの奥へ沈んでいき、空の色がじわじわと暗くなっていく。
なんだか気持ちまで落ちてきて、窓をあけて猫のいた道路の方角を眺めた。

「ショウくん。大丈夫よ。飼い猫だから」

お母さんの声はさっきと違ってかなり優しい。僕はお風呂から出てコーヒー牛乳を飲みながら、外もいいけどやっぱり家だよな、と猫のことを考えながら気持ちが軽くなっていた。


次の日、学校の帰り道、電信柱に張り紙を見つけた。

ーー迷子の猫を探しています。名前はダイキチ。白と黒、鈴のついた首輪。ダイちゃんと呼んだら近づいてきます。連絡は……ーー

ダイキチ!

頭がかあっと熱くなって、走り始めた。

「どうしたの?」

友だちも後ろから追いかけてくる。ランドセルが肩を叩き、息が胸から飛び出すほど苦しくなって、いったん止まって、すぐに足を動かした。

「ダイちゃん! ダイちゃん!」

喉が痛くなるぐらい叫ぶ。事情を聞いた友だちも叫ぶ。

すぐに家に帰って、煮干しを持ってくると、道端にバラっとまいて何度も名前を叫んだ。近くを歩き回る。けれどダイキチはいなかった。

夕方になり、お母さんが飼い主に電話をすると、すぐにお姉さんがやってきた。

「こんな所まで来てたのね」

お姉さんは、ダイキチがいた場所に座り込んでため息をついた。そして、二人で近くを歩き回った。家の瓦、外壁、木の上、側溝の中。けれど姿はまったくない。

次の日も、その次の日も、ダイキチは見つからない。お姉さんはどんどん元気がなくなっていった。

猫が迷子になるなんて。お姉ちゃんに尋ねた。

「いつもは家の中で飼ってるんだけど、最近、すぐに外へ出るの」
「どうして?」
「外の方が楽しいのかしら。でも……」

お姉さんが帰る後ろ姿は、背中が丸くて肩が動かなかった。

今日も学校の帰りに探す。ダイキチの姿はない。

家に帰ると、僕の部屋は静かで暗くて、冷たい空気が肌にあたり、電気をつけることができなかった。たった一度しか見なかったダイキチのことが頭から離れない。

ピンポン

突然のチャイム。午後6時。まだ、お母さんもお父さんも帰って来ない。玄関に映る人が誰なのかモニターで確認すると、お姉さんの顔が見えた。

走ってドアを開けると、お姉さんは手にお菓子の箱のような物を持って、嬉しそうな顔をした。

「帰って来たのよ!」
「本当に!」
「今日の朝、お母さんには電話したんだけど。これ、お礼」

お姉さんは、僕の手をぎゅっと握りしめて「ありがとう」と何度も言うと、箱を渡して嬉しそうに帰っていった。

部屋の電気がまぶしい。両手をぎゅっと握りしめる。

今日はお父さんもお母さんも遅い。時間がなかなか過ぎなくて、テレビをつけて時計を見ながら二人を待つ。

夕食を食べておきなさいと言われたけど、食べずに待つことにした。どうしても一緒に食べたかった。

9時を過ぎてやっと三人がそろって、乾杯。お父さんとお母さんはビール。僕はジュース。

「ただの散歩だったんじゃないの?」
お父さんは笑う。
「毎日、ショウくんが探したから帰って来たのよ」
「そうだよ。何日も散歩なんかしないよ」
「猫に気持ちが伝わったってことか」

僕は日曜日にダイキチに会いに行くことになっている。それが楽しみで仕方ない。


次の日、なんとなく、あの道端に行った。

「あれ?」

何かを見つけた。

大きな煮干しが二匹、小さいのが一匹。

またいなくなったの? 
それとも僕に?
ふと、昔読んだ猫の絵本を思い出す。

三匹の煮干しをポケットにいったん入れて、すぐに戻した。
誰にも言わないようにしよう。お姉ちゃんにも。

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はやか-shirohira  (短編小説) 今後、原爆をテーマに小説を書きます。テーマ的に文学賞からの出版は厳しいと考えてます。出版費用にしたいです。応募よろしくお願いします。