地図アプリに映らない「見えない壁」の話
お腹と相談する、東京の昼下がり
先日、用事で出かけた東京でのこと。
時刻は午後1時。お腹の虫も鳴き出し、「さて、何を食べようかな」と街を見渡すあの時間は、ささやかな幸せのひとつです。
ふと目に留まったのは、おしゃれな飲食店がいくつか入っているビル。
「あ、あそこ良さそうだな」
直感でそう決めて、私は車椅子を走らせました。
終わらない「間違い探し」のような時間
入り口に近づいたとき、小さな違和感が足を止めました。
「あれ……? 扉がない?」
建物の周りをぐるりと回ってみましたが、目の前に現れるのは数段の階段ばかり。
「別の入り口があるはず」と裏手に回ると、そこは工事中で黄色いテープが張られていました。
「地下からなら行けるかも」と探したルートも、やはり最後は階段でした。
まるで、正解のない間違い探しをしているような気分。
建物の周りを何周もしているうちに、さっきまでのワクワクした気持ちが、少しずつしぼんでいくのが分かりました。
「お断り」という言葉のない、拒絶
「入店お断り」という貼り紙があるわけではありません。お店の人が冷たいわけでも、ビルが意地悪なわけでもない。
けれど、車椅子ユーザーにとって、階段しかない場所は、静かに「あなたは想定されていません」と言われているのと同じこと。
「ここにいたい」という気持ちと、「物理的にいられない」という現実。
その間に横たわるのは、悪意のない、けれど冷たくて高い壁でした。
当たり前が、まだ当たり前じゃない世界
健常者の方からすれば「えっ、都心でもそんなビルあるの?」と驚かれるかもしれません。
でも、最新の地図アプリで「ここ、素敵!」と思っても、実際に行ってみたら物理的に一歩も入れない……。そんな出来事は、私たちの日常に、まだ普通に転がっています。
結局、その日は別の場所でランチをしました。
温かい食事は美味しかったけれど、ふとした瞬間にあのビルの階段を思い出し、少しだけ胸がチクッとしたのも事実です。
「いつか」を、今日から少しずつ
誰もが当たり前に、好きな場所へ行き、好きなものを食べられる。
それは、実はとても贅沢で、そしてかけがえのない自由なんだと改めて実感した一日でした。
いつか、すべての建物の周りを回らなくても、「いらっしゃい」と迎え入れられる景色が当たり前になりますように。
そんな願いを込めて、今日も私は車椅子を漕いでいます。
