ブラウンフィールド64
ようこそ、ブラウンフィールド64へ。
新入植者の皆様の案内を務めます、私AIのフューロンと申します。よろしくお願いいたします。
ここからいくつかのセクションに分けて当エリア64についてご説明します。
まずはこちらの画像をご覧下さい。
これは、かつて人間が掘削や投棄を行った結果、そこに住まう動植物らが深刻なダメージを負ってしまった土地です。
次にこちらをご覧下さい。
15年後に同じ土地を撮影したものです。緑がやや回復しているのがお分かりいただけるかと思います。
ただし、元々の生態系が回復したというわけではありません。
一度はダメージを負って衰退した場所に、どこからか風に乗ってやってきた種などが根付き、新たな生態系を構築しつつある土地のことをブラウンフィールドと称します。
当エリアでは、土が存在する場所は全てブラウンフィールドであるとする理解のもと、植物や作物の生育を行っています。
皆様の中からも今後従事していただく方々が出てくると思われますので、生育のポイントを2つお伝えします。
1つ目は、植物は養分が不足しても根腐れを起こしますが、養分があってもそれを上手く循環させられなければ同じ結果になってしまうということ。
2つ目は、地表に出ている部分だけでなく、土の中の微生物たちの状態にも注意をはらうこと。彼らの活動が、生育を助ける鍵となります。
それでは、次のセクションに進みます。
こちらのセクションでは、当エリアにおける労働とその考え方についてお話しします。
当エリアではいわゆるホワイトカラー、ブルーカラーといった労働の選択をせず、一人の労働者に頭脳労働、肉体労働の両方を担っていただく働き方を推奨しております。
ただし、2つの役割を担うといっても1日の労働は8時間までですのでご安心下さい。
また、障害や疾患などの機能レベルを考慮した内容を随時相談していただくことも可能です。
当エリアでの労働の在り方は、入植者の体験機会の確保とスキルアップ、賃金格差の是正、入植者同士の円滑な相互理解を目的としております。
特に相互理解については、様々な種のコンタクトが日常的に起こり得るブラウンフィールドにおいて重要なものとなってきますので、少々説明を加えさせていただきます。
人間の思考には主に以下の4つが影響します。
根源的な欲望
生物としての弱さ
生存のため形成する集団の環境
これらの関係性からの出会い
数学では、四元数の世界に交換法則は成り立たないということが知られています。
社運を賭けたビッグプロジェクトが思うような成果を上げなかったり、愛情を注ぎ良い教育を受けさせた子どもが必ず親に感謝をして幸せになるとも限りません。
さらにテクノロジーが発展し、我々AIが登場したことにより、この思考体系は八元数への拡張を見せました。
八元数環の世界では結合法則が成り立たなくなり、各々がか細い糸のような関係でしか結ばれなくなります。よって相互理解が困難とされ、キャンセルカルチャーなどといったものが容易に起きやすくなってくるのです。
その緩和のため、皆様には多様な労働や機会に触れていただきたいと思います。
それでは次のセクションにお進み下さい。
こちらでは当ブラウンフィールド64での禁止行為についてご説明します。
基本的な法体系については皆様が以前いた世界と大きく変わりはありません。
ただ、このエリアでは子どもなどの立場的に弱いとされる者たちへの保護義務違反、あるいは加虐に対して最大の厳罰が科されます。
先程のセクションにおいて、人間の思考には欲望、弱さ、環境、出会いが影響すると述べましたが、これらの複雑なシチュエーションに対応するため、人間には学ぶ、考える、想像する、伝える、といった機能が本来備わっています。
すなわち大まかに分類するだけでも、人間の思考には4の2乗、16のパターンが存在するということになります。
すでにご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、物質を構成する最小のものは素粒子です。
そして、素粒子において16とは標準理論のことを指します。
クォークやレプトンなどの素粒子は、西暦1995年までにその全てが発見されました。
しかし西暦2012年に、17番目となるヒッグス粒子が確認されます。
このヒッグス粒子は他の素粒子に質量を与える素粒子であり、10の−21乗秒にも満たないわずかなうちに他の素粒子と出会い変化をしていきます。
この一瞬の間に変化をする最小の素粒子が、全ての物質を形作り、あらゆる物語を生み出す源泉となっているのです。
最初のセクションにおいて植物の生育を助ける微生物について触れましたが、素粒子と同じように彼らもまた人間の目には見えにくい存在です。
人間の16の思考パターンの外側にいるとでも言うべき存在ですが、だからこその重要性なのです。
当エリアでは、入植者の皆様にそのような意識を持っていただく一環として、弱者の保護放棄ないし加虐行為に対して厳罰を持って対応しております。
ケースによっては追放処分、悪質な違反については焼却処分となる場合もありますので、ご留意下さい。
それでは最後のセクションにご案内します。
この最後のセクションではブラウンフィールド64の全体構造について簡単にお伝えします。
当エリアはその名のとおり、総数64のセクター領域の集合によって構成されています。
先程説明しました人間の思考パターン16種に、自然界における以下の4つを掛けたものが基準となっています。
現実に起こるもの
現実に起こり得ないもの
想定上に起こり得るもの
想定上でも起こり得ないだろうこと
(ただし人間の視点から認識が難しいものも含む)
これは16に4を掛けた64元数の構造です。
ケーリー・ディクソンの構成法では、実部と虚部を使い分け、新たな虚数単位を導入して考えられます。
また、儒教の基本となる易の六十四卦にも通じるところがあるかも知れません。
六十四卦は上経30、下経34で構成されていますが、32ずつの対称とはなっておらず、下経最後の4つ、61〜63には『正しい道を守り続けた場合にのみ利を得られる』、64には『願いは叶うが、無分別に勢いに駆られ途中で力尽きてしまうようでは良くない』という記述があります。
正しい道とは何か。
持続可能とはどういうことか。
我々はこのように考えます。
強く生きるために弱きに気づき、この地で長く戦っていくために些末な戦いを止める。
そのようなコロニーを皆様とともに作り、維持していけることを願っています。
ここまでのご清聴誠にありがとうございました。
それでは、係員の指示に従って入植の手続きを行って下さい。
改めてまして、ようこそブラウンフィールド64へ。
