短編小説 白い犬
この街に引っ越して、すぐに「あの犬」のことが気になった。白くて大きい犬だ。
雑種犬? どうだろう。その犬はいつもおじいさんと一緒に散歩をしている。僕は中学校の陸上部に入っているので、よくランニングをするのだが、その時はだいたい白い犬と出会うのだ。
走っているのだから声をかけることはない。
雨の日も、風の日も、おじいさんと一緒に白い犬は散歩をしていた。
そのうち、僕の家から一キロほど離れた公園の前にある赤い屋根の家に住む犬だとわかった。庭に大きな犬小屋があって、白い犬は昼間はその小屋で静かに休んでいた。近づいても吠えることはない。
犬が好きなわけではないが、丸くて黒い目がかわいくて、その犬だけはなぜか好きだった。理由がなく好きになるってことはある。けれど、わざわざ家をノックして「この犬の名前を教えてください」なんて言えなかった。

僕も犬を飼っていれば、散歩の時におじいさんに話かけることができたのに、残念で仕方がない。
勝手にソラと名付けた。青い空に見かけた犬だからだ。
ソラは優しい犬だった。いつもおじいさんの横を歩いていた。決して自分から先に歩いている姿は見たことがない。寄り添ってるようだった。
夕方、ランニングをしているとき、遠くにソラが見えると嬉しくなる。
ある日、ソラを違う人が連れ出していた。女の人だ。たぶん、お母さんだろう。
それから、おじいさんの姿は見えなくなった……
毎日、お母さんや、子どもがソラを連れて散歩をしている。ずっと、ずっと、毎日、お母さんと子どもが散歩をしている。
それから半年が過ぎた。
試験週間があって久しぶりにランニングをした。鈍った体で足は重いが、涼しい風が気持ち良かった。
その日はソラに会えなかった。
最初はただのすれ違いだと思っていた。しかし、もう五日目にもなると、気持ちがどんどん落ち込んでいった。いつものランニングコースを変えて、ソラの家を通ることにした。
ソラはいなかった……
犬小屋はがらんとしていた。
僕はどうやって家に帰ったのか記憶がない。まったく知らない家庭の犬なんだからいいじゃないか、そう考えても悲しくて仕方がなかった。
そうだ、勇気を出して花を送ろう。ただ、僕はソラのことを誰にも言ってない。自分の中のちょっとした秘密のような存在だったので話さなかったのだ。
小遣いで花を買うことにした。
赤い屋根のソラの家に向かった。お礼を言いたかった。
どんなお礼? 考えてみればおかしいが、どうしてもそうしたかった。
公園に近づいた。ゆっくりと歩いて赤い屋根の家に近づいていく。すると、庭に子どもやお母さんがいた。騒いでいる。
僕はどきどきしながら近づいた。
あれ、小屋の中に仔犬が三匹いた。
ソラもいた。変わらず、優しい目で、仔犬たちのそばに静かに座っていた。
僕の花はお祝いになった!

了
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今後、原爆をテーマに小説を書きます。テーマ的に文学賞からの出版は厳しいと考えてます。出版費用にしたいです。応募よろしくお願いします。