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第15回|なぜブレーキは軽く踏めるのか?

「ブレーキブースター」の秘密を整備士が徹底解説

こんにちは。

ブレーキシリーズ第15回です。

前回は、

「なぜ、あんなに重いクルマを止められるのか?」

というテーマで、ブレーキの力がどのように増幅されているのかを解説しました。

今回は、その中でも重要な役割を果たしている、

ブレーキブースター

を深掘りします。

普段、ブレーキペダルを踏むと、

「軽く踏んだだけなのに、しっかりブレーキが効く」

と思いますよね。

でも、もしブレーキブースターがなかったら?

実は、

かなりの力でペダルを踏まなければなりません。

では、一体どうやって私たちの踏力を助けているのでしょうか?


■ ブレーキブースターとは?

ブレーキブースターは、

日本語では、

ブレーキ倍力装置

と呼ばれます。

その名前の通り、

ドライバーがブレーキペダルを踏む力を補助する装置です。

大切なのは、

ブレーキそのものを作っているわけではない

ということ。

ブースターはあくまで、

人間の踏力を増幅している装置

です。

その力をマスターシリンダーへ伝え、

マスターシリンダーがブレーキフルードへ油圧を発生させます。


■ 一般的なブースターは「負圧」を利用する

ガソリンエンジン車などで長く使われてきたのが、

負圧式ブレーキブースター

です。

エンジンの吸気によって生じる負圧を利用します。

「負圧」と聞くと難しそうですが、

簡単に言えば、

大気圧より低い圧力

です。

この圧力差を利用して、

ブレーキペダルを踏んだ力を補助します。


■ ブースターの中には何が入っている?

外から見ると、

黒い大きな丸い容器。

これがブレーキブースターです。

内部には、

ダイヤフラム

と呼ばれる大きな膜があります。

そして、この膜によって内部が大きく二つの室に分けられています。

さらに、

  • バルブ機構

  • プッシュロッド

  • リターンスプリング

  • エアフィルター

などが組み合わされています。

ここで重要なのが、

「圧力差」

です。


■ ブレーキを踏んでいないとき

ブレーキペダルを踏んでいない状態では、

ブースター内部は所定の状態に保たれています。

エンジンから負圧が供給され、

ブースター内部の圧力差が作られています。

この状態では、

ブレーキを作動させるための大きな補助力は発生していません。


■ ブレーキを踏むと何が起こる?

ここからが面白いところです。

ブレーキペダルを踏むと、

ペダルの動きがブースターのプッシュロッドへ伝わります。

すると、

内部のバルブが作動します。

そして、

ブースター内部の一部へ大気圧を導入します。

一方の側には負圧が残っています。

すると、

負圧と大気圧の差

が生まれます。

この圧力差によって、

ダイヤフラムが動きます。

その力がマスターシリンダーへ伝わり、

ブレーキ油圧を発生させます。

つまり、

ブレーキブースターは、

大気圧と負圧の「差」を利用している

のです。


■ ここが「ブレーキが軽い」秘密

人間が、

100の力でペダルを踏んだとします。

その100だけでマスターシリンダーを動かすのではありません。

ブースターが、

「大気圧と負圧の差による力」

を加えてくれます。

その結果、

ドライバーは少ない踏力で大きな油圧を作ることができます。

これが、

「ブレーキが軽く踏める理由」

です。


■ では、エンジンを止めると?

ここは実際の整備でも非常に重要です。

エンジンを停止すると、

通常はエンジンから新たな負圧が供給されなくなります。

しかし、

ブースター内部にはある程度の負圧が残っています。

そのため、

エンジンを停止した直後なら、

何回かブレーキを踏んでも、

まだブースターの補助が効くことがあります。

ところが、

何度もペダルを踏んでいると、

残っていた負圧が消費されます。

すると、

ブレーキペダルがどんどん硬くなっていきます。


■ エンジン停止中にペダルが硬くなるのは故障?

これは、

必ずしも故障ではありません。

正常なブースターでも、

エンジン停止後に何度もブレーキを踏めば、

補助力は低下していきます。

ここを知らないと、

「ブレーキが壊れた!」

と勘違いしてしまいます。

もちろん、

エンジンを始動してもペダルが異常に硬い場合は、

別の原因を疑う必要があります。


■ 整備士が行う基本的なチェック

ブースターの点検には、

いくつかの方法があります。

代表的なのが、

エンジン停止状態でペダルを数回踏み、その後ペダルを踏んだままエンジンを始動する方法

です。

正常なら、

エンジン始動によってブースターの補助が働き、

ペダルが少し沈み込むような感覚が得られます。

これが、

ブースターの作動確認の一つになります。

ただし、

車両によって構造や診断方法が異なるため、

実際の整備ではメーカーの整備手順を優先してください。


■ 「ブレーキが硬い」とき、何を疑う?

