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【エッセイ】  一つの考え方として  《風まかせ文芸部》

芸術とは内面から世界を見る個人的なビジョンの表現です。
内面とは広大で多様な領域であり、誰かが侮辱したり軽んじたりしてよいものではありません。
内面は全ての存在の暗示であり、芸術とはそれに反応を示すことだからです。


これは画家エドワード・ホッパーの言葉です。
代表作のナイトホークスなどは挿絵やポスターにもなっているのでご存知の方も多いでしょうが、都市に生きる人たちを覗き見的に描いた作風で、孤独や不安、揺らぎを写し出すのに長けたアーティストとして知られています。
ホッパーの絵を観るとですね、なんかザラっとしたリアルな雰囲気や感触が伝わってくるようなんですね。あぁ、こんな口調でシリアスなビジネス話してる人いそうやなとか、彼氏とこっぴどい別れかたしたんかなとか、関係冷めきってそうやなこの夫婦とか。個人的に一番好きなのは、通りに座り込んで途方に暮れてそうなおっちゃんの絵なんですけども。
で、このエドワード・ホッパーへの評論家のコメントが面白かったんです。


エドワード・ホッパーは二流の画家にすぎない。
だがもし彼が一流の画家だったなら、これほどの芸術家ではなかったかも知れない。


これ、なんか妙にあ〜、なるほどなと思ってしまいまして。
ホッパーに言わせたら、芸術ってのは個人の人生経験や想像力に直結するもんだから、技術や理論だけでは描ききれんやろ、と。
となると、ホッパーのちょい年下のヘミングウェイが言っていたこの言葉はどうなんやろ、と気になるわけです。


競馬は人生の縮図だ。
これほど内容の詰まった小説はない。


ある程度の年齢の方ならご存知かと思いますが、ちょうど昭和から平成になったあたりにオグリキャップという競走馬がいまして、地方の小さな競馬場からデビューして中央の猛者たちを実力で捻じ伏せていくっていう正に下剋上ストーリーな馬だったんですけど、自分の人生と夢を重ね合わせる人が多かったのか、世のお父様たち人気がハンパなかったんですね。ある年のぬいぐるみ売り上げがミッキーマウスを上回るっていう。
ただ、ある時から成績が低迷したんですね。もうピークは過ぎてしまったのかな、と。馬場や距離を変えても勝てない。そんな状況で1990年の年の瀬に人気投票で選ばれるグランプリ有馬記念がラストランとなりました。
高橋源一郎さんもこの日のことをおっしゃっているんですが、期待はできないかなと思いつつ、もうみんな心の底からオグリキャップ応援してたと。
すごいのがですね、ここで勝ったんですよオグリキャップ。地鳴りのような大歓声浴びて、最後の直線グワッ!と伸びて。
その時、私の親父も画面の前で大号泣してました。私は当時まだ小一だったので、親父なに馬見て泣いとんねんと思っただけだったんですけども。それが私の中にある親父の最期のほうの記憶です。


それからだいぶ経ってなんですけど、ゼニヤッタという馬が現れたんですね。
体つきのがっしりとした大柄な牝馬。デビュー前から数億円っていう値段がつくことも競馬の世界では珍しくないので、ゼニヤッタは6万ドルというこの時点ではあまり評価はされていない馬でした。
ところがこのゼニヤッタを戦績で見るとですね、これホンマかって思うんですけど、20戦19勝、負けたのは引退レースの2着のみ。後方から他馬をまとめてブチ抜くっていう豪快スタイルで、アメリカ競馬史上最強のヒロインなんて言われてて、当時は現地でもアイドルみたいな感じで扱われていました。
2009年のとき。この時期、私は要介護になったばあちゃんの在宅介護をなんとかせにゃあならん、となっていました。親父はとっくにいないし、兄妹なんかもおらんので私がなんとかするしかないと。実家を急ピッチでバリアフリーに改装したり、介護と両立できる働き方に考え直して、嫁さんと出会う前に付き合っていた人とも別れたりと、なかなかにキツい時期でした。そんな折にゼニヤッタのことを知ったんですね。
なんていうか、もう笑ってしまうぐらいカッコよくて。この年のミレイディHから、ヴァニティーH、クレメント・L・ハーシュ、レディーズシークレットときて、11月のブリーダーズカップ。(BC)
BCは祭典というか、強い馬集めれるだけ集めて一番強いの決めよ、みたいな非常にアメリカらしい性質なんですけども、中でもBCクラシックは世界有数の高額賞金レースに設定されています。2024年の賞金総額は10億以上だったかな。
レースは先頭にリーガルランサム、人気馬の一角リップ・ヴァン・ウィンクルが続いて、コロネルジョン、アインシュタイン、と淀みなく進む。
ラスト300mで前の6頭が横に広がり、最後方から上がってきたゼニヤッタは彼らのさらに外側に進路を変える。
雄大かつ力強いストライドで残り200mから飲み込むように伸びてきて先団を一瞬でかわし、鞭を入れて1頭前に出ていたジオポンティも成す術なし。
ゴールの瞬間、実況はこう言ってました。


This! Is! Unbelievable!


史上初の牝馬が無敗でBCクラシック制覇。
人間て本気で凄いもの見て感動したとき、単純なことしか言えなくなったり、単純なことしかできなくなるんですかね。
気がついたら泣いてました。
そんで、あぁ、今やったら親父と同じ画を観てワンワン泣けんのかな、と思いました。
人によってご意見はいろいろあるかもですが、私の中ではあの瞬間は芸術のようなものとして残っているのかなと思っています。




*こちらに参加させていただきました🙇‍♂️



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