ここは非常に重要です。

ブレーキペダルが異常に硬い場合、

単純に、

「キャリパーが悪い」

とは限りません。

例えば、

  • ブレーキブースター

  • バキュームホース

  • チェックバルブ

  • バキュームポンプ

  • ブースター内部

  • エンジン側の負圧系統

などを確認する必要があります。

つまり、

「ペダルが硬い」という症状から、どこまで原因を絞り込めるか

が整備士の腕の見せ所です。


■ バキュームホースの劣化にも注意

ブースター自体が正常でも、

そこへ負圧を送るホースに問題があれば、

正常に作動しません。

例えば、

  • ひび割れ

  • 硬化

  • 抜け

  • 亀裂

  • 接続部の漏れ

など。

一見すると、

「ただのゴムホース」

です。

しかし、

この小さなホース一本の不良で、

ブレーキフィーリングが変わることがあります。


■ チェックバルブも重要

ブースター周辺には、

チェックバルブ(逆止弁)

が使われています。

これは、

負圧を保持するために重要な部品です。

簡単に言えば、

一度作った負圧を逃がさないための仕組み

です。

この部品に問題があると、

エンジン停止後に必要な負圧を保持できなくなる場合があります。

その結果、

ブレーキのフィーリングに変化が出ることがあります。


■ ディーゼル車は少し事情が違う

ここも輸入車整備では重要です。

ガソリンエンジンでは、

スロットルを閉じた状態などで吸気系に負圧が発生しやすいのに対して、

ディーゼルエンジンは基本的にガソリンエンジンとは異なる吸気制御をしています。

そのため、

ブレーキブースター用の負圧を、

専用のバキュームポンプ

で作る車両があります。

つまり、

「エンジンが回っている=必ず十分な負圧がある」

とは限りません。

車種ごとの構造を理解することが重要です。


■ そしてハイブリッド車へ

ここから自動車技術が大きく変わります。

ハイブリッド車では、

エンジンが停止している時間があります。

エンジンが止まっているのに、

ブレーキは当然使えなければなりません。

そこで、

電動バキュームポンプなどを使用して負圧を確保する車両があります。

さらに、

電動化が進むにつれて、

従来のブースターとは違う、

電動式ブレーキシステム

も増えてきました。


■ EVでは「エンジンの負圧」がない

これは当然ですが、

EVにはエンジンがありません。

つまり、

「エンジンの吸気負圧を利用する」

という従来方式を、そのまま使うことはできません。

そこで、

電動ポンプを利用したり、

電動アクチュエーターで油圧を作ったり、

ブレーキ・バイ・ワイヤ方式を採用したりします。

ブレーキも、

電動化の波を受けている

のです。


■ ブレーキ・バイ・ワイヤとは?

簡単に言えば、

ドライバーのペダル操作を、

電気信号として検出し、

コンピューターがブレーキの制動力を制御する方式です。

もちろん、

「電気だけでブレーキを止める」

という単純な話ではありません。

油圧を発生させる装置や、

複数のバックアップ機構などを組み合わせ、

安全性を確保しています。

現在の車は、

ブレーキそのものが、

電子制御システムの一部

になりつつあります。


■ ここで若手整備士に伝えたいこと

昔の整備では、

「ブレーキが重い」

「ブースターを見る」

という考え方が基本でした。

しかし現代の車では、

そこからさらに、

負圧なのか?

電動ポンプなのか?

油圧系統なのか?

電子制御なのか?

を判断する必要があります。

車が進化すれば、

当然、

整備士の診断方法も進化しなければなりません。


■ 診断機だけでは分からない故障もある

ブースターの機械的な不具合や、

バキュームホースの亀裂などは、

診断機に明確な故障コードが出ないこともあります。

だから、

診断機だけに頼ってはいけません。

症状を見る。

音を聞く。

負圧を測る。

ホースを確認する。

そして、

必要なら診断機を使う。

この順番が重要です。


■ DIYで注意してほしいこと

ブレーキブースター周辺をDIYで確認する場合、

「ちょっとホースを外してみよう」

という軽い気持ちで作業するのはおすすめしません。

ブレーキは安全に直結するシステムです。

特に、

  • ブレーキ配管

  • マスターシリンダー

  • ブースター

  • バキューム系統

を触る場合は、

車両ごとの整備手順を確認してください。

そして作業後は、

ブレーキペダルの感触や制動状態を必ず確認すること。

不安がある場合は、

整備工場へ依頼してください。


■ まとめ

今回のポイントを整理します。

ブレーキブースターの役割

ドライバーの踏力を補助する。

一般的な負圧式の場合

負圧と大気圧の圧力差を利用する。

エンジン停止後

残っている負圧がなくなると、ペダルは硬くなる。

ディーゼル車

バキュームポンプを使う場合がある。

ハイブリッド・EV

電動ポンプや電動ブレーキシステムなどへ進化している。

そして何より、

ブレーキが軽いのは、足の力だけで止めているからではない。

これを覚えておいてください。


■ 整備士として最後に

自動車整備を30年以上やってきましたが、

昔と今で大きく変わったと感じるものの一つが、

ブレーキです。

昔は、

「油圧」

「負圧」

「機械」

が中心でした。

現在は、

「油圧」

「電気」

「コンピューター」

「センサー」

が一体となっています。

それでも、

基本原理をたどっていけば、

ちゃんと理解できます。

だから私は、

若い整備士の方には、

最新の診断機の使い方だけではなく、

「なぜブレーキが効くのか?」

という基本を大切にしてほしいと思っています。

基本を理解していれば、

新しい車が出てきても、

「この車は今までと何が違うのか?」

を考えることができます。

それが、

整備士としての診断力

につながっていくからです。


■ 次回予告【第16回】

「ブレーキローターは、なぜ熱で歪むのか?」

「ローターが歪んでいるので交換してください」

整備工場で、こんな説明を受けたことはありませんか?

でも、

本当にローターは「熱で歪んだ」のでしょうか?

実は、ブレーキジャダーの原因を、

単純に「ローターの歪み」と片付けてしまうと、

本当の原因を見逃すことがあります。

次回は、

ブレーキローターの熱・摩耗・厚み・DTV(Disc Thickness Variation)・ジャダー

まで踏み込み、

「なぜブレーキを踏むとハンドルやペダルがブルブルするのか?」

を整備士目線で徹底解説します。

次回は「ローターの本当の歪み」です。

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